君と共に最後の時を咲かす。

夜桜

君と一緒に最後の時を咲かす。

……懐かしい夢を見ていた。

『 ねえねえ、お花綺麗だね想くん!

そうだね、楓ちゃん。

また一緒に来ようね、約束!

うん、もちろん!

想くんにこれあげる!ピンク色のコチョウラン。

ありがとう!

想くん知ってる?これの花言葉はね、あなたを愛していますなんだよ 』

その夢は、大切な幼馴染との1番の思い出だった。


夢を見た日の朝。僕、厚森あつもり そうのもとに一輪の花と手紙が送られてきた。

送り主は、僕の幼馴染である、七瀬ななせ かえで

小さい頃は、いつも一緒にいたが、彼女親の都合で引っ越してしまった4年前以来、1度も会っていない。

しかし、やり取り自体はスマホでしていたが、手紙も花も送られてきたのは初めてだ。

手紙と一緒に送られてきたのは、「金盞花きんせんか」だった。

丁寧にたたまれた手紙を開き、内容を読んだ瞬間、驚きと戸惑い、そして嬉しさが込み上げてきた。

そこには、

「明後日、想に会いに行くね」

と書いてあった。

楽しみという気持ちが大半を占めていたが、その中に少しの疑問があった。

(どうして急に会いに来ることになったんだろう?前もってメールで伝えてくれればいいのに)

しかし、今はそんなことはどうでもいい。久しぶりに楓に会えるのだから、家の近くで楽しめる場所を探しておこう。


それから2日がたった。

手紙に書いてあった通り、楓はうちに来た。

4年ぶりの再会。僕は話たいことを用意していたのだが、彼女の顔を見たら、何も言葉が出なくなった。

彼女は涙を流していた。

僕にあったことに喜んでいるような、それでいて悲しんでいるような顔をして。


ひとまず楓を家にあげて、飲み物とお菓子をだす。

楓は、飲み物を出した時にはもう泣いていなかった。

「急に会いに来るって見た時はびっくりしたけど、会えて嬉しいよ楓」


「うん、私も嬉しい。久しぶり想」


「でも、どうしたんだ?急にうちに来るなんて」


「ちょっと想くんに用事があるって言うか、まあ、ただ会いに来たっていうだけって思ってくれればいいかな」


「…?そういうならそう思うことにするよ」


「うん。そうだ!久しぶりに一緒に出かけようよ。買い物とか」


「もちろん」



2人で話した結果、まずは近くにある、子供の時によく行った駄菓子屋に行くことになった。


「ここは変わらないね」

「そうだな」

二人で好きなお菓子を買い、次に行くところを決める。

「お菓子を買ったなら、行くところは決まってるよね!」

「そうだな!」


駄菓子屋から歩いて3分程度の公園にきた。僕らはいつも買ったお菓子をここで食べていた。


「ここも変わらないね」


「楓がいなくなってから来てないけど、確かに変わってないな。あっ、でもブランコが新しくなってるじゃん」


「ほんとだ。綺麗になってる。そうか、変わっちゃってるのか」

楓は少し寂しそうな顔をしてそう言った。

……やっぱり何かある。4年間離れていたとはいえ、こいつのことはよく知っている。

困ったり悩んだりする時はいつも一人で抱え込むし、それをバレないように隠す。

「…とりあえず買ったお菓子食べよう。そしたらまた別のところいこう。どうせ明日も明後日も泊まって行くだろ?」

「…うん。そうだね、聖地巡礼だ!」

この時、楓がさらに寂しそうな苦しそうな顔をしたのを僕は見てしまった。

「なぁ、楓は何で……!」

「どうしたの?」

…僕は何も聞くことが出来なかった。

彼女が泣きそうな顔をしながら、無理やり笑顔を作って、僕に安心して欲しいとお願いしているように見えてしまったから。


それからは、無言の時間が続いた。

何を話していいのか、聞きたいことを聞くべきなのか否か。それと、楓は何でうちにきたのか。

子供の頃はずっと一緒にいた。幼稚園にも一緒に行って、帰ってきたら一緒に遊んだ。あの頃は、隠し事もなかったし、嫌な事があったら泣きわめいていた。

……もう一度。あと1回だけでいいからあの頃みたいに、嘘も隠し事もなしで話したい。

だから僕はひとつの提案をする。

「楓。お願いというか、提案があるんだけどいいかな?」

「……」

「楓?」

「あっ。ごめん聞いてなかった。何?」

「いや、これから行きたい場所ってある?あるならその後で行きたい場所があるんだ。行ってもいいかな?」

「もちろん!私は行きたい場所あとひとつだけあるよ。でも、そこは本当に最後に行きたいから、先に想の行きたいところに行こう」

「あ〜ごめん。そこは僕だけで行きたい。だから楓は1回家に帰っていてくれないかな。」

「そうなの?わかった。それから最後の場所にいこう」

「おっけー」


楓と別れた僕は、小さな花屋に来ていた。

そこで2日前に頼んだ一輪の花を受け取り、走って、ある場所にその花を隠しに行った。


家に帰って、リビングに戻った時、楓はアルバムを見ていた。それは、僕と楓が小さい頃に一緒に遊んだりした時のものだった。


「ただいま楓」


「おかえり想。勝手に見てごめんね」


「別にいいよ。てか、僕も久しぶりに見たい」

それから30分程アルバムを見ていた。

ふと1枚の花畑の写真に目がいった。


「これ懐かしいな。僕らが初めて会った場所だ」


「懐かしいね。……想覚えてる?私がここでお花渡したの」


「覚えてる。というかこの前夢に出てきた」


「あの時の想の顔面白かったな〜。真っ赤になってた」


「うるさい。というかそっちも真っ赤になってたじゃん」


「私、あのお花畑好きなの。嫌なこととか、全部忘れられる気がして」


「わかる。……もしかして、楓が行きたかった場所ってここ?」


「そうだよ。想と一緒に行きたかったの」


「偶然だな。僕もここに楓を連れていこうと思ってたんだよ」


「そうなの?じゃあ行こうよ!」


「……その前に、聞きたい。楓は僕に何を隠しているんだ?うちには来たかったからきたわけじゃないだろ」


「……うん。もう時間もないし、私の心も落ち着いたしそろそろ本当のことを言わないとね。でも、お願いがあるの。」


「お願い?」


「絶対に私と一緒にあのお花畑に来て。それと、悲しまないで。約束」


「…わかった。約束だ」


「ありがとう。………私ね、もうすぐ死んじゃうんだって」


「は?」



「何も分からない病気なんだって。治らないし、これ以上は看病しても意味がないって。だから最後に想に会いに来たの。ありがとうとさよならを伝えるためにね」


「……そっか」


「驚かないの?」


「驚いてるけど、これ以上話を聞いたりしたら、僕が悲しむから」


「うん。ありがとう」


「よし。行こう。花畑」


「うん!」

湧き上がってきた驚きや悲しみ、恐怖などたくさんの負の感情に蓋をして、楓の手を握り、花畑に走り出した。


15分くらい走り、目的地である花畑まで後少しとなった時、楓に手を引っ張られた。

「どうした?」

「……ありがとう。私を見捨てないでくれて」

「…当たり前だろ。見捨ててとか言われても絶対に見捨てないからな」

「…うん」

「よし、それじゃあ行こう」


小さなトンネルをくぐった先には、あの頃と変わらない、たくさんの種類の花が咲いた花畑があった。

「ここはいつ来ても綺麗だね〜。それに、やっぱり全然変わってない」

「初めてあった時に戻ったみたいだ」

それからは、ただ2人で寄り添って座り、花々を眺めた。

……どれだけの時間がたったか分からないが、ふと隣を見ると、楓が静かに泣いていた。

「ねぇ、想。私まだ生きていたかった。もっと友達と家族と、想と一緒にいたかったよ」

「…僕だってそうだよ。もっと楓と話したかった。遊びたかった。一緒にいるだけで幸せだった」

そうだ。ただ一緒にいるだけで心が暖かくなった。満たされて行くのを感じた。

「悲しまないって決めたもんな。……楓。ちょっとまってて」

「…?うん」

僕は、初めて楓と会った場所に隠していた一輪の花を優しく拾い上げ、ゆっくりと目的の位置に立った。

「楓。こっちに来て」

「わかった」

少し駆け足で近寄ってきた楓が目の前で止まった。

僕は持っていた花をひとつの質問と共に渡した。

「赤色のアネモネの花言葉って知ってる?」

「ううん。知らない」

「これの花言葉はね、 君を愛す だよ」

「えっ?」

「あんな話の後だけど、僕は楓が好きだ。僕と付き合って欲しい」

「…わたしでいいの?もう生きられないんだよ?」

「それでも楓がいい。最後の時まで一緒にいさせて欲しい」

「……ありがとう。こちらこそ、よろしくお願いします!」

「覚えてるか楓。この位置って楓が僕にピンクのコチョウランくれた場所だぞ」

「もちろん!」

「……楓、これからも好きでいさせてくれるか?」

「うん。私以外の人を好きになったら、絶対に許さないから」

涙を流しながら、綺麗な笑顔を咲かせながら、楓はそう言った。

そうして僕らは、初めて会った場所で月明かりに照らされながらいつまでも抱き合っていた。



「お久しぶりです。さくらさん、桐斗きりとさん」

この2人は楓の両親だ。

「来てくれてありがとう想くん。」

楓は、あれから家に戻った。そしてその3日後彼女が亡くなったという電話が来た。

「想くんに渡したいものがあるの」

そう言って、桜さんはひとつの日記を渡してきた。

「これは?」

「それはね、楓が1ヶ月前から付け始めたものなの。余命が伝えられてから書くようになったのよ」

「僕が貰ってもいいんですか?」

「ええ、あなたに貰って欲しいの」

「…わかりました。大切にします」

「よろしくね」

「そうだ。この花を楓にあげてもいいですか?」

「もちろん。楓も喜ぶわ」

そう言って僕は、アングレカムを楓に渡した。


家に帰ってきた僕は、楓の日記を読むことにした。

日記には

「死にたくないな

もっとみんなといたい」

などたくさんのことが書かれていた。

読むだけで心が痛かった。

そして僕の家から帰った日。ここで日記は終わっていた。最後のページを見た時、僕は泣いていた。前が見えないくらいに涙がこぼれた。

最後のページにはこう書かれていた。



「ずっと前から大好きだった人と恋人になれました」


彼女から送られてきた金盞花は萎れ、その横に飾っていたひとつの花に寄りかかっていた。












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君と共に最後の時を咲かす。 夜桜 @yozakularain

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