タケシの村。



「え、嘘じゃん美味ァ…………」


 タケシと名乗ったサバイバーにも牛タンを食べさせて見た結果、俺が正気だと言う事が証明された。


「いや、実際はどうあれ触手のバケモノを食べようとしたのは事実だろ。絶対正気じゃないって」


 証明出来てなかった。ちくしょう。


 そんな感じで焼肉を楽しみつつ、俺たちはタケシと情報交換を行った。その結果、どうやら近くに村があるとか。


「村?」


「そう。滅んで守りにくくなった町なんて使わなくても、守りやすい場所に住めば良いだろって事で村を作ってんだ」


 魔犬やなんやとバケモノが徘徊する場所を奪還するくらいなら、安全な場所を少しずつ拡張していく方が最終的な人的被害が少ないって方針らしい。なるほどね。


 既に出来上がってる廃都を奪還するのに百人死ぬくらいなら、百人規模の村を一年かけて作り上げた方がマシって事なんだろう。確かにその通りだと思う。


 ぶっちゃけ、俺は利益にならない人間をバンバン見捨てるタイプだし、人より食料物資の方が貴重だって考える。でも実際は最低限の養育に十五年ほども必要な人的資源の方がよっぽど希少なのだ。


 例えば大根を80キロ失うのと、80キロの成人男性一人失うのでは、リカバリーに掛かる労力が全然違う。大根は種から一年未満で回収出来るけど、失った人的資源を育て直すには子供を産んで十五年から二十年も掛かるのだ。


 食べ物が無いと人は生きていけない。だけど人が居ないと食べ物に意味なんて無いのだ。本当はいつだって人命を優先するべきなのだが、やっぱり全体的な損得よりも自分の利益を考えると食料を優先しちゃうよね。


「でも、村を立ち上げるって大変だろ? 畜産とかどうすんのさ」


「…………それなんだよな」


 もちろん、人命を優先した結果に支払わざるを得ない対価もあるわけで。


 文明が滅びかけてる今の世の中では、村を立ち上げるのにいくつか問題が存在する。


 村、と言うならば自給自足が出来るはずだと思うが、魔犬やカラスなんかの魔物をタンパク源にしないのならば、畑の存在は必要不可欠。


 ガソリンの精製や輸入が出来ない現状、村全てを食わせる為に必要な大きさの畑を作るのに、トラクター等の農耕作機械も使えず、牛や馬を使った牛耕や馬耕が必要になる。


 だがしかし、今の世界は壊れていて動物が魔物化してる。そんな世界で牛や馬が手に入るか? 精霊化した個体が最低条件なのに?


「もしかして、今は人力?」


「多分、想像してるのとは違うぞ。上げた人間が牛代わりに農耕機材を引っ張って耕してる」


 どうやらタケシ達のコミュニティでは身体能力アップ系の異能をステータスと呼ぶらしい。


 まぁ俺も異能と区分してるけど付けた名前がSTRストレングスとかだもんな。発想はほぼ一緒か。


「どうする? 村に来るなら歓迎するが」


「お、良いのか? 世の中、善人だけじゃ無いぜ?」


「そんな事は分かってる。でもこのご時世、クズはクズである事を殆ど隠さなくなったからな。少し話せばボロを出すんだよ」


「…………つまり、ボロを出さなきゃ善人ってか?」


 確かに、言われてみるとそうかもしれない。自分が善人だと言い張るつもりは無いが、世界が壊れてから隠れクズとか見なくなった気がする。


 唯一それっぽいのはミルクとタクマを追い出したあのビル、ネコが寝床にしてた場所の大人達くらいか。でもアイツらも普通に悪意を隠さずにミルク達を生贄に差し出して来たもんな。


 うん、確かにマジでクズはクズ度を隠さなくなったな。


 世界が壊れて秩序が無くなったから、クズである事を隠す必要が無くなったんだな。


 良い人の振りをして人を助け、食料を一割だけ分けてもらう。……とかするくらいなら、相手をぶっ殺して十割全部奪った方が楽な世界になったもんな。それを罰する機関も残っちゃ居ないし。


「ヤマト、丁度良いんじゃにゃい? 村に行ってサバを流通させて物を売るにゃ」


「あ、確かに」


「え、物資売ってくれるのか?」


 空気になってるゴルドを撫でながらタケシの問いに頷く。


「実は俺達、インベントリ系の異能とか持っててさ。物資は豊富なんだわ」


「はぁ!? え、インベントリってあれだろ、アイテムボックス的なスキルだよな!? ラノベの主人公かッ!?」


 タケシは異能をスキルって呼ぶ派なのか。


「安心してくれ。ハーレムはしてないから」


「お、おうそうか。それは良かった。このご時世にそんな事されたらイラッとして攻撃しちまう…………」


 気持ちはとても分かる。


「それで、物を売るのに新しい独自通貨を流通させてる途中なんだよね。要る?」


 ポケットから出したサバコインを一枚、タケシに渡す。アキナ渾身のレジンアートだから綺麗だろう。まぁ中の透かし彫り彫金は俺がやったんだけど。


「ほぉ、綺麗だな。これが流通貨幣なのか?」


「それ一枚でブロック栄養食が一箱買える感じ」


 軽く説明した後、どちらにせよ村に行かないと物資の購入や貨幣の流通なんて決められないとタケシが言うので、結局同行することになった。


 とはいえ、俺達にも別行動のツレが居るから、あまり長居も出来ないとは伝えておいた。ミルク達をほっといて村に宿泊とかは出来ないからな。


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