まさか美味しいとは。



 ショッピングモール攻略の最中。お昼頃になったから場所を確保し、昼飯を食べる事にした。


 その時、ふと考えた俺はフリルもドン引きするアホな事をしてみる。


「まさかマジで美味いとは思わないじゃん」


 ローパー食べてみた。


「流石に引くにゃ……」


「いや、でもこれ食べた感じ完全に牛タンだぞ?」


 仕留めたローパーを適当にバラして皮を剥ぐと、思ったよりも美味しそうなピンク色の肉が見えた。


 まさかと思って薄切りにして焼いてみると、味わいが完全に牛タンなのだ。


「ネギと塩ダレが欲しい……! ちょっとフリル、メインパークから取り寄せてくんねっ!?」


「それより索敵しながら食べろにゃ」


 カセットコンロで使う為の焼肉用の網を使って牛タンを食べてるが、手が止まらない。ローパーくん、養殖して良い?


「たまんねぇわコレ、乱獲しよう」


「…………ほんとに美味いにゃ?」


「ゎぅ……」


「フリルもゴルドも牛タン食ったこと無いか。食べてみるか? 美味く無かったら俺の事を殴って良いから」


 まだショッピングモール内に居るので周囲を警戒しながらの食事だが、終末世界を楽しむと決めてる俺達は飯だって妥協しない。


「まぁ、そんなに言うなら食べてみ────」


「…………………………人か?」


 ふと、ショッピングモール内に足音が聞こえた。かなり遠いがエコロケで感じ取れた。


 今日までに様々なサバイバーに出会って来たが、こうやって大型施設の攻略中にカチ合うのは何気に初めてかも知れない。


 ジュージューと牛タンを焼きながらエコロケで気配を探り続けると、ローパーに遭遇したらしくて戦闘を始めた。


 ローパーのハイドアウトが強力過ぎてサバイバーの一人踊りみたいになってしまってるが、サバイバーが仕留めたらローパーの気配もポンっと現れるのが追加で面白い。


「……こいつ、異能持ってんな」


「にゃ。まぁ流石に一年も経てば異能使いも増えるにゃ」


 エコロケで見る限りは若い男だろうか? ローパーとの戦いはサイコキネシスを使って瓦礫を上手く盾や弾丸に仕立てた戦法だった。


 他にも異能を持ってるのか分からないが、このまま遠方から観察しよう。そう思ったのに、サバイバーはピタッと動きを止めた後に方角的にはコッチを見て、それから姿を消す。


「…………ハイドアウトを使われたかな。って事はここの常連か?」


「っぽいにゃ。一応警戒しとくにゃ」


 不意打ちされるかもと思ったが、しかしそんな事は無かった。


 俺達がテナントの一角を陣取って何故か焼肉をしてる様子を見て呆れたのか、サバイバーは普通に出て来た。


「アンタら、何やってんだ?」


「見て分かるだろう? 牛タン食ってる」


 男は二十代くらいの若い男で、年季の入った改造ジャージを着てる。手には鉈、背中にはバックパックを背負ったサバイバースタイルだ。


 中肉中背で、顔はフツメン。だけど実力に自信があるのか立ち振る舞いは落ち着いてる。


「ぎ、牛タンッ!?」


 だけど俺の言葉には狼狽してしまうサバイバー。このご時世、牛タンなんて生鮮フレッシュはキャビアやトリュフなんて及びも付かないレア食材だもんな。


「牛タンなんてどこでっ……!」


「あぁ、その辺に転がってるローパーから剥いだんだ」


「ろ……!? お、お前あの触手食ったん!? 正気なのか!?」


 失礼な。


「俺だって悪ふざけのつもりだったよ! でも解体してみたら牛タンっぽくて、スライスして食ったらマジで牛タンだったんだよ!」


「嘘だろっ!? 触手だぞ!?」


「牛の舌だって触手みたいなもんだろうが!」


「………………それもそうか?」


「騙されるにゃよお前。絶対違うにゃ」


「猫が喋ったぁぁあ!?」


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