蝕まれ往く世界。



 元の生物がなんなのかさえ分からない触手型モンスター。


 暫定ローパーと名付けたソイツはもう、間違っても地球産の生物とは言えない完璧なモンスターだった。


「エレクトリカル!」


 鞭のように、あるいは槍のように触手を打ち出して来たローパーに手をかざし、周囲にある商品陳列用の什器じゅうきを磁力で操作して盾とした。


「フリルの旦那を狙うの止めるにゃぁ!」


 その隙に切れたフリルが新型パイロキネシスを乱射する。パイロキネシスは発火の他にも炎を操作する事が可能な異能であり、ライターなどで火元を用意してやればタイムラグが無くなると最近分かった。


 インベントリから無数のライターを出したフリルがサイコキネシスでそれを着火、パイロキネシスで増幅して火炎の砲撃とする。


「ついでだ死ねよラァァァァァアアアアアッ!」


 直撃し、燃え盛るローパーに向かって絶対零度近くまで冷やした氷槍をぶち込む。氷の大きさを工夫する事で爆破規模を操作した水蒸気爆発だ。俺達のメインコンボである。


 そうして弾け飛んだモンスターはびちゃびちゃの肉片と、そして魔石を露出させて絶命。


「…………なんだかんだ、暗殺系の異能は初めてだったな」


「見付けちゃえば大したこと無かったにゃ」


「くぅ〜ん…………」


 狙われて大した反撃が出来なかったゴルドが落ち込んでるが、慰めるのは後だとローパーの魔石を確認する。毒持ちかも知れないので露出した魔石をサイコキネシスで回収し、アクアロードとクリアコントロールで洗浄してから手元に。


「…………あっ、ハイドアウトかこれ?」


 一瞬、新種の魔石かと思ったが違った。鴨川で初めて手に入れてからずっと持ち主不明だったハイドアウトの魔石だ。


 モンスターから逃げられるようになった俺が、気配を殺して獲物を狩る助けをしてくれた地味に有能な魔石である。


「お前から出たのか、これ」


「いや元の生き物わかんないにゃ」


 結局、このハイドアウトを持ってる元の生物が何か分からないままだった。手に入れた時も複合された模様を見付けただけである。


 ハイドアウトの効果を自分が使われて体験するのは実の所初めてだが、育ちきって全力で使われたらこうなるのか。


 そりゃ気配を感じて逃げてたモンスターも俺に向かってくるはずだ。


「パッシブで充分だったから気にしてなかったけど、アクティブで使うとアサシンプレイも出来んのか。…………異能はやっぱ奥が深いな」


 フリルたち獣組は元々備わってる野生のお陰でセルフである程度の気配操作は出来てるが、人間組はハイドアウトが必要だった。


 ミルクも今や主戦力であり、その気配は当時の俺よりも鮮烈だろう。頑張って抑え込んでるが、気を抜くと獲物が逃げ出す事がしばしばあった。


「これはミルクへの土産にしようか」


 探索を再開する。敵の正体が気配を完全に絶ったローパーだと判明したので、頼れるのは己の視覚のみ。俺達は背中を預け合いながら天井までキッチリ確認しながら進む。


 すると、摩訶不思議な物を見つけて止まる。


「…………穴?」


「穴にゃ」


「わんっ」


 そう、穴である。ショッピングモールの通路に、デデンと真ん中に1メートルくらいの大穴があった。


 警戒しながら覗いてみると、。パイロキネシスで灯りを真上に配置しても


 黒くて先が全く見えない、摩訶不思議な穴である。


 しばらく観察してると、その穴からローパーが出て来た。


「こっから出て来んの!?」


 即座にライフルで撃ち殺したが、モンスターが出て来た穴の不気味さが急上昇する。


「フリル、意見を聞きたい」


「んー、無難なとこだと巣穴にゃ? でも、ただの穴には見えないにゃ」


「だよな。…………異界に繋がってるとか?」


 一つ、ローパーについて不審な点があった。


 ローパーの魔石にはハイドアウトしか無かったのである。なんて事、有り得るのだろうか?


「それが、異世界から来たモンスターなら有り得るって言いたいにゃ?」


「荒唐無稽なのは自覚してる。でも、それを言ったら異能が生まれたこの世界その物が荒唐無稽だろ?」


「それもそうにゃ。喋るフリルも、金色に染まったゴルドも、全部が荒唐無稽にゃ」


「ゎう」


 一年も旅して初めて見付けたが、もしかしてこの穴こそが世界の壊れた理由の一つなのでは?


 ここから生物を魔物化させるウィルスみたいなのが漏れたとか、そんな理由ならばある程度は納得出来る。


「ま、そう言うのは偉いやつが考えればいいにゃ。フリル達は元凶が居たらぶん殴るだけにゃ。それ以外は楽しく幸せにスローライフするだけじゃないのにゃ?」


「…………それもそうか」


 本来なら、この穴の向こう側なんかを調査する必要があるんだろう。でもそれは俺達の仕事じゃない。


「ゴルドはどうする? この向こうに仇が居る可能性は無視出来ないくらいには高いけど」


 俺が問うと、ゴルドは静かに首を横に振った。流石に自殺紛いの暴挙をする程は急いでないらしい。


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