ザ・モンスター。
世界が終わった日から、今日で多分一年が過ぎた。
千葉に構えたメインの拠点から旅立ち、東京を制覇中の我々一行は、現在八王子に居た。
「…………世界も遂にここまで来たかぁ」
「もうこれ完全にモンスターにゃ」
場所は八王子。つまり霊園がなんか沢山ある場所で、山とか川とかある場所で、俺達はそこに隠れ家的な場所を作ろうと思ってやって来た。
奥多摩に聳える山とか、そこに千葉と東京の港から大量にパクってきたコンテナを使って別荘を作る。
まず地面を掘って、そこにコンテナを埋め込み、色々と加工したり処理したりで土を被せて地下シェルター。みたいな?
内装も少しずつ凝って、絶対の安全領域みたいなプライベート施設を作ったらロマンだよなって、いつもの俺の欲望が暴走し、ミルクが仕方ないなぁって顔で賛成して、アキナとユキナも苦笑して、そうやって色々やるために八王子まで来たんだ。
そうした俺達の前に広がるこの光景。たぶん死ぬまで忘れないだろう。
「スケルトンは予想外だ…………」
日本は基本的に火葬なので、多分ゾンビは居ないんだろう。基本的にその辺の魔物は人間を殺すと食べるし、食べなくても他の魔物が見付けて食べるからゾンビになれるだけの肉が無い。
いや正直に言うと今日までにもう「完全にモンスター」な奴らをちょいちょい見掛けたし、ゾンビもスケルトンも確認してる。ゾンビも奇跡的に遺体が無事だった場合には発生するらしい。
んで、じゃぁ今は何がダメなのかと言うと、ストレートに数がヤバい。
道という道にスケルトンが居る。いくらなんでも多すぎる。八王子ってそんなに霊園多いの? まぁ多いんだろうな、こんだけ居るんだから。
「もう本当に世界は滅んじゃったんだな」
流石にここまでモンスターチックな存在が蔓延る世の中になって、まだ人類は大丈夫だとか言える奴は早々居ないだろう。
「まぁ良いか」
正味、どうでも良かった。元々愛国心なんて物は持ち合わせてない。国が国民を裏切り続けてたのだから、唾吐かれたって構わないはずだ。
「お兄ちゃん、倒しちゃって良い?」
「ああ、頼むよ。俺はキネシスで落ち物拾うから」
「はーい! じゃぁ二人とも、やるよー!」
「わかったー!」
「頑張るね!」
銀髪をたなびかせたミルクに率いられる二人はアキナとユキナ。名前が似てるし、そのままチーム組ませてミルクに面倒を見させてたら完全にミルクの部下的なポジションになった。
三人が異能を使って氷の矢を雨のように降らせてスケルトンを駆除していく。
そうしてモンスターが死んだ後に地面へと落ちるのは魔石、……では無く謎の物体X。
最初に見た時は本当に謎だった。見た目は黒いボールで、黒い霧のような物を常に纏ってる意味不明なアイテム。
どうした物かと思ってたら、おもむろにネコがパクッとそれを飲み込んでしまった。そうやって判明したアイテムの効果は、使用者の魔力を永続的に微増させるものだった。
そんな訳で、スケルトンが道を埋め尽くしてるおぞましい光景も、それを知ってる俺達にとってはただのボーナスステージだったりする。
俺達は全員魔力の上限が頭打ちになってて、何をどうやっても育たなくなってた。だけどこのアイテムを使うとほんの少しだけ増えるのだ。
「結局、精霊個体は進化しないっぽいしなぁ」
「そうにゃぁ」
ミルクが銀髪になってるのは別に進化した訳じゃなく、フリルとネコのメタモルフォーゼ練習で髪色を変えただけだった。
俺もフリルもそうだし、ネコもそう。ゴルドは進化で精霊に戻った個体なので例外だが、どうやら精霊個体は進化しないっぽいのだ。どれだけ鍛えても進化っぽい事が起きない。
もちろん『まだ』なだけで、これから起こる可能性は残ってる。だけど俺達もう初期に持ってた異能は育て切った感があるんだよな。
ゲーム的に言うならカンスト。何をやっても育たない感覚がある。
今は最近得た新入りの異能をチマチマ使って育ててるけど、初期に揃えたのが強過ぎてモチベーションは微妙だ。
新入りとして良く使ってるのはメタルロードと名付けた異能で、金属類をスライムみたいに液状化させて操れるスキルだ。
能力的にはクリアコントロールと近くて、恐らくは同系統かと思われる。メタルロード自体に金属限定のサイコキネシスがくっ付いてる感じとか本当にそっくりだ。
その異能を使って全身の至る所にタングステンを仕込んでて、有事の際はそれを操って大剣を作る、みたいな動きを練習中だ。
まだ練度が低くて上手くいかないが、これが出来るようになればシャツの下にタングステンの鎧を自分で仕込めるし、フリルかネコが居なくても手元に武器を呼び出せる。
「まぁクリコンの方が使い勝手良いんだけどな」
「なんにゃ?」
「いや、独り言」
メタルロードは金属が無いと使えないが、クリコンはアクアロードで水を出せばいくらでも使える。ガッチガチに凍らせた水を超速度でぶつけたら鉄とか氷とか関係なく生物には大ダメージだし、それで足りなければパイロキネシスでもエレクトリカルでも致死性の異能が沢山ある。
一応は糸のように伸ばした金属にエレクトリカルで電気を流して一撃必殺、みたいな使い方も出来る。タングステンは融点が三千度近いので電流を馬鹿みたいに流しても耐えてくれる。
「俺達も強くなったよなぁ」
もう殆ど命の危険が無い。今のところは、って但し書きが付くけど。
川でワニなのかトカゲなのか分からない水竜的なモンスターも見た事あるから、やっぱりこの先ドラゴンとか出て来たら苦戦するのかも知れない。
そんな時の為にも、やっぱり世紀末サバイバルの基本として物資集めだな。
オリジナルの物資が増えれば増えるほどイミテーターが活きるし、どれだけ手持ちの物資が増えても集めなくて良いなんて事は無い。
と言うか、マジで地上をドラゴンに占拠とかされたら、地下で一生暮らせる程の物資が必要なのだ。インベントリの中は腐らなくても外に出してコピーする時は時間が進むんだし、やっぱり集められるだけ集めるべきだ。
「初心に返るか。奥多摩にセーフハウス作る時はしっかりと物資を集めながらやろうな」
「だからなんにゃ?」
「独り言」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます