突破力。
「白虎!」
ミルクがお得意の白虎を前衛に張って突撃。真綿で締めるような包囲網が強固になる前から突破する算段なのだろう。
崩壊前の姿を色濃く残しつつも人の営みが消えて久しい住宅街を走り抜ける。
「死ねよらぁぁああああああっ!」
正面に出て来る魔犬を白虎が蹴散らし、その討ち漏らしをフリルと俺が受け持つ。
「ミルク砲発射にゃ!」
「フリルおねーちゃんそれやめて!?」
ミルク開発の異能二段式氷槍砲撃の名称についてご本人から待ったが入る中、俺はガルムを背負いながら大剣を振るって魔犬を引き裂く。
ミルクは言わずもがな水系の能力が一番育ってて、フリルはショックサイトやパイロなどが一番だ。
それに比べると俺は最初期から酷使してる肉体強化系が一番であり、下手に遠距離系の異能に魔力を使うくらいならストレングスをブーストして殴った方が早いし強いし燃費が良い。
最近ではそこにバイタリティまで加わったから、パラメータ的には完全にタンクだよな。しかしもっと有能なタンクとしてミルクの白虎が居るので俺は影が薄い。多分このメンツで今最弱なのって俺だろ?
白虎を開発してからミルクの戦力が上がり過ぎてやばい。多分、正面から戦ったら俺負けそう。
俺も白虎を使えるようにはなったが、能力の練度によって差があるのは当たり前のことで、つまり自分で動いた方が強いのだ。悲しい。
背負ってるガルムだって、衝撃波が出るほどの犬パンチが出来たのだし、ストレングスが俺より育ってそうだ。
いやそりゃそうか。俺は割りと初期の頃から様々な異能をゲットしてたけど、魔犬ってかなり高確率でストレングスしか持ってないし、育った個体もインテリジェンスが精々なんだよな。だったら育つ異能が偏るのもお察しだ。
「ミルク砲、発射ァ!」
「おにーちゃんまで!?」
しかし手が足りない時もある訳で、周囲にストックして置いた二段式氷槍をバックアタックを狙う魔犬にぶっ
サイコキネシスで止めてクリアコントロールで押し出すデコピン式は本当に強い。推進力自体の出力はそう変わってないはずなのに明らかに威力が上がってる。白虎と合わせてミルクの偉大な発明と言えるだろう。
「ワォォォオウウウウウウウウッ!」
遠くから遠吠えが聞こえ、明らかに魔犬の行動が変わり始める。ガルムが指示でも出したらしい。
あれが異能なのか、犬としての本能に語り掛けての統率なのか、どちらかなのか分からない。
「チカちゃんも居たら楽だったのに……」
アキナはまだ戦闘要員として扱うには練度が足りないが、上野から一緒にやって来たチカちゃんは余裕で背中を任せられる強者だ。なんでコストロに置いてきてしまったのか…………。
「どうするにゃ? コストロ帰るにゃ? どこかで殲滅するにゃ?」
「障害物の少ないエリアに誘い込んで殲滅したい。何故かお怒りのセカンドガルムを連れて帰りたくないだろ」
突破力だけならミルク一人で事足りる。白虎二積みは伊達じゃない。
世界最大の虎はベンガルトラ、もしくはアムールトラであり、奴らは全長が3メートル近い化け物だ。飼育下と野生下でどちらが世界最大のネコ科なのかと議論が起きる事もあるが、取り敢えずミルクの白虎はそれ以上にデカい。
尻尾を抜いても3メートルオーバー。尻尾を含めれば四メートルを超える体長は、マジで化け物としか言えない迫力がある。大の大人が縦に二人も寝転がってすら追い付けない大きさなのだ。当然体重も相応だろう。
そんな化け物が二頭居る。そこを退けよと爪を薙ぎ払って全てを切り裂く悪魔が居る。
「お陰で移動は問題ないな」
討ち漏らしをちょろちょろと処理するだけで、基本的にはミルクの後を追うだけで事足りる。魔犬の包囲? 足りねぇよ重戦車持ってこいや。
崩壊した街並みを走り抜けて目指すは適当な広場。駅前のロータリーでも大型店舗の駐車場でも何でも良い。
コストロの駐車場も条件を満たすが、そこを戦場にするのは気が引けると言うかやったら戦犯確実だと思うのでやらない。
「おにーちゃん、あそこで良い?」
「お、良さげだな!」
途中、大型のインテリアショップが見えてそこに乗り込む。駐車場もかなり広いから戦いやすいだろう。
包囲戦に対するアンサーとしては逆張りに過ぎるが、魔犬と俺達では基本的にスペックが違うので、むしろ隠れる場所が有ると敵に利用されて困るのだ。
少数はこっちなんだが、抱えてる戦力的にはマジョリティなんだよ俺ら。逃げ隠れされて困るのもこっちなので、広々として視界が通ってる場所の方がやり易い。
「さぁて、ここで良いだろ」
駐車場に乗り込み、一番広い場所に陣取ってから背中のガルムを降ろす。
「少しだけ待っててくれな。すぐ終わらせるから」
悲しみの中で溺れ続けてるガルムの頭を撫でる。この子は一度メインパークに連れて帰った方が良いかも知れないな。静かな場所で心の療養をしたら良い。
その為にも、今は襲って来るセカンドガルムとその手下をぶっ飛ばさないとな。
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