解決方は漢防御。



 あれから三十分ほど戦闘……、戦闘? いや戦闘で良いか。戦闘を行った。


 俺としてはガルムを傷付けたくないので、その戦闘法として選んだのはガンジー戦法だった。


 実際に歴史の偉人ガンジーがノーガード戦法だったかは知らないけど、しかし有名なのでガンジー戦法と呼ばせてもらう。


 どんな方法かと言えば、バイタリティをブーストしながらガルムの前に立ってひたすら耐える。ボッコボコに殴られながらも耐える。耐える。耐える。超耐える。


 最後はガルムを抱き締めながら、噛み付かれ引っ掻かれながらもガルムをひたすら撫でた。落ち着くまで撫で回した。


「よーしよしよしよし」


 バイタリティがあっても引っ掻き傷が蚯蚓脹みみずばれしてるのだが、そんな事は気にせずガルムを撫でて撫でて撫でまくった。


「良いか、お前は悪くねぇ。何も悪くねぇ。いいかよく聞け? 悪いのはお前の体を乗っ取ってお前の家族をぶっ殺した奴だ。お前の体を魔物に作り替え、家族に牙を向けるように仕向けた奴だ。お前がただの犬だったなら、きっとお前と家族は今も幸せに暮らせただろうさ。だから、お前を魔物にした神様とか魔王とか、そんな存在が居るのか分からねぇけどソイツらが悪い」


 とにかく宥めた。必死に宥めた。だってコイツ悪くねぇもん。


 俺が魔物をぶっ殺して平気なのは、ソイツが魔物だって思ってるからだ。中味がもう普通の動物じゃないんだ。何かスピリチュアルな存在に体の操作権をパクられてると言っても良い。


 なら、この世の中をそんな風にした奴が悪いだろ? この子は何も悪くないだろ? 仮に悪くても悪くねぇんだよ。


 襲って来るなら殺すけど、こっちが襲わせてしまったなら一考の余地くらいはあるべきだろ。


「落ち着け犬っころ。俺はお前が家族を殺しただなんて思ってない。だってお前はその時、自分の望むように体を動かせたのか? 違うだろ? 自分で動かせたならこんな結果になってないはずだ。だったらお前は体を奪われてたんだ。その奪った奴はご丁寧にその間の記憶を残して去って、お前を苦しめてるだけなんだ。ここでお前が苦しむと、お前の家族を殺した奴が喜ぶだけだぞ」


 論法も理論もめちゃくちゃで良い。だって既に世界がめちゃくちゃなのだ。今更なにやら正しそうな法則だの推測どの要らねぇんだよ。


「お前は泣いて良い。怒って良い。嘆いて良い。家族を殺された事に復讐を誓って良い。断言する、お前は殺してねぇ。絶対にお前じゃねぇ」


 三十分の戦闘にプラス、三十分の撫で撫でタイムを経て、俺とガルムの衝突は終わった。


 俺の目の前には、まるで人間のように咽び泣くガルムが居る。金の狼は天に吠えず、家族が還った地面にく。


「なぁ、犬っころ。俺達と来ないか? お前が一人で泣いてるの、多分お前の家族は喜ばねぇぞ」


 月並みな言葉しか出て来ないが、それでも俺はコイツを放っておけない。


「ヤマト……」


「なぁフリル。良いよな、連れてってもさ」


 俺は、えぐえぐと鳴き続けるガルムを無理矢理担いだ。おんぶする様に背負うと、そのまま歩いてコストロへと向かう。


「もう、無理矢理でも連れて行くからな。拒否は認めん。嫌なら俺を食い殺して逃げろ」


 俺が歩く後ろを皆がついてくる。まぁ今日の探索はこの子が目当てだったしな。見付かったなら帰るのは当たり前だ。


 ふと、視線を感じた。メンバーの誰かかと思って振り返ると、どうやら違った。


「…………もう一頭か」


 遥か遠くに見える民家の屋根から、背負ったガルムとは別個体の『金の狼』が見えた。確かに、何頭か進化を見たって言われたな。つまりアイツか。


「……なんかあいつ、睨んでるにゃ? 生意気にゃ。ぶっ殺して来て良いにゃ?」


「どうかね。この子の仲間かも知れん」


 遠くから見る別個体の双眸は、恐ろしい程に憎悪がへばりついていた。なんでやねん、俺無実やぞ。


 見逃してくれるならそれで良かったんだが、生憎とそうはならなかった。


「お兄ちゃん……」


「分かってる」


 周囲に突然、魔犬が集まり出した。余りにも不自然なタイミングであり、あっちのガルムが何かしてるのは明らかだ。


 統率系の能力か? それがガルムの金魔石か?


 分からない。分からないが、とにかく戦闘は避けられそうにない。


「上等だ。囲む程度で俺達が狩れると思ってんなら、思い上がりも甚だしいぜ」


 襲って来るなら殺す。どんな過去を持ってても、同情に足る事情があっても、襲って来るなら殺し返す。


 今背負ってるこの子とは違う。俺達が刺激して暴走させてしまったワンチャンの甘噛みじゃなく、俺達を噛み殺そうとする駄犬が相手ならば手加減なんてしてやらない。


「犬っころ。少し待っててくれな」


 俺は剣を抜き、フリルは火の玉を生み出し、ミルクは白虎をスタンバイ。


 来るなら来い。袋叩きにされるなんざ、この世界が始まってからずっとそうだった。今さら何の痛痒も覚えやしねぇよ。


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