タイミング。



「敵は何処にゃぁ!? そこにゃぁあッ!?」


「ちょ、フリル待──……」


 タイミングは最悪だった。


 失意に沈むガルムちゃんに対して懐柔かいじゅう出来ないかと手を伸ばす俺と、さっき俺が叫んだセリフで『敵が居る』と判断して乗り込んで来たフリルの異能。

 

 そして俺に対してどう反応するのが正解か思い悩んでたガルム。それぞれがほんの些細な切っ掛けで破裂する爆竹みたいな条件だったのに──……


「グルゥアアアアアアアッッ……!」


 俺とガルムの間に刺さった氷の矢が、その爆竹に容易く火をつけてしまったから。


「ちょ待て待て待て待てマジで待ってッ!? ガルムさん一旦落ち着い──」


「ルァァアアアアアアッッ!」


 果たして、目の前に居るわんわんおは強かった。進化した魔物と言うのも頷ける程に。


 ガルムが繰り出した右フックは容易く衝撃波を生み出し、触れずに俺を民家の外までぶっ飛ばす。


 ついでに俺が侵入した場所から入ってこようとしてたフリルも一緒に、ブロック塀ごとぶっ飛ばされて外へ投げ出される。


 その代償として民家もズタズタになってるが、もうガルムにとって守りたかった人達は土の下である。今更、箱が壊れたからなんだと言うのかって事なのか。


「もうフリル! これ戦犯だからね!?」


「えっ、これフリルが悪いにゃ!? 納得出来ないにゃ!」


 プンプン怒ってるフリルも可愛いが、俺をぶっ飛ばしてガルムのお宅に突っ込ませたあげく、懐柔策を走らせてる時に突撃カマしたんだから間違いなく戦犯だよ。


 まぁそんなフリルも愛おしいんだけどな!


 幸い、バイタリティ持ちの俺が前に居たからフリルにダメージらしいダメージは無く、俺もバイタリティの効果で大した痛手じゃない。異能のブーストでしっかり守ってた。


 ブロック塀を破壊しながら外に叩き出された俺とフリルは、すぐ近くに居たミルクにそのまま合流し、叩き出した俺とフリルを追って外に出て来たガルムと改めて対面する。


「で、ヤマト? あれなんの異能にゃ? もしかしてショックサイトにゃ?」


「いや、多分ストレングス」


「…………マジにゃ?」


 確かに、フリルのショックサイトそっくりな攻撃を受けたが、俺は攻撃する瞬間のガルムを見てる。


 その時のガルムは目が光ったりしてないし、そも衝撃は目じゃなくて前肢から繰り出されてた。


 まだ確証は無いが、たぶん『衝撃波が出せるくらい強いストレングスで空気をぶん殴った』んだろうと思う。


 …………いや自分で考えてても何言ってんのか分かんなくなるの最高に世紀末だよな。まさに世も末って奴だ。

 

 衝撃波が出せるくらい強く空気をぶん殴ったってなんだよ。アホか。字面が最高に意味不明だろ。


「てことは、金魔石並に育ってそうなストレングスだけで厄介なのに、他にも未確認のレア持ちって事にゃ?」


 分からない。分からないが、分かったところで仕方ないんだよな。だってガルムちゃんやる気満々だし。


 金魔石を持ってるから金なのか。それとも進化したから異能に関わらず金なのか。それが判明したところで、戦うという結果は変わらない。


「全員、散会! なるべく攻撃しない方向で!」


「なんでダメなのにゃ!?」


「あの子は精霊だったんだよ!」


 争わなくて済むならそれで良いし、なんなら貴重な情報源だ。魔物から復帰したって予測が正しいなら、魔物側の情報も手に入るのは大きなメリットと言える。


 俺達はまだ、この世界の異変について表面的な事しか分かってないんだから、手に入る情報はなんだって手に入れるべきだ。


 別に世界を救うとか、そんな大きな事を言うつもりは無い。ただ、俺が今後たのしく遊ぶためには、世界を正しく知る必要があると思うのだ。


「グルァァアッ!」


「なんで俺ぇ!?」


 戦いが始まる。


 攻撃まがいのことをしたのはフリルなのに、何故かヘイトが一番高いのが俺だった。


 ガルムが俺に向かって突進、そして前肢による引っ掻きを繰り出し、俺は強化系異能を全てブーストして攻撃を捌く。


 攻撃一つ一つが洒落にならない重さを伴っている。やはりガルムのストレングスは育ち方が異常だ。


 敵なら大剣で斬るんだけど、ガルムを攻撃する訳にもいかず素手で捌く。お掛けで装備がどんどんボロボロになっていく。


 無事なのは鵺の毛皮くらいか。改めて鵺の防御力ってやばかったんだな。


 こんな事なら、恐らく同じ異能持ちだったかも知れない空飛ぶ馬の皮も確保しとくべきだったな。馬の臀革コードバンもきっと素晴らしいものだったに違いない。


 なんて、現実逃避してたらガルムのベアナックルが俺の顔面を穿つために迫って来る。インテリジェンスのブーストで知覚速度域を引き上げてるから分かるだけで、そうじゃなかったら何をされたか分からない内に頭が弾け飛ぶだろう。怖過ぎる。


「ああちくしょう! 良いさ、とことん付き合ってやるよ! せっかくだから出し尽くしやがれ!」


 半ば自棄やけになって叫ぶ。


 こうなりゃ元気過ぎるわんわんおとハチャメチャに遊び尽くしてやんよ! ドッグランを駆け回る子達みたいなもんだろちくしょう!


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