さらばだ愛車。



「せっかく作ったのに……」


 ミルクが新技を開発した日から数日。俺達はまだコストロに居た。


 方針としては進化モンスターを確認してから旅の目的地を決めるって事になり、ならば必要だろうと思ってコストロ防衛に協力しながらも俺達はミルクの新技を習得する為に時間を使った。


 あれからミルクは更に異能を鍛え、今では白虎と白竜を同時に操れるまでになってる。白竜とはティラノ型の事だ。


 白虎の背中には氷の冷気を通さないように断熱材をふんだんに使った鞍が取り付けられ、ミルクはその背中に跨りながら白虎と白竜を同時に操って戦う。ぶっちゃけ鬼強い。


 フリルは乗り込み式……、乗り込み式? まぁ乗り込み式で良いか。乗り込み式白虎の操作にハマって操作練度を上げてるし、俺とアキナも一体ずつなら白虎と白竜を操れるようになった。


 デコピン式氷槍は異能を組み合わせるだけなので簡単に習得出来たし、能力の向上は著しい。


 ただ、俺とアキナは白虎を移動用、戦闘用に白竜を使うような形で運用してるから、トレーラーの出番が無くなった。


 移動したかったらそれぞれが白虎出せば良いんだし、物を売る時もフリルが居れば品物は提供できるしな。


 そも、トレーラーの役目って「それっぽさが出る」以上の事って移動の足になる事だけだったんだよな。


 全員が気軽に使える足を手に入れた事で、トレーラーはその価値を失ってしまった。さらばだ愛車よ。


「うぅ〜、おにーちゃん! 魔力が増えないよぉ〜!」


「流石に頭打ちか? 取得魔石増やすと魔力も増える感覚あるけど、新魔石探して見るか?」


「うんっ!」


 今日も今日とてコストロ周辺でレイダー狩りだが、ミルクは爆上がりしてる自分の戦力に満足いってないらしい。


 ミルクは白虎と白竜を同時に操れるが、それはだけであって出来る訳じゃない。


 そも、水を生み出すアクアロードと水を操るクリアコントロールは別の異能であり、質量の無い魔力から水を、つまりゼロから物質を生成してるアクアロードはかなり燃費の悪い魔石であり、巨大な戦闘用ゴーレムみたいな氷像二体分の水を生成するのは相当な負担がある。


 もちろん、水を出すだけなら出来る。しかしクリコンも異能で有る以上は使用に魔力が必要だ。


 それも巨大な氷像を操るとなれば相応の消費がある訳で、『巨大氷像二体分の水生成』と『巨大氷像二体分の操作』は、魔力的にまだ両立出来なかった。


 今は俺が複製したペットボトルなどを利用してアクアロード分の魔力を節約してる訳だが、ミルクにはそれが悔しいらしい。


 とは言え、ミルクの言ってることも事実だ。


 なんか、最近はどれだけ魔力を使っても増える気配が薄い。


 と言ってもゼロって訳じゃないが、今までなら一日みっちり魔力を使えばハッキリと魔力が増えたのを知覚出来たのに、現在は三日ほどみっちり使ってやっと「……ふ、増えたよ、な?」くらいの成長度しか感じられない。


「そも、俺達は魔力を使い込めば成長すると疑って無かった訳だが、もしかしたら条件が違ったのかも知れないし」


「……どういうこと?」


「例えば、魔物を倒した時に俺達のレベルがこっそり上がってて、使えば使うほど魔力が増えたのは『レベルアップして成長可能限界が上がってた』だけかもしれん」


 つまり、俺達にはレベルって言うマスクデータが存在して、レベルアップするとステータスの伸び代が増えてたのかも知れないって事だ。


 レベルが一つ上がると500ほど成長させられますよってところに、俺達は『使えば使うほど魔力が伸びるぞガハハハハ!』と喜んでモンスターを倒し、そしてまた人知れずレベルが上がって、また成長させてた。みたいな?


 で、今はそのレベルアップが頭打ちになってて魔力を伸ばせなくなってるのかも知れない。


「…………なる、ほど?」


「まぁ答えなんて誰にもわからんのだけどな」


 ラノベよろしく「ステータスオープン!」とか言ってもステータス画面が出て来てくれる訳じゃないし。ちなみに一応試してみてある。ダメだった。


 魔石を摂取するとボーナス経験値とかあって、そのお陰で魔力を伸ばせてたのかも知れないが、証明出来ない以上は机上の空論かつ悪魔の証明だ。


 なんなら『有る』事さえ証明出来ないんだから悪魔の証明よりタチが悪いかもな。


 悪魔は実物を連れてくれば「居る!」と証明出来るが、存在しない事を証明するには世界中津々浦々を探し回らないとダメな訳で、そしてそれは実質不可能な事だから悪魔の証明と呼ばれる。


 しかし、レベルなんてマスクデータはそもその証明のしようがないので、『有る』事さえ示せない。


 検証を重ねて「ほぼ実証済み」となっても、それは「ほぼ」であって確定では無いのだから。


「んー、どうせなら鑑定系の異能とか転がってねぇかな。ステータス暴けるタイプの」


「ヤマト、ラノベの読みすぎにゃ?」


「フリルはフリルで人間のカルチャーを理解し過ぎだろ」


「伊達にヤマトの相方やってないにゃ? 部屋にあったタイトルは全部覚えてるにゃ」


 マジかよ。ラノベ全部把握されてるって事は、俺の性癖も把握されてると見ていいだろう。


 俺、嫁に性癖把握されてます。


「ヤマトはメス臭いメスより、守ってあげたくなる弱々しいメスが好みにゃ?」


「色っぽいお姉さんキャラを『メス臭いメス』って評するの止めない? ミルクも居るんだし」


「あとケモ耳好きにゃ? フリルが猫耳美少女になる日を楽しみにしてると良いにゃ」


「うーん…………、おれ確かにケモ耳好きだけど、フリルはどんな姿でも大好きだからあんまり変わらないと思うぞ? なんなら今のフリルが一番可愛い──」


「うるさいにゃぁあ!」


 照れたフリルが俺の白虎をぶっ飛ばしてから走って逃げた。俺は白虎ごと吹っ飛んで民家に突っ込んだ。


「…………ワゥ?」


「…………やぁ、こんにちは」


 突っ込んだ先には犬の魔物が居て、突然の闖入者に驚いていた。


 その犬の毛並みは、金色だった。


「────ってガルム居たぁぁあッ!? 居たぞぉぉおぉおッッ!?」


「ガルゥアッ!? グルルルルルァァアア!?」


 エコロケにも一切の反応が無かった民家の中に、探し求めてた相手が居た。


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