白虎。



「嫌だっ、嫌だ嫌だ嫌だ死にたくねぇそんな死にか--」


 白い獣が荒れ狂う幕張で、その断末魔が虚しく木霊こだました。


 大きく、太く、獰猛な死の化身。ベンガルトラよりも巨大な躯体でモヒカンレイダーに襲い掛かるのは白い虎。


 まるで鎧でも着ているかのような分厚い装甲をその身に纏い、人では決して抗えない体重で人を踏み付けながらもその頭を咥えて食い千切った人喰いのバケモノ。


「……死にたくなかったら、略奪者レイダーなんてやらなければ良いのにね。ねっ、おにーちゃん?」


「まぁ、そうな。殺す側に居るんだから、殺されても泣くなよとは俺も思う」


 そんなバケモノを操る我らのヒーロー、ミルクちゃんが俺にそんな事を言った。全く同意なので俺は頷く。


 俺達の目の前でレイダーを相手に暴れ狂う純白の虎だが、あれはモンスターじゃなくてクリコンで操ってる『氷の虎』だ。


 中には水が詰まってて、外装を凍らせて鎧とし、例え撃たれても中身は水なのでノーダメージって言う鬼畜仕様。というか異能で操作してるだけの水と氷だから、そもそも『死ぬ』って概念が存在しない。


 なんと酷い存在なのか…………。


 クリコンによる見世物でコストロのサバイバー達を元気付けてたミルクだが、あの後声をかけたら二つ返事で一緒に行くと言ったので結局そのまま外に来た。


 すると、芸を披露してた時に思い付いたというこの『氷の虎召喚・操作』でコストロ周辺に居るレイダーを虐殺し始めた時は、さしもの俺だって乾いた笑いが出たぜ。


 アクアロードで生み出した水を虎の形に仕上げ、それをキンッキンに冷やして氷にしたミルクは、骨組み兼駆動部である部分に水を残して『動く氷像』を実現して操作してるのだ。


 結露なのか霜なのか、真っ白に染まったその姿は縞模様の無い白虎びゃっこであり、先程コストロで聞いたモンスターの進化現象の事もあって物凄くファンタジー感が増した気がする。


 しかし、その神々しいまでに白い姿も今や返り血に染まって真っ赤である。


 口からドプドプと、食い千切ったレイダーの血を垂れ流す姿は中々に恐ろしいぞ。異変前にこんなん遭遇したら失禁する自信があるぜ。


 そんな姿も少し待てば、ミルクが虎の内部から出した水で洗い流されて綺麗な姿に戻るのだが、血濡れの姿とのギャップさえも恐ろしい。


 もはや、神々しさに畏怖が混ざってさらに神性を増しそうでさえある。


「レイダー、おおいね」


「本当にな」


 そんな若干ビビってる俺の隣を歩くミルクが言う通り、コストロの周辺はマジでレイダーが多い。


 お陰で今のコストロは周辺の駐車場にサナダ隊がローテーションで常駐し、ずっと外を睨んでハイペースに巡回を続けざるを得ない状況だ。


「嫌だ食うなヤダ死にたくねぇ食べないで嫌だァァあああッッ……!」


「クソ化け物がぁぁああああああッッ!」


「コレでも喰らえぇぇえええええええええ!」


 ちなみ、周辺に地獄絵図を生み出してる虎だが、実のところ二頭居る。


 ベンガルトラよりも大きな虎を操作してるミルクは、だが流石に総量が多過ぎて異能のスペック的にも魔力的にも、今は白虎を一体作るので限界だそうなんだが、じゃぁ二頭目は何かって言うと、フリルだ。


 ミルクの白虎を見たフリルはその異能の使い方がいたく気に入ったらしく、なんと


 多分、白虎の中にある水をサイコドライブによって『快適な温度かつ呼吸可能な水』って事に改変してるんだろうな。


 さながらL○Lに満たされたエン○リープラグでエヴ○を操作してる感じだろうか。


 違うのはエ○トリープラグその物が機動兵器化してるところだよな。


 フリルin白虎もミルクplay白虎も、どちらも変わらずに大暴れしてる。


 今も住宅街の角から出て来たレイダーの胴体をぶっとい前脚で引っ掻いて真っ二つにしたところだ。此処は地獄の三丁目か?


 俺としてはフリルin白虎は中に弱点となるフリルが居る分だけ危険なのでやめて欲しいが、フリルがめちゃくちゃ楽しそうなので何も言えない。


 ミルク白虎は、言ってしまえば自動修復する以外ただのドローンなので、どれだけ撃たれてもノーダメージなのだが、フリル白虎の場合は中にフリル本体が居るから、中のフリルに弾が当たればそれは明確にダメージなのだ。


 まぁフリル自身もそれは分かってるだろうし、外装、水、内部装甲、水、みたいなミルフィーユ式の防御装甲で安全は確保してるみたいだけども。


 それに水の部分も常に流動させる事で弾の威力を削ぐ形らしく、俺が思うよりもずっと安全らしい。水って速度によって硬さが変わる変な物質だし。


 …………ん、俺? 俺はバイタリティの確認がてらワザと撃たれたりして強度確認中だ。


 まずは手頃な手とか腕を撃たれるところから始まり、大丈夫そうなら足とか胸とかも撃たれるように立ち回ってる。


 久しぶりに大剣をぶん回しながら戦ってるけど、獲物の大半は女子二人に取られてる。


 …………白虎が有能過ぎるな。今度俺も練習しよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る