大道芸。



「おにいちゃんあそんでー!」


「おかしちょーだーい!」


「いのーみせてー!」


「はいはい。分かったから落ち着け。……あれ、ユキナは?」


 滞在期間は未定だが、最低でも数日は厄介になると決めたコストロで、俺も周囲探索の用意をしているところだ。


 弾倉マガジンに弾薬を入れっぱなしだとバネがヘタって給弾不良とか起こす原因になるらしいので、オリジナルの弾薬とマガジンを保管する時は弾を抜いてるのだが、今は空のマガジンに弾を詰めているのだ。


 コシュコシュと手作業で弾を詰めてる場所がちょっと悪く、コストロの子供達が俺に群がってくるのだが、適当にお菓子を配って機嫌を取る。


 子供はお菓子さえ食べときゃ騒がないからな。……食べてる間は。


「ユキナちゃんはねぇ、あっちでミルクおねーちゃんとお喋りしてたよぉ」


「ん、ミルクと?」


 マガジン四本に弾込めが終わってチェストリグに挿したら、子供が指さす方に視線を向ける。まぁパレットに積まれた物資とかが邪魔で見てないんだけども。


 ユキナは俺のお嫁さんになるとか言ってた子なので、すぐにでも絡みに来ると思ってたのだが、まさか本当に二ヶ月ほどで忘れてしまったのだろうか?

 

 それはそれで構わないのだが、「お父さんのお嫁さんになる!」と言った娘が反抗期を迎えた父親のような寂しさを若干感じてしまうのはなんなのか。


「ミルクは完全異能型のサバイバーだから準備も少ないんだろうけど……」


 まだコストロに到着した当日だが、少し周辺を見て回ってレイダーやグールを潰しつつ進化モンスターを探すのだ。それにミルクを連れて行く気満々だったのだが、子供達と遊ぶ予定ならやめた方が良いだろうか?


 俺としてはミルクはバリバリ戦闘要員扱いであり、連れて来てる人間の中では背中を預けるに値するメンバーなのだが、それでもミルクは子供である。


「ふーむ、気を使った方がいいかな?」


 そんな事を考えつつ、傍に居るフリルのインベントリから大剣を出してもらってそれの整備もする。


 整備と言っても研磨剤を混ぜた水をクリコンで操って磨くだけなのだが、それでも刃物には変わりないので子供達には触らないように言い聞かせる。


「でっかいけん! かっけー!」


「それよりおじちゃん、チョコちょーだい?」


「もう! おじちゃんじゃなくておにいちゃんだよ!」


「いや別に、おじちゃんでも別に良いぞ。全然気にしないから」


 大剣の整備も終わって、次は新装備手投げ斧トマホークを二つ腰に提げ、蛮刀も研いでから腰の後ろに装着する。これで準備完了だ。


「さて、ミルクはどこかな」


「えー!? おにーちゃんいっちゃうのー!?」


「やだー! あそんでよー!」


「はいはい、帰って来たら遊んでやるから」


 俺は子供達を適当にあしらってから立ち上がり、コストロの中を歩いてミルクを探す。


 猫組が強過ぎるだけで、ミルクは人間の中だと普通に強者だ。


 予定が無いなら是非連れて行きたいが、どうだろうな。年相応に遊んでて忙しいっていうならフリルだけ連れて行こうか。


 ちなみにチカちゃんもまた別の場所で子供達に捕まってる。チカちゃんはフリルより子供好きなので、構われたら構ってしまうので暫くは放っておこう。


 アキナや吉崎一家はコストロのメンバーと交流するために残るだろうから最初から数に入れてない。そもそも戦闘員じゃない。


 吉崎一家に関してはコストロの一員になるんだし、尚更だな。


「お、いたいた」


 コストロを歩いてミルクを探すと、入口付近に居るのを見付けた。


 そこでミルクは多くの人に囲まれながら異能を披露してた。


 ミルクの異能で象られた空を泳ぐ水の魚や空飛ぶ氷の鳥が、縦横無尽に宙を踊る幻想的な景色がそこにある。


 子供も大人も夢中になってそれを見て、ミルクは楽しそうにそれを披露してた。


「…………見事なもんだな」


「本当にゃぁ」


 それはハッキリと芸術で、一つの演目だった。


 鳥や魚の他にも、ただキラキラと輝く氷の欠片がスターダストのように煌めいてる。


 あまりにも綺麗な景色に、俺はミルクに声をかけるのも忘れて見とれてた。


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