避難所の状況。



「ああヤマトさん、お久しぶりです」


「ヨシダ館長もお久しぶり。皆、元気そうだね?」


 サナダ隊長に案内されてやって来た館長室で、ヨシダ館長とご対面した。


 館長室とかご大層な呼び方をしてるが、実際は店長室だか応接室だかを勝手に館長が使ってるから館長室なのだ。


 ちなみに、アキナ達は全員着いてきてる。ミルク以外の人間組は全員ここが初見なので、倉庫店舗側に残ってろと言われても困るんだろう。


 知り合いとか居ないもんな。


「元気ですよ。お陰様でね」


「弾薬とかはどう? 持ちそう?」


「クソどものせいでかなり減りが早いですね」


「実際どうなの? クソが群がってる割には元気そうだけど」


 とりあえず情報交換と状況確認から始める。コストロを商売相手とするか、商売仲間とするかは今のところ決めてないが、潰れて欲しくない避難所であるのは間違いない。


「初期の頃は探索について行った子供が被害に遭いかけましたが、それ以降は普通に撃退出来てるのでね。ただ邪魔なだけのクソって感じなのですよ」


「え、子供は大丈夫なん? なんで探索なんか……」


「親の探索に隠れてついて行っちゃったんですよ。異能があれば大丈夫だってね」


「なるほど…………」


 流石にそれ以降は子供の脱走は無いから大丈夫らしい。


 レイダーも、持ってたとして拳銃レベルが基本だから脅威度も低いそうだ。


「他にも、上階の駐車場や屋上に土を盛って畑を作ったのですが、そっちがある程度の成果が見えましてね。最近やっと、久しぶりに生鮮を口に出来たって言うのも精神的には大きくプラスでしょうね」


「おお、畑あんのっ? 後で参考にしたいから見せてね」


「是非」


 とりあえず、レイダー被害は今のところ「無限に増えてマジでウザイ」以外は大したこと無いらしい。頑張れば子供でも追い払えるレベルだとか。


 さすがに銃を相手に子供を前に出したりはしないが、戦力差的にはそんな感じだと言う。


 こっちが攻めの姿勢を見せるとすぐに散開して隠れ始めるので、殲滅するにも時間が掛かるし物資を余計に消費する。


 だから今は防衛が基本って事なのか。


「アレがレイダーの戦術だと言うなら結構がっちりハマってるので困った物ですが…………」


「そんな感じはしないよな。ただアホがアホっぽく集まったら連鎖反応したみたいな……」


 マジで被害が無いらしいから安心した。ひとまず現状確認はこんなもんか。


「それで、ヤマトさんはどうしたのです? お連れの方々も初めて見ますけど」


「ああ、それについても報告するよ。館長的にも悪い話じゃ無いはずだ」


 今度は俺が現状報告を行った。


 まず鴨川の方でメインパークと名付けた避難所を設立。設立って言うか既にあった避難所を再建したってのが正しいが、今はどっちでも良い。


 それから独自の通貨を作って商売の真似事を始めた事と、その過程で色々と人を助けたりした事も報告。その結果が後ろにいるメンバーだ。


「それで、吉崎一家の方は此処で受け入れて貰えないか? 受け入れに対価が必要なら物資は出すが……」


「受け入れ自体は構いませんよ。物資も貰えたら助かりますが。…………ふむ、それにしても販売式ですか」


「ただ物資を貰えるだけの状況だと、人心が腐るだろ?」


「それも確かに……」


 何もしなくて良い状況に慣れると、人はマジで何もしなくなる生き物だ。


 なんなら、この極限状態がデフォルトって言うご時世に於いて、異変の前より何もしなくなるくらいだ。自分は被害者なんだから利益を得て当然って言う考え方が国民性の根底に有るんだよな。


 その利益を提供してる俺達も同じ立場なのに。


「魔石もそうだけど、育てた野菜とかも余ってるなら買い取るよ」


 魔石の買い取りや、野菜や食肉なんかの生鮮買い取りを基本に考えてる事も喋る。

 

 こっちは一度オリジナルを手に入れたらソレがダメになるまでは複製し放題だと言う事はヨシダ館長も分かってるからな。


「野菜の買い取りは正直嬉しいですね」


「個人的には魔石の方が欲しいけどな。野菜はメインパークの方でも育て始めるし」


 お互いに隔意が無いからか、なんともゆるーい感じで報告と商談が進む。俺達ってこんな感じだったっけ?


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