放浪の理由。



 唐揚げ弁当で腹を膨らませた俺たちは、一旦腰を落ち着けて話し合う事になった。


 トレーラーの店舗ウィンドウを開いて屋根替わりにして、その下にキャンプ用のテーブルと椅子を並べて道路でお茶会の姿勢だ。


「なるほどねぇ、それで家族だけ連れて逃げてたんだな」


「どうしても腹に据えかねまして……」


 この家族は姓が吉崎。名前は父タロウ。母ミコ。娘サヤの三人家族。


 異変で失った家族はゼロで、初動も間違わずにちゃんと避難したらしい模範的な一家だった。


 しかし、避難した先が魔物に襲われ、襲撃に耐えられず避難民は散り散りに。


 そうして何とか上手いこと逃げ回って生き延びた吉崎一家は次の避難所を見付けて身を寄せた。


 滅ぶ前の日本ならそれで良かったんだが、このご時世に個人単位の避難所にモラルを求めるのは難しい。奥さんも娘さんも初対面の俺がビビる程に美人なのだから、二個目の避難所だってお察しだっただろう。


 要は、避難所に居たかったら妻と娘を使と言われ、ブチ切れたタロウは二個目の避難所を飛び出したのだそうだ。


「それが正しい選択だったかは知らないけど、結果として良かったんじゃないか?」


「お陰様で……」


 そう。結果としては良かった。俺達が助けたから。


 しかしもし、俺達が近くに居なかった場合は話が変わる。


 体を差し出してでも避難所に居れば、金猪に襲われる事も無かっただろうし、食べ物にも暫くは困らなかったはずだ。


 だがタロウは家族の命と尊厳を比べて、尊厳を取った。その結果が金猪に突っ込まれて殺されかける未来だった訳だ。


「私は、間違ってたのでしょうか…………?」


「さぁ? 結果が全てじゃね? と言うか家族に聞きなよ。汚されても生きていたかったのか、魔物に襲われても綺麗な体で居たかったのか」


 その答えも、苦悩する父を見守る優しい眼差しを見れば分かろうものだが。


「俺としては、今回は運が良かっただけだとしても、それまで家族全員を守り切ってるタロウには敬意を持つけどな。ほら、この子達なんて家族の安否不明なのよ? 二人とも多分もう無理だろうって諦めてるし」


「ヤマトちょっと言葉を選ぶにゃ。なんで猫のフリルより気を遣うの下手にゃ? 生きるの下手くそにゃ?」


 俺がデリカシーの欠片も無い紹介をしたミルクとアキナは苦笑いを浮かべてるが、俺は気にしない。俺だって実家の両親なんて諦めてんだよ!


「それで、どうする? 行く宛ては?」


 俺が問い掛けると、タロウは項垂れてしまった。


 魔犬やカラスなんて何処にでも居る雑魚なら見たこともあったんだろうけど、流石にレア持ちの魔物は想定外だったんだろうな。


 アレを見たあと、まだ宛も無く優良な避難所を探す旅を続ける気力が残ってないんだ。


「行くとこ無いなら一緒に来るか? 俺達は今、ちょうど吉崎家が探してるだろう『優良な避難所』に向かってる最中なんだが」


「よっ、宜しいんですか!?」


「此処で見捨てるのは流石に鬼畜すぎるだろ」


 いや、俺の気性としては『見捨てる』に五票くらい入れたいんだけどね? でもホラ、今の俺って優良トレーダー目指してるから。


 話し合った結果、当たり前だけど吉崎家が旅に同行する事となった。


 俺のトレーラーは大型キッチンカーを改造したとは言え、流石にプラス三人は辛いものがある。なので吉崎家にはこのまま軽トラで着いてきて貰いたいんだが…………。


「ああ、ベッコベコじゃん。お逝きになられてる……」


 確認すると、金猪の突撃で軽トラがお釈迦しゃかになってた。エンジンが掛かる気配すらしない完全なる廃車だ。


 むしろコレで良く君達、怪我もなく無事だったね? 俺達が駆け付けた事も含めて奇跡かよ。


「仕方ない。その辺の車パクるか」


「い、良いんですかね?」


「タロウが避難所を出た理由と同じよ。この滅んだ日本でモラルを取るか命を取るか。…………どっちが良い?」


 俺の言葉でタロウは決心して、一緒に車を漁る事にした。


 流石に今は装甲追加とか改造してる場合じゃないし、その時間も設備も無い。装甲に出来そうな資材を探す時間も面倒だ。


 だから最初からある程度頑丈そうな車って言うと限られて来るが、放置され荒れた駐車場とかを巡った結果いい感じのクルマを発見。


「テントムシか。流石に装甲車とか転がってる訳無いし、これで良いか」


「転がってるには転がってるんですけどね、装甲車」


「無事なの無ぇじゃん」


 そう、見るだけなら結構あるのだ。装甲車。


 ただ自衛隊とかが使ってただろう装甲車って、多分その時に魔物へと喧嘩を売ってバチバチにやり合っただろう『残骸』が殆どなのだ。使えたもんじゃねぇ。


 どうせならアメリカのベアキャットとか欲しいんだが、どっかに落ちてねぇかな。


「…………あ、ヤマト。あれ装甲車じゃ無いにゃ? 前にヤマトがスマホで見てた車にソックリにゃ」


 もうコレで良いやと軽キャンピングカーであるテントムシに決めようとしてたら、フリルが遠くを前足でさして見付けた何かを教えくれた。


「……………………は? えっ、は?」


 フリルが指し示す場所にはコンビニがあり、その駐車場には他の車の影になるようにゴッツゴツの車が鎮座していた。


「な、ナイトXV? ガチの装甲車やんけっ!? あんなん俺が欲しいわッ!」


 そこにあったのは、海外のセレブが乗るようなガチの一般向け装甲車『ナイトXV』だった。


 か、海外輸入か? おまっ、持ち主どうした!? これ乗ってれば取り敢えず安全だろ! なんで放置されてんの!?


 紛争地域を走って銃撃に晒されても大丈夫って触れ込みの車やぞ!?


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