バイタリティ。
飲む前に見た魔石は、思ったよりも複合効果が少なかった。
メイン異能であるバイタリティの模様は、岩で作った鏡餅みたいなピクトグラムであり、その周囲にはストレングスとエコーロケーションだけが浮いていた。
飲み込むと、まぁレア特有の強い倦怠感と内臓の発熱を感じて俺はダウンする。喋る事さえ億劫になる。
強い倦怠感で座ってる事も辛くなった俺は、世間が荒廃したせいでボロボロになってるアスファルトへ寝そべった。
「だっ、大丈夫ですか!?」
俺の周りに居た一家が心配してくれるが、それに返事をするのさえダルい。そんな俺の代わりにフリルが三人に対応してくれた。流石俺の嫁だぜ。
「大丈夫にゃ。金色の魔石は特に効果が強いから、取り込む時に苦しくなるにゃ。時間が経てば治るから気にしなくて良いにゃ。……それよりミルク、残して来たアキにゃ達を呼んでくるにゃ。チカのサイコキネシスを使ってトレーラー押してくれば車ごと来れるはずにゃ」
「分かった。行ってくるねっ」
ストレングスをブーストしたミルクがシュバッと飛び去った様子を見てた一家は、小さな女の子が特撮ヒーローみたいな挙動をしたシーンに呆然としてる。
「ヤマト、大丈夫にゃ? お水飲むにゃ? お腹減ったにゃ? おべんと食べるにゃ?」
小さな
レア魔石は一種だったので辛いのはほんの十分の事だろうけど、今はフリルに甘えようと思う。
フリルがインベントリからミネラルウォーターを出して、サイコキネシスを使ってキャップを開けた後にクリアコントロールで水を俺の口に運ぶ。
アクアロード産の水も飲めるんだけど、検閲とか出来ないので口にする水はなるべくペットボトルを使う事にしてる。
俺がその水をコクコクと飲んだのを確認したら、フリルはタオルを出してアクアロードで濡らしてサイコキネシスで絞り、俺の額に乗せてくれる。ひんやりして気持ち良い。
最後に唐揚げ弁当を出したら一つ一つをサイコキネシスで「あ〜んにゃ」と食べさせてくれる。……ここは天国か?
「……お、美味しそぅ」
「…………な、何も無いところから、お弁当がっ?」
「あ、お前たちも食べるにゃ? 今は気分が良いから奢ってやるにゃ」
商品として共有インベントリに入れてる在庫じゃなく、自分達が好きに使う用に作ってある個人インベントリからお弁当と割り箸、ペットボトルのお茶を人数分出してあげるフリル。マジ天使。
「た、食べて良いんですか……?」
「奢りにゃ。お前らが悲鳴あげたお陰で、金魔石が手に入ったにゃ。そのお礼みたいなモンだから気にせず食べるにゃ」
フリルもご飯の時間にするにゃって言って、フリルは自分で猫缶とテュールを取り出して食べ始めた。
サイコキネシスで猫缶をカシュッと開けて、中身もサイコキネシスで一摘みずつ浮かせてパクリパクリ。食事中の猫ってなんでこんなに愛らしいんだろうな?
皆で食事をしてる間に、俺も回復して来たので体を起こす。けど元気になった俺にフリルはまだサイコキネシスで「あ〜んにゃ」してくれる。
「美味いにゃ?」
「美味しいよ。フリルが食べさせてくれるから何時もの倍は旨い」
「それはサオリに謝れにゃ」
いや事実だし。謝らんし。サオリなら分かってくれる。
助けた一家もマトモな飯は久々だったのか、涙ぐみながらバクバク食べてる。そうしてゆっくり過ごしてると、ミルクがアキナ達を連れて来た。
「ヤマトさん! 無事ですか!」
「おーう、俺は無傷だぜ〜」
「ヤマトが怪我するわけ無いにゃ。フリルが全部倒すにゃ」
「さすがボスぅ〜」
サイコキネシスでゴロゴロと牽引されて来たトレーラーを途中で放り出したチカちゃんが俺とフリルに突撃して来た。
チカちゃんは甘えん坊なので、良い子にお留守番しててくれたご褒美にウリウリと撫でてあげる。
「またネコチャンッ!」
「サヤ、ちょ、本当にいい加減なしなさい……!」
「みゃ? どしたの? チカのこと触るの? いいよー?」
チカちゃんが見知らぬ人、サヤって名前らしい娘さんに反応してゴローンとお腹を出す。さっきまで襲われてたとは思えない程に空気が緩いのは勘違いじゃないだろう。
「ネコチャンっ、ネコチャンッ……!」
「チカだよ〜?」
「ネコチャンッ、チカチャンッ? ……チカちゃん!」
とりあえず、メンツも揃ったから今後の事をお話ししましょうかね。
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