トンネル通過。



 初めて異能を手にしてはしゃぐオッサンは、速攻で魔力を使い切ってグロッキーになった。


 しかしそのお陰で、お陰で俺が言ってた事も全部真実だと分かってからは交渉もスムーズだった。


「オッサン、その異能は使えば使うほど成長して強くなるから、どんどん使えな。魔力もそれで増えるから」


「ああ! ありがとうな! いやぁ、これで俺もあのクソ犬とカラス共をぶっ殺せるぜ!」


「その犬やカラスも魔石持ってるから、倒したら心臓が脳みそを確認しろよ。犬は心臓、カラスは脳みそが多いな。もしその二か所に無かったら、妙に肥大化してる場所とか探してみると多分ある」


「分かったぜ! ああ、そうか、アンタらもそうやってチカラを付けて色々と上手いことやったんだな!?」


 一通り情報を渡した後、グロッキーなはずなのにテンションが振り切って元気なオッサンはトンネルの方に戻って行き、そしてそこに居た避難民を何人か連れて来た。


 それで全員かどうかは分からないが、とりあえず出て来たのはオッサン含めて五人だ。男四人と女一人。


「た、食べ物があるって本当か!?」


「ねぇ、それより下着とかも無いかしら? もう殆どダメになってて困ってるのっ」


「あーはいはい、有るから、全部有るから慌てるなって」


 俺はとりあえずミノムシのオッサンに約束の5000サバを渡して、それから運転席からトレーラー部分(トレーラーじゃない)に移動して店舗ギミックを起動した。


「どうなったにゃ?」


「ん、交渉は取り敢えず大丈夫そうだ。今から移動販売の第一回を行うから、みんな手伝ってくれ。フリルとチカちゃんは品出し頼むな」


「わかったにゃ〜」


「あ〜い」


「私も手伝います」


 わざと語尾に「にゃ」を付けるあざといフリルと、舌っ足らずな感じで喋る可愛いチカちゃんと、何故か旅に着いてきてヤル気満々のアキナが手伝ってくれて、ショップはすぐに準備出来た。


 トレーラーの側面装甲が上に向かって開いて屋根みたいになり、それだけでお店が完成する。調理スペースは排除してショウケースだけだから、そこのラインナップさえ整えたら準備は終わりだ。


 ちなみに、ミルクはメグミが土壇場で来れなくなった事にダメージを受けててダウンしてる。


 そりゃ、なぁ。終わった世界で家族も居なくて、友達とも離れ離れは辛いよな。その反動でミルクはとうとう俺の事を「おじちゃん」じゃなくて「お兄ちゃん」と呼び始めた。おじちゃんでも良かったのに。俺二十歳だけど。


「オッサン、サバイブの配分は出来たか? それで全員?」


「ああ、俺ん所は五人で全部だ。ちょうど5000だったから、等分して一人1000だな」


「そっか。それだと銃を買ったらあっと言う間に無くなりそうだが、食料なら問題なさそうだ」


「たしか、ブロック栄養食一箱で1サバだったか? ……こりゃぁ綺麗なコインだよな。自分で作ったのか?」


「そうそう。中に見えてる金属は純金だぞそれ。お釣りで渡すコインも純銀だったりするし。ちなみに、そのコインのガワを作ってくれたのはこの子」


「あ、どうも……」


「そうなのか! いやぁ、こんな世の中にならなきゃ、お嬢ちゃんもこう言う綺麗なモン沢山作って、普通に暮らせただろうになぁ……」


 それからしばらく買い物タイムで、みんな1000サバをどうやりくりするか必死に悩みながら品物を選んでた。


 魔石も売ってと言うとミノムシのオッサンがめちゃくちゃ食い付いて、ほか四人に不審がられてた。


 その後、魔石の効果を教えて実演すると全員が呆然とした後に魔石を欲しがったり、買い物をする時に「毎度ありにゃ」と喋ったフリルにビビり倒したり、色々とあったが円満に買い物が終了した。


 最終的に全員クリコンを500サバで買って、ミネラルウォーター2リットルペットボトルを50サバで箱買いしてた。水は必需品だし、クリコンが有れば武器にもなるしな。


 あとは剣、槍、弓とハンドガンのシグが売れて、保存の効く食料や下着、服などが大量に売れた。


 シグ買った人はマガジンと弾薬の代金がかさんで大変そうだったけど、銃ってだけでロマンだしな。仕方ねぇよ。持ってるだけで強気になれるし、買わなかった奴らもちょっと羨ましそうにしてる。


「そんじゃ、どうせならちゃんとした飯も食わねぇ? 30サバでちょっとお高いんだが、オススメの唐揚げ弁当があるんだ」


「………………あったけぇ飯かあ。食いてぇなぁ」


 最後に、五人が思い思いのホカホカ弁当を買って終わりだ。


 全員がその場に座り込んで、涙を流しながら暖かい飯を頬張ってた。


「うめぇ、うめぇよぉ……!」


「ご飯って、こんなに美味しかったのね……」


 販売が終わり、サバイバーも飯を食い終わって顔色が良くなったのを確認したら、約束通りにトンネルを通して貰う為にバリケードを撤去してもらう。


「あぁちなみに、凶暴化した動物のことを俺らは魔物って呼んでるんだが、アンタらが魔物を倒して魔石を手に入れたら、それも買い取るから。余っても捨てないでくれな」


「おう! ガンガンぶっ倒してもりもり稼ぐぜ!」


「稼げばまた、唐揚げ食えるしな」


「そ、そんなに美味かったのか? 俺も次は唐揚げ弁当にしようかな」


「お前が食ってた幕の内弁当も美味そうだったじゃねぇか」


「意気込むのは良いけど、魔物は種類や持ってる異能によってはマジでヤベぇから気を付けろよ? 俺が上野で倒した虎なんて、自由に体を改造して化け物みたいになるボスキャラだったんだからな」


「そ、そんな奴も居るのかよ……」


「ちなみに、俺のこのマントはソイツの毛皮」


「マジかよ!」


 こうして一個目のトンネルは無事に通過して、残りのトンネルも似たようなやり取りで通過出来た。


 トンネルの中は生活感に溢れた様子だったが、やはり限界も近かった事が伺える。


 幸いなのが、女性を虐げるレイダータイプのサバイバーが、どのトンネルにも居なかった事か。


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