幕張に向けて。
計画を発表してから俺の出立準備が整うまで、思ったよりも時間がかかった。
まず、俺の要望を満たしたうえでマトモに使える車を見付けるのが大変だった。
このクエストを楽勝で終わると思って受けたおっさんが成果なしで三日過ぎ、稼ぎが無くて真っ青だったのは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
クエスト達成した時の支払いは色をつけたよ。ほんと俺のワガママで振り回してごめん。
しかしその結果見つかった大型のキッチンカーは素晴らしい物で、せっかくだからと徹底的に改造した。
あと、例の金塊を報酬に奥さん探しを依頼して来たあのオッサン、彼は最近やっと立ち直って「魔物絶対殺すマン」へとジョブチェンジし、警察署やら暴力団事務所やらに突撃して物品を漁ってきた結果、武器がめちゃくちゃ増えた。
凄い良い顔して俺に銃を売り付けて、そのお金でライフルの弾薬と魔石を大量購入していくオッサンは中々逞しかったぞ。
オッサンが持って来てくれたのはMP5A1の警察仕様とSIGって言う拳銃、あとその手の趣味を持った民家から名前が分からないコンパウンドボウ一式とか、とにかく豊富な武器を持ち込んでくれた。
しかもあのオッサン、独自に精霊猫を見付けて取引して相棒にしてた。フリルに対価を払ってインベントリをレンタルして、共有インベントリにリソースを使わずに全部武器弾薬や食料などを収納する武器庫代わりにしてる。今後が楽しみだな。
さて、あとはネコと不自由無くコミュケーションを取る訓練をみんなにして貰ったりとか、クエストの管理をルリに教えたりとか、色々と時間を使ってしまった結果、まーた一ヶ月ちょい過ぎてた。
まぁ、コミュケーションの方法は最近ビックリする方法で解決したんだけどね。マジでアレはビビった…………。
それで、俺の旅に着いてくるメンバーだが俺とフリルは勿論、チカちゃんとミルク、メグミ、そして何故だがアキナが来ると言う。
「ヤマトさん、またお願いしますね」
「おう。まぁよろしく」
パークの駐車場に俺専用のトレーラー(トレーラーじゃない)が鎮座して、旅に着いてくるメンツと見送りのメンツがごっちゃになって別れの挨拶をしてる。
特にメグミは、家族だって居るのにこっちに着いてくるんだからな。ケイコが痛いくらいにメグミを抱き締めて涙を流してる。
ほんと、俺のワガママですまねぇ…………!
見上げるトレーラー(トレーラーじゃなく改造キッチンカー)は、周囲をアホほど鉄板で補強されて元の外観がゼロになってる『箱』だった。
キッチンカーっていうのはあれだ、車でクレープ売ったりする車の事。アレの大型タイプを改造して装甲車にしてあるんだ。内部には三段ベッドやテーブルも用意してある。
売ってるのはクレープじゃなくて武器弾薬に俺が自作した剣とかナイフとか槍とか、食料もあるけど随分物騒な店に仕上がってる。
「あれ、フリルちゃんは何処です?」
「ん? 多分トレーラーの中だろ」
「ヤマトさん、頑なにあの車をトレーラーって呼びますね」
「そりゃぁな! トレーダーが動かす車がキッチンカーじゃ格好付かねぇだろ!」
凄く大事な事だ。
「んー? ねぇ、呼んだ?」
「お? 起きたのかフリル」
そんなやり取りをしてると、トレーラーから声がした。
フリルの声だ。
「にゃぅん。噂話?」
「いや、単純にフリルは何処かってさ」
「そなの? アキナ、何か用?」
そう、今のフリルってば喋れる様になってるのだ。
勿論あれだ、メタモルフォーゼの効果である。
フリルはなんと、自分の声帯をメタモルフォーゼで弄って人間的な発音が出来るように肉体改造しちゃったのだ。人の死体を簡単に解剖したり、漁った物資の医学書的なものを見て試行錯誤して頑張ったらしい。
別にそんな事しなくても、フリルと俺は何故か会話可能だったんだけども。なんでそんな事をしたのかと聞けば、「にゃ? フリルが喋れないとヤマト浮気するじゃん?」って返された。浮気しないよ!
そんなこんな、フリルは声帯の改造に成功したあと、自分で安全性の確認をして他の猫やネコ、あとパークに最初から居たサバイバーの飼い犬にも同じ改造を施した。
今、メインパークに居る精霊は全員喋れるのだ。凄くね?
フリルが言うには、猫は人間と喉の形も舌も、顔の形さえ違うからめちゃくちゃ大変だったと言う。そりゃそうやろ。
でもこうやって喋れるようになると、本当に精霊っぽくて可愛さ倍増だ。俺はフリルにメロメロである。
「なぁに? どしたの?」
「いや、相変わらずフリルは可愛いなと思って」
見てたら流し目でそう聞かれたので素直に答えると、ぷいっとそっぽを向きつつ尻尾が俺の足に絡む。この、こう、うむ! 控えめな愛情表現にキュンキュンしますね!
「にゃぅん。そのうち、人間に変身してみせるから、それまで浮気しちゃだめにゃぁ」
「馬鹿だなぁ。俺は最初からフリルしか見えてねぇよ」
フリルの最終目標は、メタモルフォーゼで人間に変身することらしい。愛しくて吐血しそう。
「……いま、いい?」
「ん、ネコか」
「ん」
もうそろ出発かなって時に、パークを任せたネコが来た。この子は甘えん坊な気質だけど、喋るとクーデレっぽい。とても可愛い。
「ヤマトは、とても強いオス。だから心配はしない」
「ありがとな。そう言われると自信になる」
「でも、怪我くらいはするかも。だから……」
大きな虎が俺の近くまで寄ってきて、その額でグイグイと俺のお腹を押した。
「無事に帰って来て欲しい」
「くぅ……! 胸がキュンキュンする……!」
「ヤマト、早速浮気にゃ?」
「ちが、これはその、キャバクラ的な?」
「それダメな奴にゃ。もう、ネコもフリルのオスを盗るにゃ〜」
「ごめん……」
ネコとフリルのじゃれ合いが尊くて尊死しそうだが、なんとか堪えて旅立ちの準備を終わらせる。
「それじゃ、行ってくる!」
最後は色々と慌ただしかったが、トレーラーに乗り込んで出発だ。
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