店番。



 カントリーホテルを拠点にしてからもう、一週間経った。運営は順調だ。


 俺もクエストの発行とか色々慣れてきて、施設の運営もちょっと楽しくなってきた。


 この形式は凄い楽だ。誰かに「これが困ってる」と相談を受けたら、「○○の解決」と言うクエストを発行して、俺はサバイブを出すだけでトラブルが解決する。


 解決しなくてもクエストを受けた人のミスだし、クエストを受ける人が居なくても俺は対応してる感じに出来るし、めっちゃ楽だぞこの運営方法。


 まぁ、無限の物資と無限のお金を発行出来るから出来るんだけどな。需要と供給が崩れることが無いから、無限にお金を発行出来てしまう。


 無限に複製出来るから供給が足りずに値上がりする事もなく、品物を出し過ぎても無期限に保存出来るから需要の低下が起きても値下げせずに済む。


「精霊探索のクエストが順調だからってのも大きいけどな」


 施設のショップでフリルと共に暇そうにしながら、施設に増えて来た猫を見る。


 最初、この施設に居た精霊はフリルとミケちゃんとチカちゃん。それにネコと、あとホテルに滞在してた避難民が連れてたワンちゃんだけだ。俺、初めて犬の精霊見たわ。ちゃんと精霊化出来たんだな、犬。


 話しは戻って、俺達のむちゃくちゃ運営の骨子はイミテーターとインベントリなんだが、イミテーターは無限に複製出来るが、インベントリは無限じゃない。キョンを買い取り過ぎてインベントリがいっぱいになった、もう買い取れない! なんて状況になったら大変だ。需要と供給をガン無視できるアドバンテージが消えてしまう。


 そこで俺は一計を投じる。「猫増やしてインベントリの共有フォルダ増やせば良いんじゃね?」と。


 そんな訳で、常時張り出しのクエストに「猫の精霊求む! 勧誘に成功したら一頭に付き500サバ!」と言う常設クエが生まれた。

 

 お陰で今では五匹ほど増えて、インベントリも余裕たっぷりだ。


 精霊猫達はこのインベントリの領域確保だけでお仕事となり、月給を払う契約となってる。これで猫達はぐーたらしてても食べ物に困らない。


 そして、もっと良い物が食べたかったら、もっと働けば良い。チュームとか、猫缶とか、色々な。


「トラさん、今日は一緒に店番よろしくなぁ」


「なぁ〜う」


 新しく増えた猫は、キジトラが二頭居て、トラさんとシマさんってお名前になった。多分アメショの黒猫はクロさんで、アビシニアンのニアちゃん。ロシアンブルーっぽい雑種のアオさんが居る。


 インベントリ契約だけだとドライフードのカリカリと、たまに猫缶が買えるくらいの給料なので、殆どの猫は他にもバイトをしてる。トラさんとクロさんは店番を良くやってくれる。


 シマさん、ニアちゃん、アオさんは人の探索などについて行って荷物持ちをやる日雇いバイトなんかを良くやってる。インベントリにアイテム突っ込むだけでお金になるからな。魔力のトレーニングにもなるし。


 本当はミケちゃんとチカちゃんにも店番して欲しいんだけど、今あの子たちはパークの周りを壁で囲う工事の手伝いをしてるから忙しい。


 もちろん、ミケちゃん達にしか出来ない事をお願いしてるからその分払ってるお金は多い。二頭とも結構な高給取りだ。


 そりゃね、壁作るクエスト受けて行ってる非戦闘系の人達を護衛しながら、襲って来た魔物を返り討ちにして魔石を抜きながら異能を使って工事のサポートもする。…………何人分働いてるか分からねぇな。


 ちなみに、ネコも良く探索に付き添ったり山へ狩りに行ったり、パークの壁工事の護衛クエスト受けたり、色々やってる。こっちもかなり稼いでるな。


「ねぇねぇヤマトさん、お弁当見てくれないかしら?」


「お、新作? いいねぇ、見せてよ」


 ショップでフリルを撫でながら今後の事を考えてると、食堂の方から避難民の…………、いつまでも避難民って言うのもアレだな。普通にサバイバーで良いか。そう、女性サバイバーの一人がお料理を売りに持って来たみたいだ。


「おお、唐揚げ弁当? 良いじゃん良いじゃん!」


「でしょ! 今回は自信あるわよ!」


 少しづつルールを決めて行ってるこの避難所だが、このお弁当売りのシステムは早々に決まった事の一つだ。


 まず、お弁当は俺が複製して売るから量産性度外視の一点物で良い。逆に、量産性を意識したそれなり程度のお弁当なら、買い取り価格もそれなりで終わる。


 持って来てもらったお弁当を俺が複製してコピー品を食べてみる。それで美味ければ美味いほど高額で買い取るって仕組みだ。


 もちろん俺が苦手な食べ物だってあるので、そう言う時は他の人に食べてもらって採点してもらう。


 そんなシステムなので、今パークに居る女性サバイバーでは「めちゃくちゃ美味しいお弁当を作って高値で売る」のが流行ってるのだ。


 俺から材料を買って施設の厨房で料理して、お弁当の体裁を整えて俺のところに持ってくる。そうすると材料費を上回る値段で売れるから、外に出ないでお金を稼げるのだ。


 それと、高値で売れた=料理の腕が高い=女子力! みたいなステータスがあるらしい。


 今のところ、最高で120サバ出した事がある。それを複製して12サバで販売すると、お弁当を十個売れば元が取れるし、お弁当職人の女性も材料費なんて精々が50サバ以内だから、利益率五割超って言う笑いが止まらない状況である。


 まぁ、誰からでも無限にお弁当ばっかり買い取ってたらインベントリがパンクするので、一人あたり一週間に二個までしか買い取らない事にしてる。この辺のルールもまだ改善出来るだろうから、考えて行きたい。


 今はとりあえず、持ってこられた弁当を食べよう。


 差し出された物をまずイミテーターで複製。そしてフリルが一旦オリジナルの容器に触れてインベントリへ収納した。これだオリジナルはほっかほかのまま、劣化しかない。


 その間にお弁当を確認。お弁当箱は普通のアルミ系の大箱で、もう「ご飯と唐揚げ! 他には要らない!」って割り切ってる盛り付けだ。


 マジでご飯と唐揚げしか入ってないが、ぶっちゃけ男性はこう言う弁当大好きだと思う。握り拳みたいな唐揚げが六個も入ってご飯も山盛りだ。


 まず当たり前に唐揚げを箸で掴み、口に運ぶ。


 カリッ……! 良い音が俺の歯で鳴り響いて耳朶をくすぐる。この音さえ美味い気がするから唐揚げって不思議だぜ。


 前歯で噛み切った唐揚げを舌で転がして奥歯で噛み締め、肉を潰して旨味を溢れださせる。


 あぁ〜、美味い。これキョン肉だ。キョン肉の唐揚げだコレ。


 先日初めて、レオが取ってきてくれたキョンを捌いて初めて食べたキョン肉だ。


 シカって聞いてたからもっとデカいのかと思ったけど、二度見するくらいに小さな動物だったので驚いた。小さくて体も弱いから、解体が大変だったんだ。


 でも、美味かった。なんかキョンって日本だと外来指定された雑魚肉扱いなんだけど、台湾だと高級食材らしい。実際美味いし。


 ああ美味い。コレは美味い。柔らかくてしっとりした肉質が唐揚げに合う。ジビエなのに臭みが無く、噛み締めると淡白なのに存在感がある旨味が舌に広がって大変つらい! ご飯が欲しくなる!


 俺は欲に負けてご飯も口へ掻き込む。するとどうだ、口の中に広がってた旨味が米に吸収されて進化しやがった。ヤバいこれは負け戦だ。


 こんな所で負けられねぇと思って、俺は次々と唐揚げを食していく。


「…………くぁぁあ、なんだよコレ、二個ずつ肉の部位を変えてるな!?」


「あら、よく分かったわね」


「しかも部位ごとに下味の付け方が違う! うわうまぁ……、こんなんいくら使ったんだよ……」


「んふふ、お店に無い調味料がどうしても欲しくて、探索者の子に実費でお願いしちゃったの。その分入れると110サバかかっちゃった……」


「オッケー分かった300サバ出すわ」


 俺は敗北した。こんなストレートに美味くてシンプルに楽しめる弁当とか最高じゃんか。絶対売れ線だよこれ。


「300!? そんなに貰って良いの!?」


「基本、売値の10倍で買う事にしてるんだけどさ、これなら30サバでも買う人居るでしょ。大丈夫大丈夫」


 俺はこの時、考えてなかった。


 売れ線になるとは思ってたけど、まさかこの弁当がウチのベストセラーになるとは…………。


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