インベントリの使い方。



 コインを作った日から、さらに一週間。かなり広範囲に渡って鴨川の攻略は完了してるが、流石に俺達だけで鴨川の全てを丸裸には出来ない。


 片っ端から探してやるぜ! とか息巻いたところで、無理な物は無理なんだ。


 だが、俺達に新しく加わった最強の異能「インベントリ」があれば、鴨川を丸裸とは行かずとも半裸程度には剥けてしまう事も分かってしまった。


 今更だが、インベントリも異能であり、使用には魔力を使う。


 この異能がどんな仕様なのかと言うと、異能使用者が収納したい物に触れて異能を使うと、収納物の総質量に応じた魔力を消費して、異空間的な場所に物をしまえる。


 収納量は使用者の魔力に依存する。つまりフリルとミケちゃんもチカちゃんとネコは、それぞれが使えるインベントリの収納量が違う。


 しかしながら、このインベントリは元はサメが持ってた異能で、今はフリルが手にしてレンタルしてるだけの異能だ。つまり貸しててもフリルの異能である事には変わり無い。


 それが理由なのか、それとも元からそんな機能がついてるのか、インベントリには便利な機能がついていた。


 それを一言で分かり易く言うなら「フォルダ分け」であり、そして「共有フォルダ」も作れたのだからもう大変だ。俺たちの勝ち組ムーヴが止まらない。俺達の存在こそがヴィクトリーなムーヴメントなんだ。


 さて、フォルダ分け云々うんぬんがどう言う事かと言うと、例えばフリルの保有魔力から算出したインベントリ収納量が500だとする。


 インベントリはその500の中に物をしまう異能なんだけど、使用者はその500を好きな様に分割してフォルダを分けられる。100を五個でも良いし、50を十個作っても良い。


 食料用。武器用。趣味用。魔石用。ゴミ用。そんなフォルダ分けが可能なんだけど、更にインベントリをレンタルしてる四頭が共有出来るフォルダも作れる事が最近分かった。


 共有フォルダの作り方は、共有したい個体がそれぞれインベントリの容量を出し合って領域を作るだけ。


 例えば四頭とも500の容量を持ってたとする。そして四頭とも共有フォルダに400の容量を差し出した。すると四頭が共有で使える収納フォルダの総容量が1600になる訳だ。


 仮に、フリルが今ここで俺の大剣をインベントリの共有フォルダへしまったとする。すると遠くに居るネコが共有フォルダから俺の大剣を取り出して、その辺にそれをポイ捨て出来るんだな。


 いや捨てないでネコちゃん、それ俺のメインウェポン……!


 とまぁ、こんな感じで、頼りになる我らの猫組とネコはさっそく共有フォルダを作って、俺達がコストロで買ったり探索で集めた物資を全部収納して、さらにそれぞれが鴨川で見付ける物資を自分の意思で集め始めたもんだから大変だ。


 あと一ヶ月とか此処に居たら、本当に鴨川を丸裸にしちゃうかも知れない。


「で、そろそろ行くんですか?」


「うん、流石にもう良いでしょ」


 しかし、別に俺達の旅は鴨川を丸裸にする為のものじゃない。安住かつ定住の地を探すための旅なのだ。


 あと俺がトレーダー生活する為の旅なのだ。


 もう、物資の値段も魔石の値段も粗方あらかた決まってるんだ。


 例えばブロック栄養食一つが1サバ。お弁当とかも提供するとしたら、5~8サバくらいか? 八九式を売るなら890サバで、弾薬は一箱で30サバ程を予定してる。


 魔石は、買い取る場合はコモンを5サバ。売る時10サバ。アンコモンは買い取りで50~100サバ、販売価格は200~500サバくらいか。


 レア魔石は最低でも買い取りで1000。販売で3000…………、いや安いな5000サバくらいにしとくか。


 他にも、俺から何かクエストを発行して、クリアした奴に報酬として大量のサバイブを支払っても良い。こうやって俺が用意した通貨が俺の意志の元で流通するのだ。ある種の建国とすら言えるんじゃ無いか?


 まぁ王様ムーヴとか絶対に面倒だからやらないけどな。


「と言う訳で、山行くぞ山!」


 俺が集めたり助けたメンバーは当然行くとして、ルリ達が助けた避難民も着いてくることになった。タダ飯食らいは要らねぇよ? って言うと「働きます!」と元気良く宣言したので、まぁ働くなら別に良いや。言うて追加10人くらいだし。


 二週間ちょいもの時間を使って、エコロケとかも駆使してキロメートル単位で探索して、それで見つかった生存者がたった10人ってところに鴨川の地獄さが出てるよな。


 まぁ、その代わりクリコン美味しい土地だったけど。あとアクアロードも。


 討伐思考の四人がそれぞれ一個ずつもアクアロードを持って帰ってきた時はビビったぜ。その内タクマ、ミルク、メグミは自分でアクアロードを使い、レオは俺に売ってきた。


 なんでも、「今はリーダーとボスからタダで物資貰えてるけど、トレーダー始めたら有料になるんだろ? だったら、俺は姉ちゃん達の為に稼がなきゃ!」と言って、俺に希少な金魔石を売ってくれた。


 初対面はクソガキだったけど、でもコイツ普通に家族の為にめっちゃ頑張ってるだけのチビなんだよな。そう思うとちょっとエモかったから、アクアロードは2000サバで買い取ってやった。


 まぁ、お前の姉ちゃん別に飢えないけどな。だってダチのアキナが大金持ちだもん。一万サバ持ってるもん。


 そんなこんな、俺達は山登りを始めた。


 ハイエースを含めて荷物は全部インベントリに収納出来たし、必要な物だけ持って入山だ。正直ハイエースは捨てて行く気だったけど、持っていけてよかったぜ。


 もはやチビとは言えない身体能力を手に入れつつあるウチのチビ達はまだしも、避難民に居る数人のチビは流石に山道がキツいらしく、ネコが背中に乗せてあげてる。おいおいネコさんよ、また信仰を集める気か?


「そう言えばヤマトさん、拠点を置く希望の立地とかは…………?」


 一応避難民が地元の人なので、比較的入山しやすい場所を案内して貰い、蛮刀で藪を切り開きながら進む。その途中、ヨシオからの質問に意識を割くが、よく考えると気にする必要が無いことに気付いた。


「ん? んー、最悪は山に穴掘って施設を中に仕込んでも良いし、場所自体は何処でも良いんだが…………」


 俺としては、住むところも物資も異能でゴリ押しする所存だ。穴掘って中を拡張すれば平野も要らないし、立地は関係ほぼ関係無い。アクアロードがあるから利水も気にしなくて良いし。


 だからむしろ、俺にとって大事なのは俺の希望じゃない。希望の立地らヨシオ達が決めるべきだ。


「むしろヨシオ達が農業しやすい場所が重要だと思うぞ。俺なんてキョンってシカの仲間がいっぱい居て味も良いからってこの辺選んだんだし。キョンさえ狩れるなら、あとは野菜の方が重要だろ」


 キョンが狩れる場所なら、あとは全部ヨシオ達の都合で決めて良い。と言うか、狩りなんて狩れる場所まで行けば良いんだから十割全部ヨシオ達の都合で良いくらいだ。


「…………なるほど。でしたら、あまり上に登らない方が良いかも知れませんね。と言うか、別に山の中に居を構える必要は無いんじゃありませんか?」


「まぁ、ないっちゃ無いけど」


 と言うか、良く考えると麓の方が楽だわ。広い平野があった方がヨシオが野菜作りやすいし、俺もトレーダーやるなら客が来やすい方が良い。


「はい山登り中止ー! ごめんな行き当たりばったりで! 麓の空き地占拠するぞー!」


 俺の、突然予定を変更するっていう暴挙に晒され、歩かされてた避難民達は不満そうだ。しかし、物資を全部握ってるのは基本俺なので誰も文句は言わない。ふふ、俺が神だ……!


「…………あれ? でも、本当は山の中が良かったんですよね? それで、平たい場所があれば更に良いと」


「ん? まぁ、そうだね?」


 皆で麓に向かって回頭するなか一人の避難民が俺に一つ提案をしてきた。


「だったら、降りたら道なりに進んだ先に川があるんですけど、その川沿いに進んで行くとゴルフ場があるんですよ。カントリークラブが」


 そこは、山の中にあり、道路も通ってて、隣にはダムがあって釣りも出来そうで、そして何よりゴルフコースは平たいから畑作れる。


 もっと言うとカントリークラブ内にホテルも有るから、わざわざ一から拠点作りする必要が無いと言う。


「鴨川すげぇな! なんでも有るじゃん!」


 目的地が決まった。


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