コイン作り。
「なんですかソレ! 楽しそう!」
「オリジナルのコイン作りですか、良いですねぇ〜」
コイン作りを決意して百円ショップを探しまくった翌日、俺はベースキャンプでさっそく作業してた。
「そうな、意外と楽しいぞ。デザイン考えるだけで結構わくわくするし」
「国のお金じゃないから、好きなだけキラキラで可愛いコインを作れますもんね!」
作業中、この手の作業とかレジンアートとかが好きらしいアキナが食い付いて来た。ルリもセットだ。
鴨川攻略は順調に進んでいて、タクマ、レオ、ミルク、メグミの四人が着々と魔石を積み上げている。
流石にもう、サイコドライブ持ちの空飛ぶサメは居なかったが、クリコン持ちで道路の上を泳ぐシャチみたいなサメは居たらしい。シャチも居たそうだ。
そんな鴨川で、メンバー全員分に渡しても余る量のクリコンと、パイロキネシス四つ。サイコキネシス二つ。エコロケーション二つと、さらに俺が知らないアンコモンを四種類。その内一つはマジで効果すら分からない。
なんか、異能を使う前に仕留めた魚の魔物から取り出した魔石らしくて、どんな異能なのか分からないらしい。
今のところは異能を得てデメリットを持った事は無いけど、何が有るか分からないから摂取しないようにしてる。同系の魔石持ちが現れて、異能の効果が分かったら改めて誰かが摂取するだろうさ。
効果が分かってる三つについては、何故か俺に命名権が来た。今まで全部やってたんだから、統一するべきだと。
そんな訳で、自分が接触した影・闇から物質を生成して操れる異能を「シャドーボックス」で、任意で自分の気配を断てるスニーク能力に「ハイドアウト」、最後に自分の任意の部位を光らせる事が出来る異能を「ライトアップ」と名付けた。
もちろん、魔石の模様と効果も図鑑にメモする。この魔石図鑑、割と重要な資料になりつつあるのでは?
まぁいいや。とりあえずハイドアウトを見付けて来たミルクに土下座して魔石を譲ってもらった。というか最初から俺にくれる予定だったらしい。マジかよミルク天使なのか?
-おじちゃん、ミルクのなまえ笑わないからすき! いつもありぁと!
そう言ってハイドアウトの魔石を差し出してきたミルクに涙腺が壊れかけた。なんて良い子なんだこの子……。あとキラキラネームだからやっぱ色々言われて来たんだろうなって事も察する事が出来た。
ミルクは、俺が魔力を操って気配を消そうとして四苦八苦してる様子を見て、この異能持ちの犬に気が付いた時に「絶対逃がさない」と追い掛けまくったそうだ。一緒に居たメグミ談。
「いいなぁ、いいなぁ、私もやりたいなぁ」
「お、自信ある? 流通して人々の手に渡るんだけど、やる? 自信あるならレジン任せるよ」
「やります!」
思い馳せながら作業してると、アキナがレジンアートをやりたがったのでデザインを任せる。
その間に俺は、レジンの中に閉じ込めるスッカスカの透かし彫りコインを作る。
パイロキネシスで熱しながらサイコキネシスで持ち上げ、ちょっとずつ形を作ってく。
まずは銀から、百円玉サイズのコインを作って、少し熱して柔らかくしたら専用の器具で切り抜いたり、ヤスリ掛けたり、望む形にしていく。
「…………ふぅ、インテリジェンスの作用か? 精密作業が思ったより苦にならないし思い通りに進むぞこれ」
ストレングスの助けもあって、彫金自体はゴリゴリ進む。そしてインテリジェンスのお陰か、ミリ単位の作業も思い通りだった。
「…………出来たな」
「うわぁ、すごい綺麗じゃないですか!? これ、モチーフはフリルちゃんですか?」
俺の予定では、銀と金で二種類ずつ通貨を作るつもりだ。そしてそのモチーフはやっぱり、アキナの言う通りにフリルだ。
それぞれに1、10、100、1000と刻んだコインを作るつもりで、その「1」さえも内部に流麗な透かし彫りを入れてみた。凄くない? 百円玉サイズだからな?
「…………これ、やっぱインテリジェンスとストレングスさえあれば偽造自体は簡単なのか? 考えを改めるか?」
まぁ、今は良いか。偽造防止は俺以外のイミテーター持ちが出て来てからが本番だ。それ以外なら「硬貨が複製出来るか否か」で判別出来る。
「よし、じゃぁこれをキラキラで美しいレジンアートコインに変えてくれ。任せたぞ」
「任されました!」
「あまり可愛くし過ぎるなよ? どっちかって言うと美しい方に力を入れてくれ」
コインをアキナに任せて、俺はルリが見守る中で次の作業だ。次は10のコインを作る。コインと言うかプレートの方が良いか? 長方形のデザインだ。
一つ一つ作っていって、気が付けばもう夕方だ。
「ぁぁぁぁあ、疲れた。アキナ、最後の1000だ。これも頼むな」
「はい!」
作業が終わってアキナの手元を見ると、なるほど確かに「やりたい」と言うだけの事はあったらしい。見事なレジンアートが完成してた。
銀貨二種類は深い青のレジンで縁どりしつつ、中心が透明で青との境目はグラデーションが美しい。全体に施されたラメ加工の程度も秀逸で、ただ美しさしか感じない。
最後に渡した物を除いて、金貨の方は銀貨と同じようなデザインで有りながら、縁どりの色が鮮烈なオレンジとなってた。
それと銀貨には無かった金の歯車らしき小さな飾りが、オレンジと透明の境目のグラデーションに散りばめられていて、銀貨には無い豪華さが演出されてる。
百円ショップから根こそぎ持って来たレジンアートコーナーの品物が、ここまで化けるのか。ちょっとマジでビビってる。
ある種の感動に心を震わせてると、レジン用のUVライトを手に持ったアキナが最後の一枚も完成させ、作業の終わりにふぃ〜っと汗を拭うような仕草で締めくくる。
「いや、まじで凄いな。びっくりしたわ」
「えへ、合格ですか!?」
「想像以上だわ。これをヤマト物資トレーダーの主要硬貨に出来ると思うと、すげぇワクワクするもん」
さっそく、完成したコインをイミテーターで複製してみる。ジャラジャラ。
「おお、一点物のレジンアートが突然量産品に!」
「それだけ聞くと凄い台無し感あるけど、良い物が増えたんだから良い事だよな」
俺は複製したコインをそれぞれ10枚ずつ、アキナに渡してやる。
「コイン作成手伝いの報酬だ」
「わぁぁ! これ、お金の代わりにするんですよね!? 私、バイト代とか貰うの憧れてたんで嬉しいです!」
そういや中学生だったなコイツ。
「このコインは、そうだな。サバイブとでも呼ぼうか。
単位を呼ぶ時は1サバ2サバ、100サバ1000サバって感じで。
「ほほう、じゃぁ私の今回のバイト代は、11110サバですね!」
「ちなみに、日本円で言うと1サバで100円くらいの価値を予定してるぞ」
「……ぴッ!? え、じゃぁこれっ」
うん。一万サバで百万円くらいの価値か。やったじゃんアキナ、お金持ちだな。
「…………はぁ、さてさて。魔石にもそろそろ、値段を決めようかね」
まだ拠点の「き」の字も見えてない今日この頃。先に通貨だけ完成しちまったぜ。早くトレーダーやりてぇなぁ。
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