奇跡的に見付かった。



 二日後、サラリーマンの奥さんは見事、奇跡的に発見出来た。


 …………死体でな。


 まぁ当たり前なんだけども。て言うか遺体が残ってただけ本当に奇跡だ。マジで。


「そんな……、そんなぁ…………!」


 本人確認が必要だし、俺が本当に探したかどうかも確認してもらう為にサラリーマンを連れ回して鴨川を歩き回り、そうしてやっと見付けた奥さんの遺体。


 どうやらサメかシャチや、他の何かかも知れないが、肉食性の魔物に腹をガブッと食いちぎられて死んだらしい。それが奇跡的に、食い捨てられた時に建設現場のセメント袋へ突っ込んで粉まみれになったらしく、死体が食われずに残ってた。


 一応、九割九分九厘ほぼ100%の確率で奥さんは死んでるし、死んでた場合は死体すら残ってない可能性が高い事は最初から伝えていた。だから俺が一週間みっちり奥さんを探せば、例え見つからなくても報酬の何割かは貰うって契約になってた。


 しかし、奥さんはこうやって見つかってしまった。見つかってしまったからこそ、「まだ生きてるかも」って希望は砕け散った。


 シュレディンガーの猫じゃないけど、こんな結果なら探さない方がまだ良かったかもなと思う。だが頼んで来たのはこのおっさんなので、俺は何も悪くない。


「……せめて、弔ってやろうぜ。セメントまみれでも、腹減ったら手を出すかも知れないからな。おっさんの手で、荼毘だびに伏してやれよ」


 上下分割されてしまった、最愛の人だった腐肉を抱いて泣くおっさん。その後、抜け殻みたいになってしまった相手を促して、おっさんの自宅まで移動して庭に穴を掘って、薪を集めてガソリンも持って来て火葬の準備をしてやる。


 奥さんも、眠るなら自宅が良いだろ。ゆっくり出来るしな。


 薪もガソリンも複製すれば無限に燃やせるので、火葬場のような高火力が無くても、まぁ何とかなるだろ。


 もちろんパイロキネシスで高火力を出しても良いのだが、これは俺達の異能で送るのは違うと思ったから止めた。俺が手を出して良いのは、使う道具の複製までだ。


 薪に火を付け、穴の中でガソリンと薪だらけの奥さん目掛けて火を付けさせる。その間も男は抜け殻だったが、必要ならそのうち回復するだろうし、ダメならそのまま死ぬだけだ。


 生ける屍、もしくは死んだ生者。正しい表現がどっちか分からないが、そんなおっさんから忘れずに報酬を頂く。


 おっさんから自宅の鍵を貰って、そのまま玄関に向かう。おっさんの護衛は着いてきてくれたチカちゃんに任せよう。


 おっさんが使い物にならないから適当に地下室への入口を探して荒らして周り、一時間ほどかけて目当ての純金を発見。ちゃんと刻印までされてる純正品だ。


「やっぱ純金24kは輝きが違ぇな」


 こじんまりとした地下室に、1キロの地金じきんが20本もあるぞ。金のレートは変動凄いからどんぶり勘定になっちまうけど、グラム五千円くらいだとして一億円分の金なのかこれ…………。


「おっさん、金持ちだったんだな」


 こんなに金持ってて、奥さんもいて、地下室まであるマイホームまであって、なのに意味不明な異変一つで全部失うのか。流石に同情するわ。


 まぁ、それはそれとして、報酬は貰う。なんなら金インゴットの隣にある銀インゴットも欲しい。


「資産的な意味なら、金だけで良いもんな。たぶんコレはコレクション的な意味で置いてあるんだろうな」


 とりあえず、貰えると約束したのは金だけなので、銀はインゴットを一本パクって複製したダミーを戻した。ダミーって言っても複製出来なくなっただけで、純度変わらずだし良いでしょ別に。


 このご時世、一方的に奪うだけの奴らばっかりなのに、ほぼ同質の物を返すんだから、実質聖者だろ。


「これで俺達専用の通貨を作れるな」


「にゃぁ?」


「大丈夫だって。ちょっと考えてあるからさ」


 たかが個人が通貨お金なんて作れるのかってフリルが聞くけど、俺達って言う最強の物資トレーダーがこの通貨以外認めないって言えば、周囲の人間は否が応でも使い始める。だって使わないと俺達から物資が買えないから。


 純金も純銀も、それ単体では柔らかくて硬貨に向かない。そして合金するにも設備も技術も足りない俺だが、ちょっと考えてる事がある。


 それは、もう偽造が不可能ってレベルに繊細な透かし彫り彫金を作って、それをレジンで固めてしまえば良いと思うのだ。


 そしてオリジナルのコインをイミテーターで複製。もし、俺以外の誰かがイミテーターを持ってたとしても、複製品は複製出来ないから偽造硬貨の心配も無い。


 完全に手作りで偽造する猛者が居たとしても、どう考えても一枚辺りの労力が見合わない。しかも俺が確認して複製できちゃったら偽造って一発バレする。だって流通してるコインは全部複製出来ないはずだからな。


 一応、イミテーター持ちのうえに一から手作りの偽造コインを作って、それを複製して使ってくる奴が現れたら困るが、その時はそいつもコッチに引き込んでしまおうか。


 流石にイミテーターを持ってる超ラッキーサバイバーが、さらにインベントリまで持ってる事は無いだろ。俺たちの方が資本的に強いんだから、仲間にしちゃえば良い。


 もしダメなら、コインを定期的に作り替えたり、コインに何か仕掛けを施して置けばいい。偽造コインが一枚でも出たら新しいコインに変えて、トレーダーショップでコインの交換も行う。


 交換する時もちゃんと偽造か否かを確認するし、偽造元もそんなに何回も純金の透かし彫りとかしてられないでしょ。絶対に労力と合わないからな。


 そんなことするなら今のご時世、その辺の生存者サバイバー襲って物資奪った方が早いし楽だ。そんな略奪者レイダーにならなくても、そこら中に魔物が居るんだし食べれば良い。


 もちろん、偽造防止の仕掛けも頑張って考えるけど、悪くない妄想なんじゃないかと思う。


「よし、もうおっさんの事はほっといて探索行こうぜ! 百均探してレジン集めよう!」


 ワクワクし始めた俺は我慢出来なくなって地下室から飛び出し、チカちゃんを回収して探索に行こうとする。


 チカちゃんが「いや、それは流石にないっすよ」みたいな顔で首をふるので、仕方なくチカちゃんは置いていった。


 むぅ、報酬はもう貰ったし、おっさんなんかどうなっても良いのに…………。


「仕方ない。二人で行くか」


「にゃぁ〜」


 おっさんを可哀想だなと思うけど、それだけだ。このご時世、可哀想な奴なんていっぱい居る。と言うかウチのパーティなんて大半そうだぞ。家族フルセットで無事な金田一家がレアなんだよ。タクマもミルクもルリもレオもアキナも、みんな家族失ってんだから。


 しかし、チカちゃんはそれでもおっさんを一人に出来ないらしい。もしかしたらチカちゃんの飼い主に似てたとか? チカちゃん、元は飼い猫だった?


 マンチカンだからな。野良のマンチカンも居なくはないんだろうけど、やっぱ飼われてるイメージだな。まぁ良いか、確かめようが無いし。


 少しもやっとしながらも、俺はフリルと一緒に百円ショップ探しの旅に出た。


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