鴨川狩り。



 鴨川での生活が始まったぜ、キリッ! とかやっても、実のところ俺はゆったりキャンプ生活をしてる。


 サメとシャチをぶっ殺してから一週間は過ぎてるけど、インベントリっていうクソチートを手に入れた俺達にとってはもう、時間なんて寿命以外に気にする必要が無い。


 そんな訳で俺はゆっくり過ごして、他の皆は鴨川狩りに精を出してる。


 鴨狩りじゃないぞ。鴨川狩りだ。この土地に居る主要な魔物は根こそぎぶっ殺してから次に行こうって、一部のメンバーが張り切ってるのだ。


 特に張り切ってるのは言うまでもなく、タクマとレオだ。頑張れば頑張るだけ魔石が手に入るからな。


 次に力が入ってるのはミルクとメグミか。ミルクはぶっちゃけ俺を除けば人間組で最強なので心配して無い。


 ミケちゃんとチカちゃんは、そんな二組にそれぞれ着いて行ってサポートに徹してる。猫組が着いてるならマジで万に一つも無いだろう。最悪でもコッチに逃げて来て、俺とフリルを頼れるから。


 それ以外のメンバーはボチボチと言ったところか。ルリとアキナは物資探索を中心に活動しつつ、困窮してるサバイバーを見付けては助けてた。お陰でベースキャンプが新しい避難所みたいになってる。


 タカシはケイコの手伝いをして、ケイコは避難民に炊き出しを作ったり、ルリ達が持ち帰った布系資材で服を作ったりと結構仕事をしてる。


 ヨシオはタクマ達について行ったり、ケイコの手伝いをしたり、射撃練習をしたり、色々だ。


 そして俺、フリル、ネコはベースキャンプの最終戦力として大体暇してる。たまに交代で探索にも行くけど、サメ・シャチ級の魔物じゃないと逃げるようになって来た。


 なんだろうな。魔力とかで判別されてるのか? 遮断するすべを探すべきか?


 強くなると雑魚が逃げるって言うのは由々しき問題だ。だってキョンが狩れない。狩り暮しの物資トレーダーがマイドリームなのに。


 そんな訳で、俺は拠点でネコの体に埋もれながらフリルを抱っこして、有事の為に待機しつつも気配断ちの練習をしてる。


 異能を使うと「使った」と分かる魔力を意識して、外に行かないように、自分から漏れないように操作してみる。


 もちろん「やったら出来た」なんて事はなく、凄く苦戦してるんだけど、きっとこの練習を続ければ俺も雑魚狩りに戻れると信じてる。


「…………あ、あのっ」


「………………………………………………ん?」


 寝そべるネコに寄りかかり、ふにゃふにゃに力が抜けてるフリルを抱っこして、前にも後ろにもモフモフでメンタルケアをしながら修行してると、誰かに声をかけられた。集中し過ぎて一瞬無視しそうになったが、なんとか気が付いて目を開ける。


 見ると………………、え、誰?


 なんか知らない人が居た。ああ、避難民の人か。ルリとアキナが助けた避難民だが、俺は基本的にノータッチなので名前すら知らない。


 複製物資をガンガン消費してくれるなら、その分イミテーターと魔力が育つからそれは良い。俺達の物資で見知らぬ誰かを助けても文句は無い。どんどんやって良い。


 だけど、この先俺は狩り暮しの物資トレーダーがやりたいし、この終末世界でも自分の生活を豊かにしたい。だからタダ飯食らいは要らないのだ。


 自活出来ずに中学生女児に縋ってる奴らなんか当てにならない。


 だって、ルリ達は子供三人で生き延びたんだぞ? 自分で罠作って魔物化したカラスを捕らえたり、魔犬を避けながら物資探したり、ギリギリだったけど終末世界でちゃんと生き延びて、自活は出来てた。


 確かに鴨川は難易度がクソ高いけども、だからって大の大人が子供に縋るなよって思っちゃうよね。


 そんな考えがあるので、俺は避難民にノータッチだったのだが、何故か話し掛けられてしまった。何か用かい?


 声を掛けてきたのは中肉中背の、ついでに中年のサラリーマン風の男性だ。前はヨレヨレでボロボロのスーツ着てたけど、今はケイコが作ってる簡単なシャツに着替えてる。


「えーと、何か御用で?」


「…………その、えとっ」


 発言を促すも、シャツの裾をギュッと握ってしどろもどろな男性。用事が無いならどっか行って欲しいんだが。今は長旅であんまりイチャイチャ出来なかったフリルとのふれあい週間なんだぞ。


「…………その、つっ、妻をっ」


 妻を? まさか探せとか言う訳じゃ無いよな?


「妻をっ、探して欲しいのですが…………!」


 あ〜、まさかと思ったけど本当に言いやがったコイツ。


「そうですか。へぇ。まぁ頑張ってください」


 当然、これが俺の答えである。誰が見知らぬ避難民の家族とか探すかよ。自分でやれ、自分で。


 話しは終わりだとばかりに視線を外す。近くで聞いてたケイコも、何も言わなかった。こんな終末じゃ、大事な物は自分で守らなきゃだぜ。大量の魔犬に囲まれて死にかけてたケイコにはそれが分かってる。


 しかし、此処でサラリーマンのおっさんは予想外の事を言う。


「た、対価はちゃんとお支払いします! 家の地下には純金のインゴットが…………!」


 ここで、俺は二種類の考えを抱いた。


 一つは、この終末世界できんに価値がつくと思ってるのかコイツ?


 って言う馬鹿にした思い。そしてもう一つは…………、


「…………分かった、良いぜ。アンタの所有する純金を対価に、アンタの奥さん探してやるよ」


 純金でオリジナル貨幣作って流通させたら、トレーダー生活も楽しくなるんじゃね? って考えだ。


「よし、行こうぜフリル。鴨川狩りだ」


 これ、山狩りの鴨川版な。片っ端から探してやるぜ。


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