メンチの切り合い。
新メンバー三人を連れて仲間の元に合流した。
それからお互いを紹介して、色々とトラブルもあったが概ね旅は順調だ。
トラブルと言うのはルリとアキナが遭遇したレイダー達の事じゃなく、合流した後の事。
まず、ハイエースは五人乗りで、ネコの牽く大型キャリーも物資を満載してるから、人が乗れても三人が限界だ。
それもミルク、メグミ、タカシの小学生組を交えて三人がギリ。大人が三人乗るのはちょっと無理。中学生でも二人乗せたら良い方だろう。
つまりハイエースとキャリー合わせても座席数が八人分しか無いのだ。しかも上手いこと配分して八人。
さて問題。俺、タクマ、ミルク、ヨシオ、ケイコ、メグミ、タカシの七人組に、更にルリ、アキナ、レオの三人を加えたら何人になるか。
答え、「八人分の座席で十人が旅出来る訳ねぇだろ」です。
そんな訳で、また歩きに速度を合わせる旅路が始まった。これが一つ目のトラブル。
これはまぁ、この旅は急いでる訳じゃ無いから別に良いんだけどな。歩きながらの方が周囲警戒出来るし、魔物は襲って来てくれた方が魔石が集まるし。だからこれについては気にしてない。
で、二つ目の問題。
「……おい兄ちゃん、ちゃんと警戒しろよな。姉ちゃんばっかみてねぇでさ」
「あ゛? こっちのセリフだってんだよ。そんなにお姉ちゃんが恋しいなら引っ込んでろ」
「お゛ん゛?」
「あ゛ん゛?」
「やかましい馬鹿共が」
メンチ切りあってる
これよ、これが問題よ。
新しくパーティに合流したのは、中学生女子が二人居る。そしてこっちの古参メンバーには中学生男子のタクマが居る。そう、お年頃の男の子だ。
それで、俺は大して気にならなかったが、どうやらルリもアキナもかなり可愛い女の子らしい。ぶっちゃけ子供の容姿とか気にして生きてない俺にとってはどうでも良い情報なんだが、タクマには重要だった。
要するに、タクマきゅんがルリに一目惚れ的な? こう、甘酸っぱいボーイミーツガール的な?
ルリの方も、満更でも無さそうだけど、すぐに答えを出す問題でも無いよねってスタンスっぽいが、これを面白くないと思ったのは弟のレオだ。
両親は恐らく死んでて、唯一残った家族がルリなのだ。ぽっと出の野郎に奪われて堪るかよって事で、何かとタクマに絡むようになった。
勿論、あまりデカい問題を起こしたら普通に追い出すからなって釘をさしてるし、ルリもレオを窘めては居るのだが、まぁ家族の事だからな。多少荒れるのは許容しよう。俺もフリルに言い寄るオス猫とか見たら撃っちゃうし。ノータイムで。
そんな訳で、座席に溢れた男性組として俺、タクマ、レオは歩きで周囲を警戒しながら移動してる。
ヨシオがハイエースを運転して、
ハイエースの中ではルリとアキナが他のメンバーと交流しつつ、ミケちゃんとチカちゃんを抱っこしてキャッキャウフフと楽しそうに過ごしてる。
ミルクとメグミもそこに加わって、ハイエースの中の女子率がヤバい。運転してるヨシオは窒息しないだろうか? 心配である。
対してネコ専用機には珍しくケイコがタカシと一緒に乗っていて、景色を楽しみながら縫い物をしてる。実は鵺の皮なんだけど、あれ鞣す前の皮をイミテーターで複製してから塩漬けにしてあって、更に俺が素人作業で鞣した質の悪い鵺革も予備を作ってある。今ケイコが縫ってるのはそれだな。
最初に仕留めたシロクマ皮はイミテーター無かったけど、二頭目を仕留めた時はちゃんとイミテーターで同じように予備を作ってある。
やっぱ、こう、熊とか虎の皮って良いよね。猛獣の皮ってロマンがある。毛皮なら尚更だ。
「なぁなぁリーダー、やっぱ俺にもカッコイイ異能くれよぉ。絶対こっちの兄ちゃんより役に立つからさぁ」
「いやいや、ダメですよヤマトさん。魔石は大事な交易品になるんですから。ストレングスとかなら大丈夫でしょうけど、パイロとかクリコン辺りはもう無駄遣い出来ませんって」
「取り敢えずお前らは仲良くしろや。トラブってる奴らにライフル持たせとくだけでも若干不安なんだぞコノヤロウ」
まだいがみ合ってる馬鹿二匹を宥めつつ、山の間を通る道を進む。現在地が何処なのか俺にはもう分からんが、ヨシオに任せとけば大丈夫でしょ。
「ほらぁ、兄ちゃんのせいで怒られた……」
「お前が噛み付いて来るからだろ。オレは別に喧嘩しようなんて思ってないんだから」
「そうやってすぐ人のせいに--」
「だから止めい! ライフル没収するぞ!」
ほんと、ルリにちょっと良い所を見せたくてライフル片手に周囲警戒を買って出たタクマと、姉を取られたくないレオのいがみ合いが面倒臭い。
恋心のお陰でタクマも異能を育てる気になったのは良い事だけど、それでマウント取り合うのはマジでやめろ。片やパイロキネシスが使える中学生と、片や実戦経験豊富で俺すら目を見張るストレングス使いの小学生。
お互いに異能の事でマウントを取ろうとしてるんだが、ぶっちゃけお前らこのパーティの戦力で言うとどっちも下から数えた方が早いからな。二人ともミルク以下だからな。
ミルクはマジで凄いぞ。俺さ、タクマとレオとミルクの三人で誰に背中預けるかって聞かれたら、ノータイムでミルクと答える。
あの子、俺が上野で魔石を渡したその日からずっと、毎日毎日異能を使い込んでる。クリコンだけじゃなくて、ストレングスとインテリジェンスもだ。かなり育ってる。
2リットルのペットボトル一本持ってたら、タクマもレオも瞬殺出来るくらいには強くなってるぞ、あの子。
まぁそのミルクも、ミケちゃんとチカちゃんより下だし、その二頭より少し上にネコが居て、次に俺、頂点にフリルが居る感じだ。今のフリル、全力出すとガチでヤバい。レア異能三つ持ちは伊達じゃない。
という訳で、この二人が「俺の方が強いですぅ〜!」とマウント取り合っても、ドングリの背比べなんだよな。
「あー、分かった。分かったから。一回鴨川に着いたら異能集めするから、とりあえず喧嘩はやめろ」
「ホントですか!?」
「絶対だよ!? 嘘ついたら泣いちゃうからな!」
「お前が泣いても俺は困らねぇけど、分かったよ。約束するから」
サナダ隊長から、ウミネコがクリコンの魔石落とすって聞いたし、ここらでちょっと集めとくのも有りだと思う。
流石にウミネコの全部がクリコン使いって訳じゃ無いだろうけど、それならウミネコ以外の水鳥だってクリコンを落とす可能性はあるはずだ。
と言うか、種族単位でクリコン使うならかなり強敵だ。鴨川は海の目の前だし、操れる水は大量にある。そんな場所でクリコン持ちの集団とか絶対苦戦するし、最悪死ぬ。気を抜かないでおこう。
俺が上野でペンギン共をぶっ殺せたのは、その場の水量が少なかったからだ。ちょっとしたプール一杯分の水と、海や川を比べるのはナンセンスだろう。
「…………ああ、そっか。ペンギンが既に種族単位のクリコン持ちだったか。なら、ウミネコが種族単位でクリコン持っててもおかしくないな」
気付いて、やはり気を引き締めて行こうと決意する俺。出来ればアクアロードも出て欲しいが、それは鴨川で水鳥の異能を確認してから欲を出そうか。普通に基礎魔石持ちの可能性も有るからな。
「あ、鴨川見えて来ましたよ」
「おお、やっと到着か」
馬鹿を宥めながらゆっくり進んで、途中で日を跨ぎながらも旅を続けた俺達は、ついに鴨川に辿り着いた。
「…………………………は?」
そして、鴨川に乗り込んだ俺達を出迎えたのは、
「……空飛ぶ、サメ?」
B級パニックで使い古されたネタが現実化したみたいな、空を飛ぶサメだった。
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