お姉ちゃん達。



「た、助けて頂いてありがとうございましたっ!」


「もうダメかと思いましたぁ〜!」


「……襲ってさーせんした」


「こらレオ! もっとちゃんと謝りなさい!」


「いや、良いよ。気にしてないから」


「にゃぁ」


 少年を説き伏せてから五分後。殺したレイダーの近くに居ると血の匂いで魔物が来るからって女の子二人も背負って移動した。


 そのまま車を目指して良かったんだけど、担いでた女の子達が途中で目を覚ましたので、一旦降ろしてから事情の説明をする。


 そして、まぁ目の前で人を殺したけど、誰彼構わずぶっ殺す程の悪人じゃぁ無いよって自己紹介をして、フリルも紹介して、その後に勘違いで少年に襲われた所まで説明したらこうなった。


 女の子二人の名前は滝沢たきざわルリと、川本かわもとアキナって言うそうだ。異能少年の名前は滝沢レオで、ルリの弟に当たる。


 ちなみにルリは普通に瑠璃るりって書くのに対して、レオは獅子ししと書いて獅子レオだそうで、なかなかのキラキラネームだ。ミルクもそうだけど、キラキラネームって意外と本当に居るもんだな。アキナは普通に秋菜って書く。


 三人はこの地域に住む普通の学生だったけど、異変が起こった時に初動が遅れて一家離散の憂き目にあった。


 聞くと、異変が起きてもそのうち解決するやろって、最初の二日程はそのまま学校にも通い、親は仕事に出掛けてたそうだ。


 勿論、子供の送り迎えは車を利用してたらしいが、結局は異変が深刻化して離れ離れになった。


 ルリ達は学校に避難してたが、そこも犬や猪に襲われて皆が散り散りに逃げて、親とは連絡も取れず、今は三人で固まってサバイバル生活をしてると言う。


「…………多分、もう両親は、生きてないと思います」


「まぁ、生きてたら迎えには来るだろうしな。逆に向こうも子供の生存を諦めて、普通に避難所で生きてる可能性も無くはないけど」


 俺はその手の気を遣うのが苦手なので、ストレートに物を言う。というか、親が死んでるだろうなって言うのは俺もだし。今更、このご時世で実家の様子を見に行くとか無理ゲー過ぎる。いや、そのうち様子を見に行くくらいはするつもりだけど、多分生きては無いだろ。諦めてる。


「で、どうする? 着いてくるなら多少の支援はするけど」


「是非! お願いします!」


「もう私たち、食料もギリギリで……」


「ああ、備蓄が切れて探索に出たのか。それでレイダーに襲われるとか災難だったな」


「…………れいだー、です?」


「ああいや、略奪者の事だよ。分かりやすくゲームっぽく言ってるだけ」


 この子達、魔犬はどうしてたのかって言うと、レオが少し離れた場所で暴れて魔犬を引き付けて、その間にルリ達が探索をして物資を集めるって方法を取ってたらしい。


「レオが異能を使える理由は? ルリとアキナが異能使ってないって事は、取得方法も知らないんだろ?」


「えと、異能って言うのは、弟が強かったり早かったりする事の……?」


「そうそう」


 聞くと、食料を節約しようって事で魔物を罠にかけて捌いたりしたらしい。


 カラスの魔物を捕らえて締めて、それで確認が不充分なまま料理して、魔石混じりの部位をレオが飲み込んでしまったそうだ。


 魔石は基本的に脳か心臓にあるけど、必ずって訳じゃない。珍しくはあるけど、脚や尻尾にある奴も居る。そういう場合はその部位が肥大してたりするのだけど、だからこそ食べちゃったらしい。


「えと、その、マセキ? ですか? そう言うの知らなくて、足の肉が大きくて、可食部の多いカラスだなって思って…………」


「君、結構ワイルドだよね。この世紀末に向いてると思うよ」


 足に魔石を抱えて肥大したカラスを、鶏みたい食べれると思って捌いて、食べちゃったそうだ。その内の魔石入り肉を見事レオが口にして、異物には気が付いたけど間違って飲み込んでしまったらしい。


 その後、なんかレオが強くなったけど、普通に不気味な現象だし、あまり良い事とも思えなかったから、三人は魔物食を止めることにした。そして、その場合だとやっぱり食料が足りないって事で、外を探索して食料を探す様になったそうだ。


「じゃぁこれから仲間と合流するけど、大型の肉食獣が居るからね。攻撃しないでね。あとフリルを抱っこしないで。その子も戦力だから」


「肉食獣…………? な、何が居るんですか……?」


「虎」


「…………とら? …………えっ、虎が居るんですか!?」


「いるよ」


 フリルを抱っこして行こうとするアキナを引き止めて解放して貰いつつ、置いて来た仲間の元へ急ぐ。


 べ、別にヤキモチなんて妬いて無いんだからね! フリルを抱っこして良いのは俺だけだなんて、思ってないんだから!


 …………いや、うん。マジで俺だけの特権じゃないしな。クソが。ミルクとメグミとタカシの小学生三人組に対して、フリルは甘いのだ。すぐ抱っこさせちゃうんだから。でもそんな優しくて気遣い屋さんのフリルも可愛い好きっ!


「お、おっちゃん……、虎を従えてるのか……?」


「誰がおっちゃんだコノヤロウ。俺はまだ二十歳はたちだ」


 途中、さっきまでちょっと反抗的だったレオが尊敬の眼差しで見てくるが、誰がおっちゃんだ。俺は小さい無垢なチビ達におじちゃんと呼ばれるのは気にしないが、クソガキにおっちゃん呼ばわりされる筋合いは無いぞ。頭が高ぇぞコノヤロウ。


「従えてるって言うか……、いや従えてるな。戦って格付け終わって、あいつが降伏したんだしな。服従させてるわ」


「す、スゲェ……! 虎と戦ったのか!?」


「まぁな。その時、あいつの降伏ポーズが『ごめん寝』だったから、寝る虎って意味で寝虎ネコって名前…………、いやだからフリルを抱っこすんなってオイ」


「あ、ごめんなさい…………」


 気が付くとアキナがフリルを抱っこしようとするので止める。油断も隙もねぇな。


「猫なら仲間のところにも居るから」


「えと、虎はちょっと……」


「いや、ちゃんと猫も居るんだって」


「え? ネコちゃんが虎なんですよね?」


「そうだよ。それと猫な」


「だからネコ…………」


「止めようコレ、すれ違いめんどくせぇ。戻ったら分かるから」


 埒が明かないので会話を一旦止めた。確かにネコが三頭も居るパーティに、あえて虎にネコって名前を付けた俺が悪いのかも知れないけども。いやネコって名前の虎も可愛いやろ? そうだよネコは可愛いんだよ。素直だし気が利くし、今のところ金田一家とネコどっちを取るかって言われたらネコを取るくらいには大事な仲間だ。


「ああ、ほら、見えて来たぞ」


 住宅街を歩いて少し大きな道路に出ると、その真ん中にデデンと居座る仲間達が居た。どうやら俺とフリルが居ない事で多少の魔犬とカラスが襲って来たらしいが、当たり前に返り討ちとなってる。転がる死体は腹と頭が割られてるので、魔石の回収も出来てるようだ。


「うわ、本当に虎が居る……」


「すげぇぇええ……!」


「おーい、帰ったぞー!」


 三人を連れて近寄ると、防衛を頑張ってくれてたミケちゃんとチカちゃんがにゃぁにゃぁ言って駆けて来る。超可愛い。


 俺は駆け付けてくれたお姫様をどちらも抱っこしてスリスリした。上野で比較的初期から一緒だった大事な友達だもんな。


「にゃぁ?」


「いや、ちゃうんすよフリルさん。これは友達とのスキンシップであって、決してやましい気持ちは無く……」


 フリルに「浮気か?」って聞かれて頑張って否定する。確かにミケちゃんもチカちゃんも可愛いが、やっぱり俺の嫁はフリルなのだ。それはわかって欲しい。


「にゃぁ」


「よし許された」


「……………………え!? 今の会話が成立してるんです!?」


 俺とフリルだぞ? 成立するに決まってるじゃん。


 そんな茶番を挟みつつ、とかく仲間の元に帰って来た。さぁ、軽く事情を説明したら鴨川目指すぞ。


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