将来の客の為。



 結局鈍行で旅が続く俺達は、道中で色んなコミュニティを見掛けた。


 やっぱり、思ったより生存者サバイバーが多い印象だ。


 まぁ、『思ったより多い』って言うのもアレだ。上野基準だ。あそこはマジで人居なくなってたから、そこと比べればポツポツと生き残りが活動してる場所なんて、『思ったより生き残ってる』で正解だろう。


 実際、見掛けたコミュニティの人間を全員足したところで千人とか行くわけじゃない。一箇所平均で五人くらいのコミュニティが殆どだった。全部合わせても百行くかどうか。


 コストロは百人近く避難してて賑やかだったけど、やっぱり大型で頑丈な店舗や施設に避難出来なかった人達は、細々と暮らすのが精一杯なのかね。


「うーん、これ、物資トレーダー始めたら武器も売るべきかな? 取り引き相手が生き残ってくれないと、トレーダー生活出来ないし」


「良いと思いますよ。ほら、ヤマトさんが背負ってるそのクソデカ大剣とまでは行かなくても、近接武器も需要あると思います。ライフルとかは言うまでも無いですけど」


「でもやっぱり、悪い人にも武器が渡るかも知れないし、銃器は慎重に販売した方が良いかもねぇ。ヤマトさんだって、自分が売った武器をフリルちゃん達に向けられたくは無いだろう?」


「…………それもそうだなぁ」


 しかし、だからと言って売らない選択肢も無いだろう。近接戦闘出来る奴以外は死ねって言う様なもんだし。


 なら、トレーダー兼、冒険者ギルドみたいな形にするか? 魔石を買い取る形にして、実績を積んでもらったら銃器も販売?


 ………………違うな。ぶっちゃけ超面白そうだからやりたい気持ちは強いが、それじゃ結局、最初から戦える奴にしか銃が行き渡らない。




 --キャァァァアアアッ! 誰か助けてぇぇええッ…………!




「…………うーん、難しいな。銃の販売」


「……え、いや、え? ヤマトさん、無視するんですか?」


「ふぇ? 何が……?」


 ハイエースに併走するネコのキャリーに乗ってボケーッと考えてると、ハイエースの助手席に座ってるタクマが何か言ってきた。ネコが俺達の話しやすい様に気を使って牽引してくれてる形だ。


「いや、あの、悲鳴……」


 ああ、そう言やなんか聞こえたな。でも面倒だし…………。


「生存者減ると、客も減るって…………」


「そういやそうだったな。…………しゃぁねぇ、助けに行くかぁ」


 戦闘が発生するだろうから、軽く装備を確認する。


 いつものデジタル迷彩服と、腰の蛮刀。脇下のホルスターに警察拳銃サクラ。今日はぬえの気分だなと思って、ケイコが少しアレンジしてくれた鵺柄の軍用風ポンチョを羽織る。めっちゃカッコイイんだよなコレ。もちろんシロクマバージョンも作ってあるんだぜコレ。ケイコさんマジありがとう。


 ポンチョは裏地にマガジンポーチも縫い付けてあって、そこに八九式に使う箱型弾倉マガジンを計四本挿す。基本はイミテーターでコピーして使うから、このくらいの量でもかなり戦える。四本も持っていくのは予備の意味合いが強い。


 それらが終わったら最後に、大剣とライフルを背負って準備完了だ。


「うーん、大剣にもそろそろ名前付けてやるべきかねぇ?」


「いやいやいや、そんなどうでも良いこと後にしましょう!? さっきの悲鳴、けっこう切羽詰まってましたよっ!?」


「しゃぁねぇな……」


 ヨシオとネコに停車を指示を出して、俺が戻るまで防衛を密にするよう伝える。


「え、皆で行かないんですか?」


「俺とフリルだけの方が早いし。あと頼んだぞ」


 そう言って、俺はフリルにアイコンタクトを送って、ネコ専用大型キャリーカートから飛び降り、走り出す。


「エコロケ最大…………」


 緑が微妙に混じる住宅街に、音の波を広げて感知する。時折、ストレングスとアジリティをブーストした大ジャンプを駆使して塀や民家を飛び越え、エコロケで捉えた悲鳴の主の元に急ぐ。


「なんだ、レイダーか。でも悲鳴を聞いて犬も集まってるな。地獄絵図か?」


「にゃ」


 俺の全力疾走に着いてくるフリルは、楽々と併走しながら相槌をくれた。エコロケで確認した状況だと、女の子が恐らく二人組で、探索スカベンジ中にでもレイダーと遭遇して襲われたって所だろうか。


 レイダーは五人組。二人がサクラかニューナンブか分からないけど回転式拳銃リボルバーを所持して、残り三人はパイプに包丁を括り付けた槍とか、釘バットとか持ってる。


 おいおい、異変が始まってもう数ヶ月経つのにその装備なのか? そんな装備で大丈夫か? 問題無いのか?


「--っと、到着。そして死ね」


「にゃっ」


「なんッ!? なんだてめぇ--」


「ィぎッ--……!?」


 取り敢えず民家の屋根から飛んで近くに着地し、抜いてた大剣を横薙ぎにして棒立ちしてた馬鹿二匹の首を刎ね飛ばす。


 残り三人は女の子を襲う為に屈んでたから、一撃で皆殺しとは行かなかった。やろうと思えば可能だけど、位置的に女の子二人も殺してしまうのでやっぱ無理。


「ああそっか、レイダーは自分で駆除して回れば良いんじゃないか? そしたら善良な奴だけ残って武器も売りやすいだろ」


「にゃぁ?」


「脳筋だって? いや仕方ないだろ。国ですら憂慮する問題だぞ? ゴリ押しで解決出来なきゃ--」


「なにペチャクチャ喋ってんだテメェッ! 死ねぇえ!」


「いやお前が死ねや」


 フリルと今後の事を相談してたら、レイダーが立ち上がってくれたのでそのまま大剣で薙ぎ払う。グリップ周り以外は100%タングステン製の大剣だ。異能も持ってない雑魚じゃ防げる訳が無い。


「死--」


「おっと危ない」


 残り二人がリボルバーを構えたので、大剣を手放して蛮刀を抜く。インテリジェンスとストレングスをパッシブからアクティブに切り替えてブーストし、右手に抜いた蛮刀もイミテーターで複製してから両方をレイダーに向かって投げ付ける。


「……遅い。インテリジェンスブーストくらいは使いこなせよな」


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