通れないじゃん!



 山と山の間を抜ける様に、または山の麓にある都市部を横断する様に伸びた国道を時速20キロでトロトロ運転。


 こんなに気を使わなくても、ネコは車の走行にだって普通に着いてこれる。しかしネコが引く専用機キャリーカートはそうじゃない。これはリアカーをバラして自作した物であり、ぶっちゃけ車の走行速度に合わせて転がしたら壊れると思う。


 それでも前は徒歩に合わせて移動してたのだ。積載量も進行速度も、どっちも現在の方が上である。


「………………どうにかならん?」


「無理ですねぇ」


「そっかぁ」


 なんでこんな事を考えてるかって言うと、足が進まないからだ。


 木更津から鴨川に抜けるのに一番良い道は何処かってお任せしたら、千葉県道92号線ってところを通るらしいんだわ。


 で、92号線を走ると途中で山を抜けるトンネルがあって、そのトンネルを生存者サバイバーが占拠してて通り抜けられないんだ。ぶっ殺してやろうかなチクショー。


 車や丸太を使ってガッチガチのバリケードを積み上げて、トンネルの入口を閉鎖してやがる。トンネルの上部に「三直トンネル」って書いてある場所だ。


「この先もトンネル有るんでしょ? 全部占拠されてんの?」


「…………恐らくは」


「トンネルは、盲点でしたね。確かに分厚いコンクリに囲まれた天然要塞みたいな場所ですし」


 ネコに専用機をハイエースへ横付けしてもらって、男達で話し合う。


 正直、俺も仮拠点ならトンネルも有りだなって思っちゃったよね。内部に放棄された車とかを退かすだけで、安全性の高い空間が手に入る。後は中に色々と運び込んで、出入り口をどんな形で封鎖するかって事だけだろう。


 俺だったらどうするかな。どうにか廃材を組み上げて開閉式にしたいところだ。


「……迂回するしか無さそう?」


「アレがレイダーの占領なら、倒して進むって手も有りますけど」


「むしろ善良なサバイバーでも俺は殺して進みたいけどね?」


「止めましょうよ。ヤマトさんは物資のディーラーとかトレーダー的な存在に成りたいんですよね? そう言うの、やっぱり信用が無いとダメだと思うんですよ。気に入らないからって殺してたら、利用者現れませんよ」


「…………それもそうか」


 生き延びたいから物資を買いに来て、気に入らんからって殺されるなら誰も使わんよな。生きる為に行って殺されたなんて本末転倒過ぎる。


「……でもトンネル利用はやっぱ有りだな。本拠点決めたら、どこかの空いてるトンネル探して占拠しようか?」


「それは任せますけど。…………え、もしかしてオレ、店員枠だったりします?」


「いや、それは考えてなかったけど。でもタダ飯食らいは置いとかんぞ? 金田一家の皆さんには農業してもらうけど、タクマはどうする?」


 ミルクは多分、戦闘員になるだろうな。異能も頑張って育ててるし、戦いに躊躇いが無い。ぶっちゃけ向いてる。


 しかしタクマは、良くも悪くも平凡で善良だ。多分こっちの仕事手伝わないで、金田一家のお世話になって畑を耕す方が向いてると思う。パイロキネシスだって焼畑やきはたする時にだって使えるだろ。


「まぁ、ゆっくり考えろや。とりあえず、トンネル使えないなら戻ろうか。迂回路探すぞ」


 サバイバーが多い地域だと、こんな弊害も有るのかと辟易しながら迂回路を探し、しかし中々見付からない。


 ちょっと遠回りになるが、県道から国道に切り替えて進むも、高速道路と被ってる所なんて、高速道路を屋根代わりに車で壁を築いて避難所を作ってるサバイバーも居た。


 いや家に閉じこもれよって思ったけど、人と助け合うのに家から出る時に必ず危険が伴うなら、最初っから寄り合える場所を作って一緒に生活する方がマシなのかも知れない。


 車と廃材で組み上げたバリケード防壁はベッコベコに凹んでるが、どうやら魔犬の猛攻自体は退けられてるらしい。


 なら国道の上に架かる高速道路を行こうって思えば、こっちはこっちで封鎖されてた。良く考えればトンネルと同じだよな。道が地面から浮いてるんだから、入口さえ封鎖すれば魔犬は防げる。そしたら高速道路全域が楽園に変わる。


 まぁ高速道路の中から銃声がバンバン聞こえてるし、魔犬は防げてもカラスはどうしようも無いんだろうな。でもカラスは頭が良いので、危険な場所だと分かれば襲撃も減るだろう。


 インテリジェンスが伸びまくって銃弾見てから回避余裕ってバケモノじゃなかったらだけど。


「…………銃声が八九式じゃないな。…………これは、猟銃か?」


「むしろ、八九式を好き放題使えるオレ達がおかしいんですよ。日本で銃って言えば、警察拳銃サクラか猟銃ですからね」


「それもそうか」


 国道も高速道路もダメとなると、じゃぁもうどうすりゃ良いんだよってキレた俺は、地図を見て道を決定した。


「線路行こう。どうせ電車だって動いてねぇだろ」


「いやいやいやいや、待って下さいヤマトさん」


「もう少し、もう少し探しましょ? 流石に下道が全部封鎖されてるって事は無いでしょ。大きな道路が塞がってるだけで」


「でもトンネル通れなかったじゃん!」


 女性陣が白けた目で見てる中で、俺達はわーぎゃー騒ぎながらも地図と睨めっこする。


 ちなみにだが、ウチのメンバーはフリル・メス、チカちゃん・メス、ミケちゃん・メス、ネコ・メスなので野郎の比率が著しく低い。女性陣が七人も居るのに、野郎は俺とタクマとヨシオとタカシの四人しか居ないんだ。肩身が狭いぜ。


 だがまぁ、タクマよりはマシか。ヨシオにはケイコって奥さんが居て、俺にはフリルが居て、タカシには可愛い妹のメグミが居る。タクマだけ独り身なんだよな。可哀想に…………。


「……えっ、なんで今オレ哀れまれたんです? ねぇヤマトさん」


 とかく、線路に突っ込む蛮行にお許しを頂けなかったので、まだしばらくは鈍行だ。下道を行く。


「政府が死んで、日本は荒廃した国に落ちたけどさ、せっかく道路は綺麗なんだから車を使わせてくれよ……」


 家が壊れて道路を塞ぐとか、死体が積み上がって通れないとか、そんな事は特に無く道路は比較的綺麗なのだ。まぁ、魔犬がストレングスにブーストして殴ったりとかで壊れてる場所もあるし、積み上がらずとも多少の死体は転がってたりするけどさ。


「はぁ…………。普通はさ、ああ言う寄り合いって学校の体育館とか、公民館とかに避難して発生するんじゃないの? なんで道路塞ぐの?」


「まぁ、避難って言うのは政府が指導して、政府の支援を前提にしてますからね。今の世の中、自衛隊さえ動けないのに誰が避難所を支援するんですか? 好き勝手に動いちゃう人達が居るのは仕方ないと思いますよ」


「…………マジか」


 言われてみれば納得か。待ってても物資が届く訳でもなく、助けが来る可能性すら低い。なのに寄り合いに入れば守らなきゃ行けないルールが増えるし、自分の持ってる物資だって提供しなきゃいけなくなる。ぶっちゃけ損しかしないな。


 だから、自分でルールを決めて、自分がリーダーになって物資を好きに出来る避難所を自分で作った方がお得だと、そう思って行動する層が一定数居るんだな。


 実際、高速道路やトンネルを使った安全性の高い避難所なら、生き残った避難民も利用したいだろうし。


 車をベッコベコに凹ませる魔犬が徘徊してる街で、体育館や公民館の壁なんか頼りないもんな。


「……こんなに簡単に日本が壊れるって、魔物ってヤバいな。いや、日本が脆かっただけか?」


 どうだろう。いや、関係無いな。人間の魔物化だって地味に致命的な問題だし、遅かれ早けれこうなってたな。


 人間は人間に対して、どうしても一手か二手は遅れるし、なんなら手加減してしまう。魔物化した動物なら簡単に殺せても、魔物化した人間はそうならない。


 俺はわりと最初からぶっ殺してたけど、普通の人なら躊躇うだろ。日本が元通りになったら普通に捕まるんだし。そんながん細胞みたいな存在が人間の中に生まれるってだけで、最悪は避難所に紛れ込んで虐殺を働くかも知れない。結構ヤバい問題だ。


 それを止める自衛隊や警察も、多分都内の問題がヤバすぎてどうにもならなかったよな。


 今更だけど、非武装の人間が万単位で居る場所に、都内のアチコチで飼育されてたペットが一斉に凶暴化して人間を襲い始めた場合。…………自衛隊や警察が到着するまでに何人死ぬだろうか?


 それに、最初に来るのは恐らく、数人の警察官だろう。そして装備なんて警棒と拳銃くらいか。そんな装備で凶暴化した犬に勝てるか? 犬って人間が思うよりずっと強い生き物だ。


 そんな通報が四方八方から、四六時中寄せられる。人手が足りない。


 そうやって混乱してるうちに、もっと被害が拡大する。しかも時間を置くと魔物が魔石を奪い合って自己強化を始めるし、人を殺してインテリジェンスを伸ばした魔物も普通に脅威だ。


 日本が保有する武装勢力が活動する前に、多分日本で相当の人間が死んでる。その上で武装勢力が活動を始めた頃にはレア異能持ちのつよつよ魔物が強化済み。


 ああ、うん。日本がこうなったのも仕方ないなって思うわ。多分都内は魔犬と魔猫と魔からすの巣窟だろ。そして緑がある場所では猪や鹿、猿、場所によっては熊も凶暴化してる。


 うん、詰んでるわ。


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