山を目ざして。
日本が壊れた今、自衛官を自衛官と呼んで良いのか分からないから元自衛官と呼ぶことにしたサナダ隊の一堂がビシッと敬礼で並ぶ。
そして大きくて可愛い上に優しくてふわふわもふもふだったネコに懐いてしまったチビッ子達が大号泣にて駄々を捏ねる。
他にもネコ教の信者になり掛けてるコストロ避難民の皆さんが、専用機を牽引するネコの勇姿を崇め奉り、それ以外の健常な皆さんが手を振ってる。
そう、俺達の出発である。
「じゃぁ館長。本拠点が決まったら一回こっちに戻って来ますね」
「はい、待ってますよ。我々もヤマトさんと取り引きが出来るように、色々と用意しておきます」
「楽しみにしてます」
ネコちゃん行かないでおにーちゃん行かないでとギャン泣きするチビッ子達に手を振って、「俺居なくなるから菓子食べ放題も終わりだ! 食いすぎんなよ! すぐ無くなっちまうからな!」と言って車に乗り込み、エンジンを始動する。ガソリンも真空缶ごと複製すれば燃料の心配は無い。
やはりずっと居て欲しいって声は大きかったが、別に今生の別れってんでもないし、なんなら房総半島にあるどっかしらの山が目的地なので、ぶっちゃけすぐそこだ。
なので「物資が欲しかったら強くなってウチまで買いに来てね」と伝えてある。ストレングスとインテリジェンスの基本セットに加えて、八九式小銃まで有るなら戦力には困らないだろ。元々人間はインテリジェンスの魔石持ってるしな。使い方さえ理解すれば、インテリジェンスだけでも結構なチートなんだぞ。
今思うと、俺が11個セットで売った魔石、インテリジェンスは10個で良かったな。元々持ってるんだし。
まぁ最終的には俺が物資を複製するから、お互いに値段とか無い感じでやり取りしてたから、良いか別に。損はさせてないどころか、得しか与えてないもんな。
「じゃ、お元気で」
「ヤマト一行へ、敬礼!」
「「「敬礼ッ!」」」
手を振って車を発進させると、元自衛官の皆さんが見事な敬礼で送り出してくれる。子供たちは未だに泣いてる。
改造したハイエースは排ガスがネコを虐めないように、車のマフラーを屋根の上まで伸ばして、空に向かってガスを排出するように作ってある。雨などで浸水しない様にも工夫した結果、昭和の家の風呂場にある煙突みたいになってしまった。超ダサいけど仕方ない。
いっちばん最初に買ったマウンテンバイクも一応積み込んであるし、物資も充分。ちなみに馬肉は既にコストロで全開放した。痛み具合が怪しかったから、大量に複製した後にオリジナルも含めて桜鍋だ。凄く美味しかったので馬系の魔物はまた襲ってきて欲しい。切実に。
ハイエースには俺、フリル、ヨシオ、ケイコ、タカシが乗ってる。タクマ、ミルク、メグミはネコ専用機の方に乗って、周囲警戒と物資の守護を務めてる。ネコが居れば守りは正直大丈夫なんだけど、子供も仕事を欲しがったので全部タクマに押し付けた。
その代わり、タクマもライフルが標準装備となって、立派な戦闘員としてカウントする。正直なところ、タクマはあまり異能を使ってないから、ライフルを持たせないとミルクより弱いのだけど、それだと少年のプライドとか色々問題があるので、まぁそんな感じになった。
アクセルを踏み込んでハイエースを発進させ、コストロを出発する。ネコと一緒に走るので、速度は時速15キロ程だ。
ミラーで背後を見ると、さっきまで隠れてた癖に誰よりも前に出て手を振ってるユキナが居た。俺がミラー越しに手を振り返すと、フリルが「浮気か?」って目で見るので流石に違いますよフリルさん。分かるでしょ? こう、シリアスな感じがさ。ね?
「にゃ」
許された。ちなみにフリルは俺の膝の上に居て、ヨシオが助手席。後部座席にタカシとケイコが居る。
「そう言えば、タカシは泣いてないな。誰か仲良くなった友達とか居なかったのか?」
「えっとね、みんなネコちゃんばっかり遊んでたから、ぶっちゃけそんなに」
「マジか。世知辛ぇな」
「うん、せちがれー!」
友達作るチャンスを虎に潰されたタカシに、俺は胸ポケットに入れてたチョコクッキーを複製して投げてやった。嬉しそうに受け取るタカシと、毎回律儀に頭を下げるケイコがバックミラーに映ってる。
金田一家と合流してから、割りとすぐにコストロまで来たから正直交流が薄いんだけど、だから今のうちにと会話を重ねる。
コストロを出て五分ほど、実はケイコが地元のミスコン優勝者だなんて人生で一ミリも使わないだろう情報を手に入れた頃に、正面に何かが見えた。
荒廃して魔物が
しかしながら、だからこそ「車が通れる綺麗な道」に網を張ってる奴らが居たらしい。レイダーだ。グールかも知れない。遠目なのでどっちか分からない。
警官の死体からでも剥ぎ取ったらしい拳銃を片手にイキってる馬鹿共が、俺達の車に気が付いて銃口を向けて来た。
「ケイコさん、タカシも、しばらく目を瞑ってろ」
俺は後部座席に指示を出し、ネコの方は周囲警戒も仕事だし自己責任だろって考えながら車の窓から手を出す。
アクアロードで水を生み出し、クリコンで滑らかで鋭利な涙滴型を作って凍らせる。そんな槍を十本二十本と生み出しながら、生成した順に射出した。
--パパパパパンッ……!
--ガガガガガギンッ!
俺の異能にビビったレイダーが発砲して来たが、事態に気が付いたネコがキャリーカーを置いて車の前に出て、全面広範囲にシールドを張ってくれた。
ネコのシールドはどうやら、不可視で強固なシールドを広範囲に展開は出来る様なのだが、そのシールドは完全に板状のうえに展開出来る数が一つって制限があるらしい。だから俺が前後左右から攻撃しようとした時点で降伏したのか。
しかし、そんな欠点を持つネコの異能も、こっちがとろとろ走ってたからまだ距離があるレイダー達を相手にするなら何も問題無い。
相手の攻撃を弾いて内側からは攻撃を通す、なんて便利な効果のあるシールドじゃないけど、ネコに言えばシールドに穴を開けてくれるのでそこから射撃も出来る。
ただ今回は面倒だったので氷槍の軌道をクリコンで捻じ曲げて、シールドを迂回する様に射出してレイダーを殺していく。
大質量の尖った氷が山ほど突っ込んでくる悪夢を受けて、レイダー達が
「よし、駆除完了。タカシはまだ目を瞑ってろ。ケイコさんは開けても良いけど自己責任でおなしゃす。前方真っ赤っかなので」
「…………もう少し、目を瞑ってますね」
「ぼくも!」
良い気分でコストロを出たと言うのに、なんとも幸先の悪い
俺はそんな若干のイラつきを我慢しながら、殺したレイダーの死体をハイエースで踏みにじりながらも先へ進んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます