人気者。



 コストロに滞在して、はや一週間。


 俺が「購入した物資は複製して置いてくので、そちらは実質損害ゼロですよ」と言ってイミテーターの異能を披露した時、ヨシダ館長の顔は爆笑ものだった。


 館長って言うのは、皆がそう呼んでたから俺も呼ぶようになっただけだ。


 最初に言ってくれよと泣き笑いして喜ぶヨシダ館長の好感度を稼ぐために、物資を奪っていく悪魔から物資を増やしてくれる天使にジョブチェンジした俺はコストロの中で物資を増やすお仕事に精を出した。


 もちろん、複製品を複製出来ないって制限についても教えてあるので、だからこそオリジナル品を欲しているのだと理解してくれて、それからの交渉はいやにスムーズだった。


 コストロ防衛も俺かフリルかミケちゃんかチカちゃんかネコ、誰かしらが出れば余裕過ぎるくらいだったので問題無し。なんならミルクも活躍した。そして活躍するミルクを見たメグミも「おにーちゃん! メグもやりたいよぉー!」と泣き始めて大変だったが、そのうち何か戦えるたぐいの魔石を融通すると約束して宥めた。


 ごめんなメグミ、クリアコントロールはもう在庫ねぇんだ。今度クリコン出しそうな魔物を皆で探そうな。


 もう少し早く言ってくれればパイロキネシスを融通出来たんだけど、パイロキネシスはサナダさんがどうしても欲しがったので売ってしまった。うん、パイロ持ちの魔物って割りと見つかるからな。


「ネコちゃーん!」


「あはははネコちゃんおっきー!」


「たかいたかいして〜!」


 そんなこんな、一ヶ月滞在する約束だったけど仕事を大体終わらせた俺達は、あとは施設防衛と狩りのお手伝いだけをしながらダラダラ過ごしている感じだ。


 今も速攻で「めちゃくちゃ大人しくて優しい触らせてくれる本物の虎」ってステータスで人気になったネコが、コストロの空いたスペースで寝そべって子供の相手をしてる。


 子供達はネコの尻尾で持ち上げられるのがお好きな様で、ストレングスの効果で力強くなってる尻尾がちびっこ達を『高い高い』してる。

 

 しかも、ミスって子供を落としても下にネコの体があるって言う、安全にも気を使った『高い高い』だ。それを見た子供の親は一発でネコを信用した。


 --そこまで子供に気を使ってくれて、この終末世界で子供達を笑顔にしてくれて、しかも施設の防衛まで手伝ってくれるなんて、むしろ魔物じゃなくて天使なのでは? 虎って神の使いみたいな話しもあったよね? じゃぁマジで天使なのでは? ああ、神聖なるおネコ様…………--


 みたいな噂が、…………噂? まぁ噂でいいか。そんな噂がコストロ内に飛び交って、若干の宗教臭がしてる。ほっといて良いのかあれ?


 でも荒廃した世界だと、ネコくらい分かりやすく『強くて優しい』希望が無いとやってられんよな。そっか、宗教ってこうやって生まれるのか。


「あはは! ヤマトおじちゃーん!」


「ちがうよっ、ヤマトおにーちゃんだよ。おじちゃんなんて言うと、もうお菓子もらえないよ?」


「やだー! ごめんなさーい!」


「おうチビッ子達よ、どっちでも俺は気にしないから落ち着け、な?」


 そして、俺もなんか、かなりちびっ子に人気だ。何故か? 俺が居ればお菓子が無限に食い放題だからだ。


 普通の親ならお菓子を無限に貪る子供とか叱るんだろうが、今の世の中だとお菓子も立派な食料だからな。オリジナルさえ残しとけば俺がいくらでも複製する。そうやってお腹いっぱいお菓子を食べれるなら、今のご時世それで良いのだ。子供が飢えるくらいなら、お菓子を腹いっぱい食べてちょっと不健康な方が幸せってもんだ。


 この一週間は、そんな穏やかな日々だった。まぁ施設の外は相変わらず阿鼻叫喚の地獄絵図なんだけど。 


 お陰で、コストロ避難民から俺らに対する好感度はかなり高い。なんなら一ヶ月と言わず、ずっと居てくれって言う人が増えて来た。


 しかし俺にも目的が有るからな。そんな訳には行かねぇんだ。


 悠々自適に暮らせる場所に居を構え、狩猟と農業でお肉と野菜を確保しながら、イミテーターを使って物資を転がすディーラー生活…………。


 くぅ、夢が膨らむぜ! 家はアレだな。海上コンテナを集めて繋いで地下室付きの箱物作って、ソーラーパネルとかも手に入れて来て内部はオール電化とか、もうやりたい放題するつもりだ。


 いや、サナダくんが言ってた電撃使いの鳥を仕留めて、発電系の異能を手に入れても良いな。大雑把な作りのバッテリーを確保して異能で充電して、変電器とかと繋いで家電に使えるようにするとか。


 うんうん、いくらでも贅沢に暮らせそうだな。


 鳥の雷撃もアクアロードとクリコンのコンボでどうにか出来そうだし。水の盾を作って地面に繋いどけば、それがアースになって電撃を逃がしてくれるだろう。パイロで直接背後を燃やして落としても良い。鳥だって流石に、背後で歪む空間なんて気付かないだろ。


「ねぇねぇヤマトおにーちゃん」


「ん? …………ユキナだったか? どした?」


 コストロ内の元フードコートで椅子に座ってボケっとしてると、コストロ避難民のチビッ子の一人が俺の膝の上に乗る。多分六歳くらいの女の子だ。


「あのね、あのね、ユキナね、おおきくなったら、ヤマトおにーちゃんのおよめさんになってあげるね」


 …………なんか、コッテコテのセリフを吐かれて逆にビックリした。


「そっか、お嫁さんになってくれんのか。ありがとなぁ」


「うんっ! だからおにーちゃん、うわきしちゃだめだからねっ」


 多分この子も、こんな約束したって事実を二ヶ月くらいしたら忘れてるんだろうな。俺も二ヶ月後に覚えとく自信がねぇわ。て言うか、浮気しちゃダメって言われてもフリルと既にラブラブだし。


「……だから、だからねっ」


「ん?」


 要件が終わったと思ってたら、また本題が残ってたらしいユキナが、俺の胸に縋るように抱き着いて顔を伏せた。


「ユキナがおおきくなるまで、しなないでねっ……」


 その言葉が、ズシッと胸にのしかかった。


 子供が吐くにしちゃ随分と重さを伴ったセリフだった。多分、この子は親を亡くしてるんだろう。この異変で、魔物相手か人相手かは知らないけど。


「…………おう。だから、チビッ子も長生きしろよ」


「……ユキナだもん」


 名前を呼べと拗ねるおマセさんの頭を撫でながら、椅子の背もたれに体重を預けた。


 目を背けてたけど、多分タクマとミルクも親を亡くしてるだろうな。簡単に上野を離れたし、誰かを探して欲しいみたいな素振りさえ無い。大事な人がもう居ないって理解してるんだろう。つまり、目の前で死なれたのか。


 そう言うの面倒だから触れてこなかったけど、長く共に居るなら、ケアとかした方が良いのだろうか。でも素人が触れて良い問題とも思えない。


 コストロでの生活は順調なのに、別方面の問題は積み上がって行く。


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