交渉。



「ご助力、ありがとうございました」


「いえいえ、コチラも下心あっての事ですから。では、さっそく交渉しても?」


「ええ、始めましょう」


 レイダーとグール、そして魔物化したイッヌ……、もう魔犬とかって呼ぶ? ずっと犬って言うのなんか違和感が有るんだよな。


 まぁイッヌの事は置いといて、コストロの敵対勢力を全部排除して見せた俺達一行は、取り敢えずコストロ勢力から味方として認識されることに成功した。


 その後、邪魔な死体を片付けた後に話し合いの場が設けられた。つまり今だ。


 流石に店舗内へと招き入れる程の信用は得られてないので、コストロの中から椅子とテーブルを持って来て、店舗前の巨大駐車場にて会合だ。


 コストロ側の責任者は二人。まずコストロホールセールジャパン幕張倉庫店の支配人的な人物、ヨシダさん。


 そして、自衛隊習志野基地から来てる自衛官のサナダさんだ。


 サナダさんは自衛隊基地から来てると言っても、基地の方が壊滅してるらしくて、二分隊くらいの人員がコストロに避難しつつ、戦闘員として仕事してるだけらしい。二分隊、つまり八人から十二人くらいの自衛官の中で一番階級が高いのがサナダさんだったって事か。


 俺達側の代表は勿論、俺だ。本当はパーティリーダーはフリルなんだが、フリルは喋れないからな。メタモルフォーゼを使えば何とかなりそうだけど、体の中を作り替えるって普通に怖いし危ないからな。もしやるとしても、人間を解剖とかしてたっぷり勉強してからにしようって決めてある。


 駐車場に置かれたテーブルの周りに、関係者がチラホラ居るが、まぁメインはテーブルに座ってる俺達三人だ。


「まず、先に言うと俺達は『助けたお礼に何かを寄越せ』と要求するつもりは無い。強いて言うなら、こうやって交渉の場を設けてくれた事で既にお礼はされてると考えてる」


「それはそれは、コチラとしても助かりますが…………」


 回りくどい挨拶や駆け引きは置いといて、すぐに交渉を始める。


 お礼を寄越せと言わないのは本心だ。ただその分も恩を感じて値引きしてねって思惑は有るけど。


「そのうえで、コストロにあるだろう大量の物資を、対価を払って購入したい」


 ここで「ダメです」って没交渉したら、もうコイツら皆殺しするか納得して帰るかの二択になる。流石に頭ごなしに否定はされないだろうけども。


「購入、と言われましても…………」


「えーと、ヤマトさんでしたか。ご存知かとは思いますが、もう既に世の中では『金銭』が意味を成してません。お金を払って頂いても物資はお売り出来ません」


 そりゃそうだ。もう使い道のない紙切れを貰って、値千金の物資を吐き出す理由なんか無い。そんな事は分かってる。


「勿論存じてますよ。コチラが払うのはお金じゃありません。と言うか、お金持ってませんし」


 ホームセンターで殆ど使い切ったしな。小銭くらいは有るけど、使い道が無い。自販機とかもぶっ壊して中身取り出す時代だしな。


「では、何をお支払い頂けるので?」


「まず情報。これをお支払いします」


「………………情報?」


 怪訝な顔をする二人に、俺は振り返ってフリルにアイコンタクトを送る。


 するとフリルは分かりやすく『異能』と分かるアクアロードとクリコンのコンボと、パイロキネシスによる火の玉生成、そして所持してる武器類をサイコキネシスで空中に浮かべるパフォーマンスを披露する。


「ご存知の通り、今の日本はなぜか動物が凶暴化して、不思議なチカラを使います。ただの犬っコロさえも筋力を増強する異能を使って殴りかかってくる非常識。…………お二人は、この非常識に対してどれ程の知識をお持ちです? サナダさん。所属してた基地が壊滅したんですよね? なぜ壊滅したんです? 何か、訳の分からない現象を操る動物でも居たんじゃ無いですか?」


 フリルのパフォーマンスを背に、をする。


 特にサナダさんは心当たりがあったのか顔が強ばり、肩が震えてる。恐怖か、怒りか、その震えた感情がどれかは知らないけど、恐らくは自衛隊基地が滅んだ時の事を思い出してるんだろう。


「俺は凶暴化した動物を、分かりやすく魔物と呼んでいます。そして今までに出会った魔物は、火を噴いたり、何も無い場所に水を生み出したり、水を操って凍らせたり、自分の体を作り替えてバケモノになったり、風を操ったり、様々なチカラを持ってました。…………サナダさん、基地を襲った魔物は、どんなチカラを持ってましたか?」


 意味有り気に、「全て知ってますよ。だから詳しく知りたかったら俺から情報買おうね」って感じを出してサナダへ呼び掛ける。…………フリをして地味に俺も情報を集める。


 自衛隊基地を壊滅させた魔物の異能とかめっちゃ気になるじゃん。


「………………か、雷をっ、…………操る鳥でしたっ」


「……なるほど。もしかして、銃を撃つ前に暴発とかさせられました?」


 俺が聞くとサナダさんが歯を食いしばる。予想は合ってるらしい。


 雷を操る鳥って聞いただけでめちゃくちゃ強そうだけど、それでも銃が有れば倒せそうに思える。


 けど、それでも基地が壊滅したなら相応の理由が有るんだろう。そう考えた時、銃に電気撃ち込まれたら中の弾薬は無事なのかなって思って聞いたら、ビンゴらしい。


 そんな攻撃して来るやつ、戦車すら怖くて出せないかも知れないな。120mm砲を撃つ前に暴発とかさせられたらシャレにならん。


 弾薬も砲弾も、その辺の安全策は着いてるんだろうけど、でも異能として放たれる電撃に対処する予定で着けられた安全策じゃ無いだろうしなぁ。


「とまぁ、今の日本は、魔物にどう対処するかが重要な訳ですね。俺の後ろに居る虎なんか、銃で撃っても死にませんから」


「……え、…………はぁっ!?」


「不可視の盾みたいな物を生成する異能を持ってるんですよ。幸い、知性が高くて味方してくれるので仲間として引き入れてますけど」


 もし、銃すら防ぐ魔物に襲われたら、どうしますか? そんな感じで不安を煽ってみた。


「…………では、頂ける情報と言うのは、その、魔物ですか? それに着いての詳細と思って良いのでしょうか」


「ええ。勿論、俺が知り得た物に限りますけどね。でも、未だに大した異能をお持ちでない皆さんからしたら、情報だと思いますよ」


 支配人ヨシダから問われ、俺も交渉に本腰を入れる。見た感じ、周囲の人も含めて全員がストレングスすら持ってない印象を受ける。


 ストレングスってパッシブでも膂力を増やすから、歩き方とかにもちょっと影響が有るんだよな。だから見ればストレングスの有無くらいは分かる。


 さぁ、俺の情報を精々高く買ってくださいや。俺もチョコレート食べたいねん。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る