クラクション。
--パッパッパァァァァァァアアアアアアアンッッッ!
「あんっ!? るっせぇなッ!?」
結局、馬の解体に時間を取られて江戸川超えを諦めた俺達は夕暮れ、江戸川の
馬肉の事を桜と呼ぶ。寿司にしたら桜握りだし、鍋にすると桜鍋と言う。イノシシ鍋をボタン鍋って言うような物だな。だから馬肉料理ばかりを並べたディナーは桜尽くしと呼べるだろう。
馬刺しは勿論、タタキと鍋も作った。ユッケも作りたかったけど、卵が無かったんや…………。
河川敷で桜を楽しみながら日暮れを過ごす。ふっ、なんて優雅な花見なんだ。桜の木なんて一本も無いけどな。いや有るかも? 咲いてないだけで実はあの辺、桜並木だったりするのか?
まぁ良いや。とにかく『桜が無い桜』を楽しんでた俺達の元に、耳障りなクラクションが聞こえて来た。マジでうるせぇ。なんだよ煽り運転か? コッチのマシンはスマトラ虎のネコやぞ。正気か? 走ってないけど。
せっかくの気分が台無しになりながらも音の方を見ると、河川敷の近くをベッコベコの車が走ってた。………………犬の群れに追われながら。
「…………ああ、ストレングスが育ってる犬を相手にすると、車じゃ逃げ切れないのか」
「あわわ……!? た、助けないと!」
「え、助けんの?」
「えっ!? 助けないんです!?」
善良なタクマくんはアレを助けたいらしい。マジか。
助けても良い事無いんだけどな。いや、欲しい人材の可能性も有るけど、結局ガチャ要素だしな。どうしようか。
犬に追われながら、と言うか犬に囲まれながら走って逃げる車は、放っておけば時間もそう掛からずに終わるだろう。ただの乗用車じゃストレングスが伸びた犬の膂力を防げない。ベッコベコになってるのがその証左。
「仕方ない。助けるか」
桜鍋をみんなでつついて楽しかったのに、水を差されてしまった。
イラつきながらライフルを空に向けて発砲。クラクションを鳴らして多分助けを求めてるだろう車に、俺達の存在を知らせる。まぁ知らせなくても、これだけ煌々と焚き火をしてたら見えてたと思うけど。
ふむ。いや、だからか? 助けを求めてたんじゃなくて、危ないから逃げろって事だったのか? 犬の興味がコッチに移ったら危ないと思って。
なるほど。そう言う気性の相手なら、まぁ助けるモチベーションは多少上がるな。
俺が鳴らす銃声に気が付くのは車だけじゃなく、周りを囲みながら併走する犬達もだ。
普通の犬なら殆どが俺やフリル、ネコの存在にビビって逃げるが、車を追ってる奴らはテンションが上がってて引っ込みが付かないのか、それとも単純に強さに自信が有るのか、とにかくコッチに向かって走って来た。まず車より邪魔者を殺そうって事か。
取り敢えず発砲。
「…………おぉ、避けた。思ったより強いのか?」
ライフル弾を避けられた。銃口から射角を読んで回避したのか、それともインテリジェンスとストレングス、アジリティで『見てから回避』したのか分からないが、結構育った個体らしい。
「ならコッチでお相手するぜ」
ライフルを地面に置いて、皆から離れつつ背負った大剣を抜く。
お互いにインテリジェンスもストレングスも育ってる者同士だから、走る速度もし高速度も並じゃない。そのせいで逆に普通の体感速度に感じてるのが面白い。相手が早くてもコッチの思考も早いから、結果として強化無しの犬が走ってる様にすら見えてるのだ。
苦笑しつつ、踏み込み、跳ぶ。
この二ヶ月で俺の戦闘能力はサラリーマンのそれじゃ無くなってる。自惚れじゃなければ戦士と言って差し支えないだろう。まぁ全部異能のお陰なんだけど。
全部で八頭も居た犬は、その内の五頭が俺を殺しに来てる。その戦闘を走る犬を取り敢えず大剣の腹でぶん殴った。インテリジェンスもストレングスも俺の方が育ってる。アクティブで使えばお前らの反応速度なんて鼻で笑える。
大剣の刃で斬らなかったのは、血が飛び散ると後ろの桜鍋が台無しになるかもしれないから。打ち返して打撲で殺す所存である。
「ギャィンッ!?」
「喧嘩売る相手間違ってんだよ駄犬共が」
振り抜いた大剣の重さを利用して、更に回し蹴りで三匹程巻き込む。足にゴキャッとした手応えがあったから多分骨は折れてるだろう。残り一匹。
この体勢からだと、一旦立て直してからじゃないと殺せないなと思ったら、既に残った一匹も死んでいた。大きな氷の槍が突き刺さってた。
後ろを見たら、ミルクが江戸川の水をクリコンで吸い上げて凍らせた槍を二十本くらい浮かべてた。ああ、そっか。川が近いんだからそりゃクリコン無双出来るよな。
俺はそのままミルクに指差し指示をして、走る車の方に残った三頭を示した。
ミルクは頷いて氷の槍を飛ばす。あっと言う間に殲滅完了だ。
「ミルク、異能の使い方上手くなったな!」
「ほんとっ!? ミルクね、おねーちゃんに教えて貰ってれんしゅうしたのっ!」
「そっかそっか。もうミルクも立派な戦力だなぁ」
戦闘が終わった俺は振り返ってミルクを褒め、ミルクはニヒニヒと頬を緩めながら「お姉ちゃん」を抱っこする。フリルである。
ウチのリーダーはフリルだと伝えてから、ミルクの中でフリルは「賢い猫ちゃん」じゃなくて「頼れるおねーちゃん」になっているのだ。
実際、上野を出て
ミルクとフリルを微笑ましく眺めてると、ブルンブルン、ブスン……! みたいな音を立てて車が近くに止まった。犬から逃げてた奴だ。
エコロケで確認すると、ワンボックスカーに父母と息子に娘がひとりずつ。四人家族での探索らしい。
それが食料品を探す為のちょっとした探索だったのか、俺達みたいに旅をしてるのかは知らないが、危ない所だったのは間違いない。
さて、人助けの結果は吉と出るのか凶と出るのか。犬に襲われてた家族とご対面しましょうかね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます