鳥では無い。
「…………あ、アレは、馬か?」
フリルに促されて見上げた空には、なんか翼の生えた馬が居た。
仮称は間違いなくペガサスで決まりだろう。別に白くないけどな。普通に栗毛色の馬だ。
ペガサスは翼を動かして遥か上空を旋回しながら、ジッと俺たちを見てた。その視線は濁っていて、血走っていて、攻撃的な魔物である事だけは分かる。
「……え? 江戸川区って馬とか居るの?」
「あ、確か近くにポニーランドがあった気がします」
「…………ポニー!? え、あれポニーか!?」
「いえ、魔物化した生き物を異変の前と比べられても……」
そりゃそうだ。あれがポニーか否かは分からないが、まぁどっちにしろ今は魔物か。
「取り敢えず撃つわ」
八九式小銃を空に向かって構え、インテリジェンスをアクティブにして体感時間を引き伸ばして精密射撃。
銃声すら間延びする程に集中した世界から意識を戻すと、見事に頭を撃ち抜いたらしく馬が落ちて来た。
「……あ、そこ民家」
馬が落ちた先は、まさか生存者が居る民家の屋根だった。ヤバいヤバいヤバい!
「にゃぁう!」
「フリルちゃんナイスゥう!」
俺が慌ててると、フリルがショックサイトを使って馬を弾いて、最悪の結果だけは間逃れた。まぁショックサイトはチャージが要る異能だから、即時発動だと軽く逸らした程度なのだが。
そうして民家のど真ん中に落ちる悲劇は回避して、屋根の端っこをゴシャッと潰しながら民家の庭に落ちた馬。マジで迷惑な奴だったな。
民家からは当然悲鳴が聞こえ、そして悲鳴を聞いた周辺の犬共がその民家に群がるハプニング。取り敢えず犬はアクアロードとクリコンで生み出した氷の槍で殺しとく。
「……どうする?」
「えっ、行かないんですか!?」
「いや、正直なところ、馬肉は食べたい」
「理由がおかしい! え、いや、謝罪とか色々、ありますよね?」
「あ? なんで魔物倒して謝罪しなきゃいけねぇんだよ。悪いのは魔物だろうが」
「えっ、あ……、え?」
「あれ野放しだったら、あの家の人達も襲われてたかも知れないんだぞ? それを討伐して、なぜ謝らにゃいかんのだ? ん?」
結果として確かに家を壊したかもしれない。だけどそれは本当に、俺が悪いのか? 民家の上で、民家に突っ込むように討伐した俺が悪いんか? ん?
………………うん、俺が悪いと思います。
しかし謝らんぞ。わざわざフリルが警戒を促して来た敵だ。先制出来なかったら何されたか分からん。翼生えてたのも意味わからんし、どんな異能を持ってたかをこの身で知る必要なんて無い。
こっちのパーティを危険に晒すくらいなら、見知らぬ家にペガサスが突っ込む方がずっと良い。一応は死人が出ないようにフリルが助けてくれたし、充分だろ。
「しかし馬肉は食べたい……」
「まだ言ってるよこの人…………」
「…………グルッ」
ん? ネコ、どした?
俺が唸ってると、ネコが「任せてくれ」と言わんばかりに俺の肩に肉球を乗せて一鳴きした。
何か案が有るのかって聞こうとしたら、もうその瞬間にはネコがリアカーを置いて走り出し、民家の塀を飛び越えて庭に入っていった。
そしてまた民家から悲鳴が聞こえ、しばらくしたらネコがペガサスを咥えて帰って来た。
「ナイスゥ!」
これであの民家の人々は、馬と虎の魔物が戦って虎が勝ったのだと思うだろう。家の屋根が破損したのは魔物同士の戦いに巻き込まれた不運だと判断するに違いない。
機嫌良さそうに馬を引き摺って来たネコの頭と喉を撫でる。よーしゃよしゃよしゃ、良い子だなネコは。馬の内臓は食べて良いからな。多分それ目当てで取ってきてくれたんだろ?
「よし、じゃぁちょっと移動して、内臓腐る前に解体しちまうか」
馬肉は生で食べれる希少な肉だ。この魔物が生食用の個体だとは思えないが、馬はそもそも体温が高く寄生虫に強い性質を持っている。生食用の家畜じゃ無くても元から生食に適した生き物なのだ。
もちろん雑菌とかの危険はあるが、それはもう何を食べても危険は有るし、自己責任だろ。て言うか本当に怖かったらクリアコントロールで冷凍保存しときゃ良いんだよ。
「馬肉……、馬刺し…………」
ああ、楽しみだ。しっかり綺麗に解体して、じっくり味わいたいよな。
ユッケやタタキでも美味いし、桜鍋も良いな。
「もう、旅の途中で既に楽しいな! 終末世界、最高ッ!」
俺はだいぶ不謹慎な事を考えながら、ネコと一緒に馬を引き摺った。
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