上野最後の夜。



「名前はミルクとタクマな。俺はヤマト。ノルウェージャンフォレストキャットのフリルと、三毛猫のミケちゃん。マンチカンのチカちゃん。虎のネコだ。よろしくな」


「はっ、はい。よろしくお願いしますっ」


「おねがーしまっ」


「にゃぁ!」


「にぅにぅ!」


「…………グルル」


 駅ビルの拠点に帰り、子供たちに風呂を用意してやって盛大に洗った後、その辺から漁って来た服を適当に着せてから飯の時間だ。


 まず、食べ物の約束をしたネコに対して、解凍した熊肉を大量に出してあげた。


 本当は内臓とかの方が嬉しいんだろうけど、それは狩猟時まで待って欲しい。


 一応、キャットフードも出してみたら普通に食べた。あまり好まない様だが、フリル達がカツカツ食べてるのが気になったらしい。


 とりあえずそれ食べれるなら飢えることは無いし、キャットフードで良いなら異能で無限に増やせるから二度と飯には困らんぞって教えるとめっちゃ懐いて来た。現金な虎だぜ。


 ドライフードはそこまで好きじゃ無いが、でもウェットフードは気に入ったらしい。フリルに頭を下げて分けて貰ってた。


 ネコにも、新参の子供二人にも、「俺よりフリルの方が強いからな。この群れの長はフリルだからな。そこ勘違いすんなよ」って教えてある。


 虎は群れない生き物なので、群れの長がどうとか言われてもピンと来ないかも知れないが、「一番強い奴が一番偉い」ってシンプルな図式は理解出来たらしい。


 一番強いってことは、つまり容易に狩りを成功させて飢えない存在だ。そして動物園に居た虎としては、「飯を容易に用意する。そして食べさせてくれる。つまり飼育員さん!?」みたいな感じなのかもしれない。


 一応、ネコも飼育員には一定の敬意を払ってたらしい。


「好きなだけ食べろな。ただ、食べた分は働くんだぞ」


「ぐるるるるる〜……♪︎」


 下顎を撫でるとゴロゴロ鳴く虎とか可愛いに決まってるじゃんね。そうやってデヘデヘしてると、隣から「……浮気か?」って視線を貰う。


 ち、違うんスよフリルさん。あの、コレは、あれです。キャバクラ的な?


「にゃぅ!」


「あ痛っ」


 殴られた。ギルティらしい。そんな、俺とフリルはこんなにも相思相愛なのに…………。


 でもそんな、ぷりぷり怒るフリルが可愛いのでどっちにしろ俺は幸せだ。フリルは世界一可愛いぜ。


「……さて、次はどこに行こうかね。やっぱり動物園がある場所か?」


「えっ、上野出ちゃうんですか……?」


 可愛いフリルを多能したら、次は焼肉を堪能しようと肉を食べ、そのうちにポロッと言葉を零すと拾われた。


 ちなみに、今日の焼肉はちゃんと焼肉のタレをゲットしてきたぜ。あと調味料とかも保存効きそうなの一色。


「ああ、もう上野は結構狩ったからな。獲物があんまり居ないんだよ」


「……えっ? いや、あの、犬とか普通に」


「あー、犬はもう良いんだよ。アイツらあんまり襲って来なくなったし」


 生物の魔物化が走ってからもう、二ヶ月近い時間が過ぎてる。


 そこまで時間があると、魔物もある程度の知性というか、本能の様な物を取り戻すらしい。明らかに格上となった俺やフリルに対して喧嘩を売ってこなくなった。見ただけで逃げていく。


 ストレングスだって別に、積極的に集める魔石でも無い。ある程度集まったら交換材料として取っておくくらいか。だってもう200個くらい有るもんな?


 だから、犬を狩る理由が特に無い。他の魔物も同様だ。


 一応、犬以外なら見かけた時に狩ってる。アンコモン以上の新異能が出るかも知れないから。


 犬だってもちろんアンコモン魔石が出る確率は有るんだけど、アイツらマジでストレングスばっかりなんだもん…………。


「ああ、そっか。タクマにも魔石分けてあげなきゃな。大丈夫、そのうちタクマも犬っころ程度なら軽く殺せるようになるから」


「ま、ませき……?」


 異変から二ヶ月も経ってなお、まだ魔石の存在すら知らないタクマ。


 タクマが知らないって事は、あの雑居ビルに居たメンバーも知らないんだろうな。まぁ魔物殺して解体しないと出て来ないし、魔石がある場所も心臓が脳みそだし、普通は気付かないのか?


 ひとまず、ミルクとタクマの二人へ軽く現状を教える必要が有るみたいだ。


「ほら、コレが魔石だ」


「…………宝石?」


「わぁ、きれぇ〜」


 まず、俺が勝手に呼んでる名称だけどって前置きをしてから、凶暴化した生物を魔物。理性的な魔物を精霊。その体内にあるこれらの石を魔石と呼称してる事を教える。


「場合によっちゃ人間も魔物化する。目がイッててやべぇ奴だから、見たらすぐ分かるぜ」


「…………そ、そんなラノベみたいなっ」


「お、君はラノベ読む子か? ならその認識で大丈夫だぞ。ほれ」


 アクアロードとクリアコントロールで氷を目の前に浮かべて、異能を実際に見せる。パイロキネシスでも良かったけど、アレは単純に危ないからな。


「……超能力、ですか?」


「まぁ、似たようなもんだな。魔石を食べると誰でもこんなチカラが手に入る。タクマとミルク以外、この場に居る全員が何かしらの異能を持ってる」


 話しに着いて行けなくて頭がフラフラしてるタクマと、凄い手品でも見てるかのように目がキラキラしてるミルクが対照的だ。


「お、おじちゃん。ミルクもそれ出来る……?」


「ん? あー、アクアロードは流石に無いけど、クリアコントロールなら……」


 有るかも? って魔石を入れてる袋を漁ったら、一個だけ出て来た。


 そのうち魔石が重要物資になると思ってたから、交換用にある程度溜め始めたんだよな。


「ミルクはこの能力で良いか? 流石になんでも全部とはいかないからな」


「うんっ! ミルクこれがいい!」


 じゃぁパイロキネシスはタクマにやるか。それともネコに? シールドで守りながらパイロキネシスで遠距離砲撃出来るなら普通に強そうだし……。


 いや、サイコキネシスを覚えさせてライフル持たせた方が良いかな。パイロキネシスだと即応性に欠けるし。


 ミルクにクリアコントロールの魔石を渡しながら、魔石の配分を決めていく。微塵も疑わずに魔石を口にしたミルクに水が入ったペットボトルを差し出して飲み込ませながら、パイロキネシスの魔石をタクマに差し出す。


「…………えっと、そのっ」


「まぁ、強制とは言わんけども。パイロキネシスの魔石をタダで貰えるイベントを流すのは正直、勿体ねぇと思うぞ? これ普通に戦闘出来る類の異能だし」


 まぁ、飲むか飲まないかは任せると言って、俺は魔石をタクマに握らせた。


 先に飲んだミルクをチラチラと見て様子を伺う様はなんとも男らしく無いが、まぁ命に関わりそうな案件だしな。仕方ないか。


 対してミルクは、異能が定着する時の違和感に眉をひそめてたが、その違和感も無くなったらすぐ元気になって異能を使い始めた。


 魔石を飲み込むのに持たせたペットボトルから水を抜き出し、空中に浮かべて凍らせて見せる。適応能力の高い子だな。でも最初は魔力が少ないから無茶するなよ。


「なにこれたのしぃぃいい!」


「うわっ、本当にこんなチカラ……」


「きゃははははっ!」


 …………無茶、するなよ。


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