ネコ。



「じゃぁお前は、ごめん寝する虎だから、名前は寝虎ねこ。ネコな」


 虎あらためネコと和解した俺は、新しく名前を付けながら喉を撫でて交流していた。


 俺が戦ってる間、フリルを援軍として呼びに行ってたミケちゃん達も帰って来てて、この場にはフリルも居た。


 俺の名付けを聞いて「お前マジか?」って顔で見てくるが、務めて気にしないようにする。凄い目ヂカラだぜフリル。まるで変態という名の紳士を見る兎の女の子みたいな視線だ。


 このフリルに「何その目怖っ」の異名を与えるべきか否か。


「さて、そろそろ生存者にもご挨拶と行こうかね」


 喉を撫でるとゴロゴロと猫みたいに喉を鳴らすネコと交流を深めたら、あとはネコ科の皆さんで仲良くして貰ってるうちに生存者の存在にタッチしよう。そう思って雑居ビルの二回を見上げれば「ひっ……」とか悲鳴をあげられる俺。マジかよ化け物扱いかよ。


「えーと、そのビルに居るのは五人で全員だな? 外に出る気が有るなら来てくれ。そのまま立てこもる気なら邪魔はしない。何かしら返事をくれ」


 声をかけて、しばし待つ。


 俺達の戦いを見てた奴らが窓から引っ込み、部屋の奥でコソコソと何かを話し合ってる。


 エコーロケーションを駆使すればその内容も聞けたかも知れないが、そこまでする必要も無いだろう。


「五分ほど待つ。こちらと何も交流する気が無いなら、そのまま五分無視してくれ。五分経ったら勝手にどっか行くから」


 救出に来たが、別に強制じゃない。そんな善意の押し売りは相手にも迷惑だし、そんな方法で助け出した人材が働いてくれるとは思えない。


 俺はあくまで、生活を楽にする為の人材が欲しくて人助けしてるんだ。誰も彼もと救う気は無い。


 そうして五分。フリルもネコもミケちゃんもチカちゃんも、もっふもふしながら待った。


 すると結果が出たのか、ガタガタと雑居ビル一階の閉鎖された扉から音がして、外に出て来た。


 そして、すぐまた扉は閉められ、固くキツくバリケードが築かれる音がする。


「…………あー、なるほどね。そう言う選択か」


 出て来たのは、小学生くらいの女の子と、中学生くらいの男の子だった。


 要は、口減らしなんだろう。俺が信用出来ないから、虎の餌にでもされるんじゃないかって不安だから、を選んだんだ。


 俺を信用する必要も無く、保有する物資の減りを抑えられ、何をするか分からない男に人身御供ひとみごくうを与えて「無視はしてませんよ。お話しは聞きましたよ」ってていで居れる。


 確かにある種の最善手と言えなくも無い。バカでかい刃物を振り回して虎と戦うような頭のオカシイ奴と交流するなんてリスクを犯さずに済むから。


 つまり、あのビルの中には子供達の親は居ないんだろう。不運な場所に避難しちまったな、コイツらも。


「…………あ、あのっ」


「あー、うん。君達の処遇は何となく理解したよ。多分、追い出されたんだろ?」


 近くまでゆっくり、そりゃもうゆっくりと歩いて来た二人の子供に、俺は努めて優しい声で対応する。


 どちらも黒髪で、薄汚れた服を着てる。ろくに風呂も入れなかったんだろうな。えた臭いが漂ってる。


 俺の問いかけに気まずそうな顔をする中学生男子と、俯いて泣きそうな小学生女児。


「まぁ、君達が嫌だと言うなら、無理に連れてく様な事はしない。なんなら、ここよりマシな避難場所を探してあげても良い。ただ、断言するが君達を追い出す様な奴らが居る場所よりずっと良い待遇だぞ? 飯にも困らんし」


 欲しかったのは荷物持ちとかなので、子供は正直要らないんだよなぁと思いつつも、だけど流石にこの扱いをされてる子供を見捨てるのも目覚めが悪いかと提案する。


 俺の言葉を聞いた男の子は、シャツの裾を掴んでる女の子と何やらコショコショと相談した後に、顔を上げる。


「ほ、本当ですか……?」


「見てたと思うけど、俺はまぁ強いわけよ。だからある程度の安全は保証出来るし、自由に外を探索出来るから物資も好きに集められる。どうだ? これだけ聞いても、そのビルよりは良さそうだろ?」


 虎どころか猫の存在にもビビり倒してる子供二人に、なるべくわかり易く説明する。


「要するに、おじちゃんは外を自由に探検出来るから、お菓子も探し放題なんだよ。ほれ、クッキー食べるか?」


 しゃがんで女の子に目線を合わせて、迷彩服の胸ポケットから携行食として持って来てたクッキーを取り出して、女の子に差し出した。


「………………くれるの?」


「おう。おじちゃんは好きなだけ取ってこれるからな」


「…………あ、ありぁとぅ」


「良いってことよ。ちゃんとお礼が言えて偉いな」


 怖がられないようにゆっくりと手を伸ばして、女の子の頭をクシャクシャと撫でた。フケと脂で汚れた髪だが、今はそんなの気にする時じゃない。


「ほれ、お前にもやるから。そんな羨ましそうな顔すんな」


「えっ、あ……」


 女の子が受け取ったクッキーを見てた少年にも同じものを渡し、これ以上食料のやり取りを見せると雑居ビルの残留組が要らんちょっかいを掛けてくるかと思って、とりあえずその場を離れる事にした。


「さて、とりあえずは着いて来な。そこよりはマシな生活させてやるから」


「あ、ありがとう、ございますっ……」


「おじちゃん、ありぁとぉ……」


 クッキーのお陰でいくらか警戒が和らいでる間に移動を開始する。


「ミケちゃんとチカちゃんもどうする? いっそ一緒に行くかい?」


「にゃ!」


「にぅ〜」


「そっかそっか。じゃぁよろしくな」


 さりげなく猫ちゃんを追加でナンパしたら、多分快諾して貰えたと思う。フリルを見れば頷いてるので大丈夫だろ。


「ネコ。この二人は俺達の群れの子供だ。つまり守るべきだ。分かるな?」


「グルゥ……!」


「よしよし、頼もしいな。お前のシールドは普通に強いから、守りは任せたぞ」


「ゥグルル……」


 動物と会話し始めたやべぇ奴って視線を子供たちから受けながら、取り敢えず上野でやるべきタスクを終わらせたので仮拠点に帰る。


 まずは、子供たちの体を洗って飯食わせて、綺麗な服の用意だな。


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