千葉が良い。



「千葉が良いと思います。房総半島にある山の近くなら、ヤマトさんの希望を満たせるかと」


「ほう? その心は?」


 焼肉パーティをした翌日、仮拠点の荷物を整理して旅立つ準備をする俺達。


 しかし俺はまだ何処に行こうか決めてないので、ぼそっと「どこ行こうかな〜」って口にしてたら、一晩で色々と立ち直ったタクマに千葉をプッシュされる。


「ヤマトさんはイミテーターの異能でもう物資に困らず、それで居てある程度の生鮮食品を口に出来たら良いなって考えですよね。あと狩猟もしたいと」


「そうそう。イミテーターは今、集中的に鍛えてるからな。有機物のコピーも楽になって来てるし、生き延びるだけならもう何も困らん」


 イミテーターは最初、有機物のコピーに使う魔力が元手を割ってた。例えば500キロカロリーの肉をコピーするのに、600キロカロリー分の魔力を使う、みたいな感じだ。そのせいで食料品をコピーすると魔力回復の為に余計に食べて結局マイナスって結果になってた。


 しかし、めげずに使い込んで異能の成長を促した結果コピーの効率も上がって、今ではまぁまぁの黒字でコピー可能となってる。これから先も育てて行くので、もっと楽になっていくはずだ。


 そして、この能力でブロック栄養食とか缶詰とかをコピーしてれば、とりあえず飢えることは無いだろう。その間に自分たちでも何かしらの食料を産出出来る基盤を整えられたら完璧だ。


 そんな生活が良いなって思うから、栄養はブロック栄養食などで補えるから、たまに狩猟して、適度に生鮮肉や魚、野菜を食べたいなってのが俺の希望だ。


「房総半島の山にはキョンっていうシカの仲間が居まして、外来指定を受けるくらいには繁殖してるんですよ。半島なので海も近くて釣りだって出来ますし、その環境なら畑だって作れます。というかキョンが農作物に被害を出してるので、逆説的にキョンを狩れる位置で農業は可能なハズです」


 なるほど。聞けばなかなか良いプランに聞こえる。


「で、そのキョン? ってシカの味は? 美味いの?」


「食べたこと無いですけど、油が少なくて赤身が多いお肉だそうです。パサパサしてなくて、臭みも無くて、ジビエにしてはビックリするくらい素直に美味しいお肉だって聞きました」


「マジかよオッケー分かった千葉に行こう」


「それと、虎は森林に住んでる事が多いらしいので、ネコさんもそこなら過ごしやすいかなって……」


「タクマお前、完璧かよ」


 外来指定って、もう駆除じゃ追い付きませんって生き物が指定されるアレだよな。そうすると、俺やネコが思いっ切り狩っても早々絶滅はしないだろう。


「だってよネコ、どうする? シカが狩り放題だってさ」


「ルルゥゥ!」


 一応確認すると、聞いた事ないような鳴き声で上機嫌に肯定するネコ。明らかにタクマへの好感度が上がってる様子だ。しかしタクマはまだネコが怖いらしい。その愛は一方通行だ。


「フリル的にはどう? シカ狩りだってさ。通常でも美味いらしいし、魔物化してたら多分もっと美味くなってるはずだぜ」


「なぁぁぅ〜♪︎」


「チカちゃん達は?」


「にぃにぃ……!」


「にゃっ」


「よし、決まりだな」


 満場一致…………、いや違うな。ミルクの意見聞いてない。いやでも昨日からクリアコントロールにどハマりして魔力枯渇でグロッキーになってるから別に良いか。二日酔いの大人みたいに唸ってやがる。


「じゃぁ行くか。…………千葉へ!」


 こうして俺達は、東京都台東区上野から房総半島ちばけんを目指して旅立つ事になった。


「荷物は頼むぜ、ネコ」


「がるぅ〜」


 マツバは解体して、荷台とマウンテンバイクを分離した。フリーになった荷台はネコに引いてもらう。流石にこの人数じゃ全員でマツバに乗れないし、なら皆で歩こうぜって事になった。


 その際、どうせ歩く速度に合わせるのに、自転車邪魔じゃね? ってなって、ネコに引いてもらう事に。ネコならシールドの異能も使えるし、荷物を守るのにうってつけだ。


 目的地が決まり、持って行く物資も纏めて荷台に積んで準備は完璧。


 俺達は仲間が増えて手狭になった仮拠点から出発した。


 恐らくはもう二度と戻って来ないと思うので、仮拠点は鍵をかけずに解放していく。持ち切れない物資もある程度残して有るから、ここに辿り着いた生存者が有効に使ってくれる事を祈るばかりだ。


 駅ビルを出て、大所帯で上野を歩く。ストレングスの異能を最大限に活用出来る巨体を持つネコは、マツバから分離したリアカーを極太の虎尻尾でハンドルを持ち上げて引っ張ってる。全く重さを感じてない様な堂々たる牽引だ。


 ぶっちゃけると荷物持ちとしての人材はもう要らないなって思い始めた。ネコさえ居れば充分以上にリアカーを引いてくれる。


「ミルク、大丈夫か?」


「うぅ〜、あたま痛いよぉ……」


 歩けないミルクは荷台に乗って、未だにグロッキーだ。しかし、それだけ異能を使い込んでるなら魔力も異能も良く育つだろう。将来は立派な戦力として期待してるぜ。


 それと、猫組は三頭ともリアカーの荷台だ。ミルクのそばで看病してる。


「…………ふふ、皆で歩こうぜって言ったけど、結局歩いてるの、俺とタクマだけだな」


「ネコさんも歩きですよ。なんならリアカー引いてるから一番大変ですし」


「ああ、そりゃそうだ」


 まだ拠点を出て数分だが、なんかもうちょっと楽しくなって来てる俺が居る。


「房総半島か。楽しみだなぁ!」


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