上野一ヶ月。



「今日はこんなもんかね」


 上野に来て、もう既に一ヶ月。このくらい時間が経てば、世の中も淘汰とうたの並に飲まれて、生き残るべきを生きた人々だけが残ってる事だろう。


 そして、上野以外の動物園で醸造されただろう魔物の存在が、今から楽しみだ。


「フリルもすっかり魔女猫だな」


「なぁぅん♪︎」


「まぁ俺も、パッと見はもう完全にやべぇ奴だけど」


 上野頂上決戦を終えた俺は、あの後ずっと上野で魔石を狩り続けた。


 手に入れた異能に慣れる為でもあったし、何より異能を集めて俺とフリルの生存率を高めたかったから。


 現在、俺とフリルが持ってる異能は金色のレア魔石から得た物以外は全部横並びになってる。出来るだけ均等になるように割り振ったからな。


 結果、今こんな感じ。


 レア・

 ショックサイト(フリル)

 イミテーター(ヤマトおれ

 メタモルフォーゼ(フリル)

 アクアロード(フリル・ヤマトおれ


 アンコモン・

 サイコキネシス

 パイロキネシス

 クリアコントロール

 エコーロケーション

 エアロメーカー


 コモン・

 インテリジェンス

 ストレングス

 アジリティ

 クリアサイト


 うん。色々とツッコミどころがあるな。取り敢えずフリルの持ってるショックサイトは他で見た事無いから、一応レアじゃないかなって事でレアに分類してる。


 て言うか、今考えるとフリルってイミテーター以外は全部持ってるじゃん。マジかよこれが格差か。うちのフリルちゃん超強い。


 まぁそれは置いといて、一ヶ月も使って新しい異能が殆ど増えてない。アジリティとクリアサイトと、サイコキネシスくらいか。


 正確に言うとクリアサイトも新しい異能じゃなくて、前に飲み込んだ猫の目みたいな模様の魔石だ。あれ、やっぱり夜目が効く類いの異能だった。


 サイコキネシスはアクティブ能力のみで、使用者の膂力と同等の念動力が使える。そして、サイコキネシスで動かす対象が増えると、その分だけ持ち上げられる重さが減って行く。


 簡単に言うと、俺が今500キロ持てるとする。するとサイコキネシスで動かせる物の限界も500キロだ。だけど動かす対象を二個に増やすと、動かせる限界値が250キロになる。対象を五個にしたら100キロだ。


 サイコキネシスにはそんな制限が存在するが、まぁ概ね便利な能力だ。ちなみに素早く動かすのも難しい。出来なくも無いけど。


 最後にアジリティだが、これはパッシブで瞬発力が上がって、アクティブ能力を使うと全ての動作に速度補正がかかる感じか。なかなか楽しい基礎魔石だった。


 アジリティの魔石は、魔物化した猫が良く持ってた。猫はやっぱり精霊化する確率の方が高いみたいで、魔物化した猫は結構レアだったので今まで手に入らなかった魔石だが、この一ヶ月で六頭ほど魔物猫と遭遇して戦った。


「久々に熊を狩れたし、今日は帰るか?」


「なぁう!」


 そんなこんなで一ヶ月。もう上野で新しい魔石は手に入りそうに無いし、持ってる異能も育ちつつあり、何より俺とフリルが戦闘に慣れてきた。そろそろ別の場所に移動するべきかと思う。


 今の俺は装備も一新して、より強くなった。


 街中からタングステン製の製品を集めてパイロキネシスで溶かし、2センチ厚の鉄板に加工した後にクリアコントロールで砥石とダイヤの粉末をいた水で徹底的に研磨して、新しい武器を作ったのだ。


 漫画だったら「それは剣と言うにはあまりにも……」ってナレーションが付きそうな大剣だ。重くて硬い。常人ならまず持てない質量兵器だが、ストレングスの異能が育ってる今の俺なら問題無く扱える。


 四万円で買った蛮刀も健在で、サブウェポン兼作業用として腰にげてある。


 そして、お巡りさんや自衛隊員の遺体からかっぱらった銃。


 日本警察採用回転式拳銃リボルバーS&W M360J SAKURAサクラと、自衛隊採用装備の八九式自動小銃アサルトライフルだ。


 いや、やっぱ銃って強いわ。音速の攻撃ってだけでメリットがある。


 金猿から得たイミテーターのお陰で、コピー元に使う弾薬さえ維持してれば弾は無限に使える。なんなら弾倉ごとコピーしても良い。


 しかしながら、ファンタジー漫画かってくらい無骨で巨大な大剣と、更にアサルトライフルまで背負った男。うん、やべぇ奴だよ。俺なら絶対に近寄らないね。


 服装も、灰色っぽい都市型デジタル迷彩の戦闘服をミリタリー趣味っぽい民家を家探ししてパクって着てる。その上からシロクマから剥いだ毛皮を何とか鞣して羽織れる様にした。


 迷彩服の上にガタガタの毛皮服を纏う、完全武装の男。…………うん、やべぇ奴だよ。俺なら以下略。


 ちなみに、毛皮は鵺のも有るよ。今日はシロクマの気分だったのさ。


「…………なんか、イミテーターを手に入れた時点で、マジで終末世界もエンディングした感あるよな」


「にゃぁ?」


 あとはもう、好きに生きて好きに死ぬだけ。そんな未来を予想しながら、仕留めた熊を背負って荒廃した上野を歩く。


 停めてあったマツバまで戻ったら、アクアロードとクリアコントロールを駆使しつつ、蛮刀で熊の腹を裂いて解体を始める。魔物化した熊はめっちゃ旨いから余すとこなく持ち帰る。


 熊の胆は薬になると言うが、もしかしたら魔物化した熊の胆はもっと凄い効果が有るのでは?


「…………まぁ処理の仕方なんて知らないから、廃棄だけどな」


 掻き出した血は機能してるかも分からない下水に流し、要らない内臓はパイロキネシスで消し炭にする。一ヶ月の狩り暮しで魔力も増えてるので、俺自身もなかなかファンタジーな人物になりつつあるぜ。


「このシロクママントだって、書店とか荒らしまくって専門書読み込んで、やっと完成させたんだからな。今から熊の胆から薬を作るとかやってられねぇよ」


「にゃぁ?」


「ん? ああ、そうか。イミテーターのお陰で物資に余裕はあるから、そう言う専門の人材探して囲うのもありか」


 もはやフリルと普通に会話出来てる謎も気にせず、俺は言及された事に対して考える。


 ずっとフリルとだけ生きようって思ってたから、生存者を助けて協力者にするって意識が無かったな。単純に荷物持ちとかでも助かるっちゃ助かるし。


「んー、じゃぁ上野から出るまでに、ちょっと生存者探しますかぁ」


 上野でやる最後の仕事として、生存者救出クエストが発生した。ちなみに仮拠点がある駅ビルに居た生存者はもうとっくにお亡くなりだった。多分、なにかトラブって殺しあった臭いんだよな。


「さて、熊肉を凍らせて仮拠点に運んだら、生存者探して見ますかね」


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