鵺の罠。



 前足の叩き付けをバックステップで避け、伸びた尻尾の一閃もさらにバックステップ。

 

 ストレングス入りの尻尾攻撃は普通に脅威だからな。


 フリルの可愛い尻尾でさえ、最初のストレングス獲得だけでもそこそこの力があったのだ。こんなにクソデカにゃんこの極太テールに殴られたり掴まれたら、その時点で終わると思って良い。

 

 そう思うと、猿の投擲戦術はかなり理に適ってたと言える。

 

 この虎相手には遠距離から一方的にボコるのが多分正解なんだ。


「ようエテ公! 俺が前衛やるから後ろから援護しろや!」

 

「ゥギッ……」

 

「このままじゃどっちにしろお前もジリ貧だっただろうが! 良いから協力してアイツ潰すぞ!」


 言葉は通じない。だが極限の興奮状態はフィーリングで意思疎通を可能とした。

 

 俺はまたインテリジェンスを起動しながら吶喊。しかし今度は背後からの援護付き。顔面を執拗に瓦礫で狙われる虎は、俺に集中出来ない。


「死ねよらぁぁァァアアアアアアッッ!」


 ゴスゴスと良い音がなってる猿の投擲に紛れ、虎の振るう足と尻尾を避けながらの戦闘。

 

 ストレングスのパッシブだけでは足りず、魔力を使ってアクティブでも使う。そして大きな斧を右手一本で操り、左手には腰に挿した蛮刀を抜いた。

 

 斧は確実に両手で持った方が強いのだが、それはストレングスのアクティブ効果で補い、手数を増やす。と言うか防御も攻撃にする。

 

 回避しか選択肢が無かったが、短く取り回しが楽な蛮刀の刃で攻撃を受ける事でカウンターとし、さらに斧で積極的に攻める。変則二刀流だ。

 

 ただ、それでも攻め手に欠ける。


「マジかよッ、再生とか反則だろッ……!?」


 そう、虎の皮膚がメチャクチャ斬り難いくせに、斬った場所がにゅにゅにゅっとくっ付くのだ。肉体改変の異能で「斬れた皮膚」を改変して事実上の再生を行ってるっぽい。チートじゃねぇかクソが。

 

 持って来る武器間違えたっぽいぞコレ。斬れないなら斧よりハンマーの方が良かったかも知れない。でも今更武器交換なんてしてる暇は無い。


「エテ公、瓦礫一個こっちに……、はぁっ!? ちょ--」


 斬撃武器は相性が悪いと思った俺は、微妙にストレングスの成長が足りてないっぽいエテ公に瓦礫をコピーした砲弾を要求しようと振り向いたら、すぐにエコーロケーションに意味不明な反応を捉えて回避する。

 

 猿にコンタクトを取ったのを隙と見たのだろう。虎が異能で尻尾を変形させて襲って来た。その尻尾は蛇の形をしていて、俺に噛み付こうとしていた。下手したら毒持ちの可能性まである。


「こいつ、黒い虎って言うより、もうぬえだろコレ! ガチの妖怪かよ!」


 エコーロケーションで周囲の空間把握が出来てるお陰で避けられたが、にょいーんと伸びて噛み付いてくる蛇型尻尾は普通に厄介だ。

 

 こんなマジモンの魔物を見るのは、もっと共食いが進んだ後だと思ってたんだが、肉体改変なんて異能が有るなら本物の魔物に成り放題だわな。


「チぃッ、やってやんよぉッッ……!」


 俺は斧をひっくり返し、刃の裏をハンマー代わりにして虎を、鵺を殴る。

 

 このクソが。尾が蛇で、前足も必要に応じてぐにゃぐにゃ伸びるから猿っぽいし、マジで鵺にしか見えなくなって来た。コイツの体が異様にデカいのも、肉体改変の異能が原因か?

 

 そんなにメキメキボキボキと肉体を変えてるの見ると、絶対体に悪そうだと思うけど、こと戦闘に関しては優秀な異能らしい。

 

 フリルが欲しがってる異能だが、フリルがこんなにバケモノっぽい変異をしたら、正直悲しい。出来れば傷の再生とかで留めて欲しい。

 

 再生能力としてなら、むしろフリルの生存能力が爆増するだけなのでウェルカムだ。フリルの生存は全てに優先される。


「……ラァァアッッ!」


 斧の背でぶっ叩く。

 

 薙がれる四肢を叩いて逸らして、鵺の間合いで斧を駆る。


「エテ公弾幕足りねぇぞッ!」

 

「ギィイッッ……!」


 鵺が猿の投擲に慣れて来てる。と言うか猿のストレングスが足りてないから決定打にならない。つまり弾幕が薄い。

 

 もし俺が介入して無かったら、今頃あいつ殺されてたんじゃね?

 

 ならば、足りてない弾幕は俺が補わなくてはならない。斧で顔を叩いて視界や呼吸の邪魔をする。猿が担当してた補助に介入する。


「ルァ……」


 しかしその瞬間、鵺がニタァッと笑った。いや、嗤った。


「しまっ--」


 俺が叩き付けた斧を、鵺が口でキャッチした。

 

 弾かれるばかりだった戦闘で、突然『掴まれる』のは想定外だった。

 

 鵺はこれを狙っていたのか。俺が鵺の顔を狙う瞬間を待っていたのか。まんまと誘われた俺は、そのまま片手で保持していた斧をスポッと奪われた。

 

 そして奪った斧を投げ捨てた鵺は、またニヤァッと笑う。


「やばっ……!?」


 斧を失った。残るは蛮刀。攻め手が無くなった。手数が減った。守るしか無い。

 

 そんな状況の俺に、鵺は壮絶な笑みと共に、四肢と尾を繰り出して来た。


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