焼肉パクパク。



「………………えっ!? 猫ッ!? て言うか、魔物じゃなくて精霊個体じゃねっ!?」


「にゃん!」


 ゲートから顔を出したのは、三毛猫と白いマンチカンのコンビだった。


 終焉から今日まで、俺はフリル以外の猫は一匹も見てないので、これは普通に驚く。

 

 しかも魔物じゃない。目が濁ってないし、血走ってもない。

 

 フリルと同じで、正しく魔物化した精霊である。

 

 まぁこの呼び方も俺が勝手にそう呼んでるだけなんだけども。

 

 もしかして、猫も人間と同じく魔物化しずらいのだろうか?

 

 ホームセンターの暴徒の件もあるし、完全に魔物化しない訳じゃ無いだろうけど。


「あ、ちょい待ってくれな、今ゲート開け……、いや、猫ならそのまま通れるか? 敵対しないなら、そのまま入って来て良いよ?」

 

「なぁぅ」

 

「にゃ……」


 ゲートは鉄パイプを金具で繋げて組んだ物なので、猫なら普通に隙間から入って来れる。

 

 今気がついたけどコレ、防衛的には完全な欠陥だわ。後で直そう。

 

 俺が許可してから拠点内に入って来た二頭の猫は、見るからにやつれて、くたびれてる。本当ならふっかふかのもふもふだっただろうに、薄汚れて痩せこけてる。

 

 見ただけで「可哀想」って感想が浮かぶような様子だ。


「お、お腹減ってるのか? その痩せ方で急に肉食っても大丈夫なのか? キャットフードもあるぞ? なぁフリル、流石にこれは分けてあげても良いだろ?」

 

「にゃんっ。にゃっ、にゃっ!」


 見てられなくて、俺はフリルに許可を取ってすぐバックヤードに駆け込み、そこに積んであるキャットフードの袋からゴソゴソと結構な量のドライフードを箱に入れ、ショップ側に戻った。


「これ、どうしようか。水でふやかした方が良いか? お腹壊したりしないか……?」

 

「…………にゃぁう。にゃ!」


 俺が結局あたふたして決心つかずに居ると、フリルが動いた。

 

 バックヤードから自分用の取っておきウェットフードをいくつか尻尾で握って持って来て、俺が飲んでた口の空いたペットボトルからクリアコントロールで水を抜き出す。


 そしてそれをパイロキネシスで熱してからドライフードに適量注いで、少し冷ましてからその上にウェットフードをダバダバとかける。

 

 もう、見るからにお腹に優しそうで、なおかつ猫にとってご馳走に見える感じのお皿が二つ出来上がった。


「ふ、フリル……、おま、ただでさえ女神なのに、料理まで出来るのか……」


 俺は相棒のハイスペック具合に戦慄した。感涙しそうだ。

 

 そんな俺をよそに、フリルは出来上がったご馳走を三毛猫とマンチカンに差し出した。やっぱ女神だぜフリル。


「にゃぅ♪︎」

 

「…………なぅ」

 

「にゃぁ……」

 

「にゃっ、にゃぁ! にゃぅあぅ♪︎」


「何この尊い絵面。猫と猫と猫が会話してる……。尊い…………」


 何やら会話的な物をしたあと、フリルに強く勧められた二匹は、少し遠慮してたけど我慢も出来なくなって、ゆっくりと食べ始めた。

 

 元々、ペットフードって言うのはそのペットに最も適して健康で居られる配合なのだ。言い換えれば健康食品みたいな主食なのだ。

 

 それを食べやすいようにふやかして、さらに旨みが強くオヤツによく使われるウェットフードまでかかった食事は、痩せ細った二匹にとっては本気でご馳走だったのだろう。

 

 やがてガツガツと食べ進めるようになり、気が付くと猫達は泣いていた。

 

 こう言う場面って、猫でも泣くんだな、なんて、場違いな事を思いつつ、俺はその光景を見守っていた。


 パクパクと焼肉をしつつ。


 いや、だって焦げちゃうし、今日食べ切るつもりなんだし、焼肉の手を止めてはならぬ。

 

 フリルにもお肉を焼くが、フリルは焼きあがったお肉のうち、比較的薄くて小さい、消化しやすそうな切り身を選んでは二匹に分け与えていた。


 まじ天使。慈愛の女神かよ。

 

「猫ちゃんたち、少なくともここは安全だから、腹いっぱい食って、ゆっくり休んでくれな」


 仮拠点完成のお祝い焼肉パーティだったが、さらにフリル以外の精霊個体とも知己を得られるなんてサプライズ付きで、なかなか有意義な日だった。

 

 こんな感じで、終焉から五日目の活動は、まったりとした空気の中終わった。


「さぁ、明日からも頑張るぞぉ〜!」


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