出発。



「一つ、俺は凶暴化した動物を魔物と呼んでます」


 荷物を持って来てくれたお礼に、俺は口を開く。


「…………え?」


 リアカー自転車を受け取る時に、本当に何となく、気まぐれで教えてあげる。


「一つ、魔物の頭、もしくは心臓付近には紫紺色で菱形の不思議な宝石があります。俺はそれを魔石と呼んでて、それを丸呑みすると魔物の持ってた不思議な力が手に入ります。俺はこれを異能と呼んでます」


「…………あの?」


 完全に、異常者を見る目で見られた。


 まぁ仕方ない。昨日までなら、俺だってシラフでこんな事言ってる奴は「うわヤベェ」って近寄らない。すぐ距離をとる。なんなら通報する。


 変な目で見るだけで許してくれるスタッフさんは、むしろ良い人だと思う。


「まぁ、頭の片隅にでも置いといてください。じゃぁ、俺たちはもう行きます。お互い、生き残りましょうね」


 俺はそれだけ言って、マウンテンバイクに跨った。


 マウンテンバイクには通常、前カゴなんて付いてないけど、フリルを乗せるために買って店内で取り付けた。カゴの中も猫用のベッドとクッションが入ってるので、カゴに直接乗って痛いってことも無いと思う。


「にゃあ?」


「あ、うん。それは仕方ない。諦めよう」


「にゃぁ…………」


 いざ出発、って時にフリルから質問された。もちろん言葉は通じないが、俺とフリルならフィーリングで分かり合える。


 フリルは殺した暴徒の頭を漁ってインテリジェンスの魔石を回収しなくて良いのかって聞いてる。


 だけど、ホームセンターの人達が見てるんだよね。そんな目の前で殺人やらかした上に、殺した相手の脳みそ掻き出すとか、ヤバ過ぎるだろ。


 さっき「これは仕方の無い殺しなんです」ってゴリ押ししといて、死体損壊とか洒落にならん。弁解の余地無く異常者だ。


 取り出した魔石を見せても良いけど、その魔石が脳内に入ってたって証明するには、ほじくり出す瞬間を見てもらわないとダメだし、普通そんなシーン見たくない。


 だけど見てもらわねば、俺が予め魔石をこっそり手に持って、それで訳分からん妄想を語って行動の正当化をしてるヤベー奴疑惑が晴れないのだ。


 つまり詰んでる。どうしようもない。だから諦める。


「まぁ、不道徳な発言だけど、死体なんてそこら辺に転がってるだろ?」


「にゃぅ」


「そう言う訳だから、今回は諦めてくれ」


 そんな訳で、今度こそ出発。


 俺は未だにドン引きしてるホームセンターの人達に手を振って、山ほど荷物を積んだリアカーを自転車で牽引する。


「物資は手に入ったし、この先もっと世界が壊れたら、スカベンジでもして物資は漁れる。だから、今は魔石集めが最優先だな」


「にゃぅ……♪︎」


 魔石集めが一番簡単に出来るのは、今なのだ。


 この先、魔物が共食いして異能を強化して行けば、普通に殺し難くなる。殺せないだけなら良いが、強くなった魔物に俺たちが殺されるかも知れない。


 だから、まだ魔物の多くが強化されてない今のうちに、なるべく大量に魔石を確保する必要があるのだ。


 魔物が強化された後にも、一方的に殺されなくて済むくらいの強さを手に入れる為に。


「すると…………、目的地は動物園か?」


 確実にヤバい事になってるだろけど、その代わり確定で多種多様な魔石が手に入るはず。

 

 そして時間が経てば経つほどにヤバい魔物が出るのも、動物園付近のはずだ。なので今のうちに殺しておくべきでもある。

 

 魔石の獲得と、後のバケモンを弱いうちに排除する。二重の意味で優先度が高い目標だと言える。


「…………まぁ、大型肉食獣を今の段階で殺せるかって話しなんだけどな」


 そもそも、近場に動物園無いし。

 

 この状況でマトモに車が使えるとは思えないから、現在は自転車が最高の移動手段のはず。

 

 それで、魔物の襲撃なんかを鑑みて、自転車で最寄りの動物園を目指した場合にかかる時間を考える。


「……数日は使いそうだな。流石に一日じゃ無理だ」


 崩壊したり、車が横転したりとハチャメチャに成りつつ有る世界を、周囲警戒しながら上野まで移動?


 うん。普段の数倍から十数倍は時間を掛ける必要が有るな。


 そうなると、動物園の魔物も相応に強化が終わってそうだ。マジかよ辛い。

 

 ならば、こっちも強化しながら向かうしか無いだろう。

 

 初動だ。何事も初動でアドバンテージ稼いだ者が正義なのだ。一週間だ。一週間で俺とフリルは終末世界を生き残るに足る異能を集めてみせる。


「その後は、終わった世界で悠々自適なスローライフでも送ってやろうぜ」

 

「にゃぁ……♡」

 

「そんじゃぁ、まぁ行きますか。まず目指すは上野! 東京で多分一番有名な動物園!」


 こうやって、俺とフリルの終末世界サバイバルは本格的にスタートしたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る