魔物化した人間。



 俺はインテリジェンスの異能を意識して、魔力を少し消費して脳を活性化する。


 これは頭が良くなるって漠然とした認識だったけど、良く考えると脳の性能が上がるんだったら処理能力も上がるし、動体視力とかにも影響するんじゃないかと思った。


 そして使って見たらその通りになったので、俺は上昇した動体視力で暴徒が突き出した槍を紙一重で回避、そしてスレッジハンマーを一閃した。

 

 顔に向かって突き出された槍を避けてすぐの一閃なので、体勢的に頭は狙えなかった。代わりに肋骨をベキバキってへし折りながら吹っ飛ばした。


「テメェェエエッッ!」

 

「死ねやァァあっ!」

 

「テメェらが死ねよらぁぁぁああああッッ!」


 振り下ろされるバッドも、突き出されるナイフも、横薙ぎされる槍も、全部インテリジェンスブーストで紙一重で避けて、ストレングスブーストで一撃必殺。

 

 ゴリゴリ魔力が減って行くからめちゃくちゃダルい!


「んだテメェこのやろぉらぁあ!」

 

「あっ、やべ……」


 急激な魔力消費に慣れてなかった俺は、突然膝の力が抜けてカクンッと姿勢が崩れる。あと一人ぶっ殺せば終わりって所で、確実に避けられない槍の一突きが迫る。


 ああヤバい、これは死ぬ。ぐぬぬ、何とか回避せねば……!


「にゃぁんッッ……!」


 しかし、やはり俺の天使は天使だった。

 

 回避不能のタイミングで刺突を放つ魔物化した暴徒に、フリルがゲート近くからショックサイトをブチ当てて援護してくれた。

 

 衝撃波を食らった最後の暴徒は当然、軽くだが吹き飛ぶ。

 

 ショックサイトは距離に応じて威力が落ちて、チャージ時間を作ると威力が上がる仕様らしい。ペス君の時にじっとしてたのはチャージしてたんだね。

 

 今はなけなしの魔力で使う小さなショックサイトを、少しでも威力を上げて援護してくれたんだろう。マジ俺のフリルちゃん天使過ぎる。


「死ィっ--」


 俺の天使ちゃんが稼いでくれたこの一瞬、逃してなるものかよ。


「--ネよらぁぁあアアアアアッッ……!」


 今度こそはと、力が抜けない様に踏ん張ってスレッジハンマーをフルスイング。咄嗟のことで頭を守ろうとする暴徒の腕ごと、ガードごとブチ抜いて頭を潰す。確実に即死だ。

 

 信じられるか? これ、まだギリギリ警察機関が動いてるかも知れない日本で殺っちまったんだぜ?


「ふぅ、討伐終了」


 さて、あと問題なのは、俺の殺人を一部始終見ていた皆様をどうするか。

 

 振り向けば、フリルが助けた女性が、フリルを抱っこしてた。


 年齢は十八? 二十歳? まぁそのくらいの女の子だ。


 見た目はかなり可愛く、襲われたのも少し、頷ける。


「大丈夫だったかい?」


「……ひぃっ」


 声を掛けたら怯えられた。まぁ仕方ないよね。


「うん、まぁ怖がられるのは仕方ないよな。……とりあえず、フリルの事を離してくれる?」


 言うや否や、フリルは解放される前から自分で「えいやっ」と女の子の腕を跳ね除け、俺の元までトテトテ歩いて来た。少しフラついてるので、やっぱり魔力的に限界らしい。

 

 まだ良く分かってないが、魔力はいずれ回復するのだろうか? 

 

 もしかして何かしらのアイテムを使わないと回復しないタイプの魔力だったらどうしよう。初日に魔力使い切るとかヤバ過ぎる気がする。


「フリル、大丈夫か?」

 

「にゃっ……」

 

「女の子を守って戦って、偉かったしカッコ良かったぞ。さすが俺のフリルだぜ」

 

「にゃぅ」


 やはり少し、元気が無い。

 

 それでも俺が褒めれば嬉しそうに鳴いてくれるフリルがいじらしくて、抱っこして撫で撫でする。

 

 ひとしきり撫でて満足した俺は、「ひ、人殺し……」と呟いてる人々、ゲートの中に居るスタッフさんや避難民を見た。


「……えーと、先に言っておく。俺が殺した相手は、見ての通り暴徒だった。金属バットはまだしも、刃物を括り付けた槍まで持ってた。正当防衛とまでは言わないが、無実の人を一方的に殺した訳じゃない」


 まずは「殺した」ってインパクトのある事実から目を逸らして貰って、「止むを得ない事だった」と認識してもらう。

 

 それだけでも大分違うはずだ。


「それと、確証は無いんだけど、この暴徒は多分、いま動物が暴走してるのと同じ状態になってたと思う。つまり、平気で人を殺せる危険生物になってた。……襲われてた女の子、アナタなら分からないかな? アイツらの目が、暴走してる犬とかと同じ感じだったんだけど」

 

「………………あっ」


 ゲート前で、フリルを抱っこしてた女の人に語り掛けると、心当たりがあったみたいな反応を見せてくれた。よしよし、それで良し。

 

 深く考えたり正気に戻ったりすれば、「いやそれでも殺しはダメ」となるだろうけど、だからこそ今のうちにゴリ押しで自分を正当化する。

 

 未だに至る所でファンファンとサイレンが鳴ってるので、警察とか呼ばれると面倒だ。フリルの殺処分とか言われたら警察でも殺す自信がある。

 

 …………ん? いや有りか? 警察襲って、リボルバー手に入れるのは有り?

 

 いやいや、ダメだな。それで手に入れても、弾薬が続かない。お巡りさんなんて、持っててもリロード一回分の弾薬が精々でしょ。そして一発目は空砲を入れてるって聞いた事がある。

 

 警察用の拳銃、ニューナンブとサクラは、装弾数いくつだっけ? 五? 六?

 

 まぁどっちにしても、リロード一回分入れて十発から十二発、そこから空砲抜いて九発から十一発か。それだけの為に警察官襲うのはナシだな。リスクの方がデカ過ぎる。


「まぁ、自分を正義の味方だなんて言うつもりは無いけど、少なくとも俺はこれを必要な事だったと思うよ。お嬢さん助けられたしね」


 そう言って、俺はゲートの中に入ろうとするが、スタッフさんにやんわりと拒否される。

 

 いやいや、待てよ。俺の買った物資がすぐそこにあんねん。お? やんのか? おん?


「あ、これどうぞ……」


「ああどうも」


 そんなやり取りをしてたら、最初に対応してくれたスタッフさんが、リアカー自転車を運んで来てくれた。


 ありがてぇ。「猫ちゃんが!」って教えてくれた人だ。


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