暴徒と戦闘。
「お、お客様っ、猫ちゃんが……!」
全ての購入手続きを終えて、自転車とリアカーのセッティングも行い、荷物を全て荷台に詰め込んでゲートに向かった俺は、そこで敷地に入場する際に対応してくれたスタッフさんに声をかけられた。
慌てた様子で柵の外を指さすスタッフさん。
それに釣られて視線を送れば、そこでは八人程の暴徒と戦うフリルが居た。
意味が、分からなかった。
金属バットや、パイプにナイフを括り付けた槍なんかを持ってる暴徒が、どうやら白昼堂々と、ホームセンターに避難しようとしていた女性を襲い、乱暴をしようとして居たらしい。
フリルはそんな女性を守り、八人の暴徒を相手に戦っていた。
それは本当にすぐそこで起きてる話しで、出入りゲートのほぼ目の前で行われている。
なのに何で、誰も助けに行かないのか。
いや分かってる。ホームセンターのスタッフさん達は、あくまでホームセンターを守っている。
だからすぐそこで行われているとは言え、いつ魔物化した動物に横槍を入れられるか分からない異常事態では、敷地から出て助けに行けないのだ。
もちろんそれを禁じる法なんて無い。
普通に助けに行っても良い。
だがその結果、あっさり死んでも完全なる自己責任。誰も責任なんて取ってくれないのだから。
「…………何してんだテメェらぁぁぁあッッッ!」
だから、俺が行く。俺がとりあえずブチ切れる。
暴徒に何があったのかは知らない。
まだ今日と言う地獄が始まって数時間しか経って無い。
なのにバットはまだしも自作の槍を持ち出して、避難しようとしてる女性を襲って尊厳を踏み躙ろうとするなんて、どれだけ頭がイッてるのか? コイツらの精神性が少しも分からない。
「死ねよラァァアアッッ……!」
だが、俺の目の前でフリルを襲ってるなら、もうその時点で殺すに値する。理由なんて知らん。取り敢えずぶっ殺す。
俺はその場でリアカー付き自転車から降りて、リアカーの中から適当な武器を一つ握って飛び出した。
ゆっくり選んだ訳じゃ無いから適当だったが、持った武器はスレッジハンマーだった。つまりあのクズ共の頭をコレで潰せばいいんだな?
俺はゲートから飛び出してすぐに居た槍持ちの頭に向かって、スレッジハンマーをフルスイングした。当然ストレングスの異能もフル活用の全力だ。
倫理? 道徳? 知るかボケ。フリルの敵はすべからく死ね。
「殺っ……!?」
「い、いやぁぁぁぁぁぁああああああっっッッ……!?」
「ひと、人殺しぃっ!」
当たり前の結果として、暴徒一号の頭が弾けて即死した。俺はこの瞬間から完全なる人殺しになった。
お陰でゲートから見てたスタッフさんや一般人から人殺しと呼ばれてしまった。甘んじて受け入れよう。
「フリル! 下がれ! そのお嬢さんをゲートに連れてけ!」
「にゃっ……!」
フリルに呼び掛けると、覇気のない声で答えてバックステップ。俺とスイッチしてくれた。
明らかに疲れてる。異能を使って魔力を消費すると、凄まじく疲れる。
特にフリルのショックサイトは結構魔力を使うらしく、そしてここに来るまでにもフリルは結構な回数それを使ってた。
つまり、フリルは結構ギリギリだったんだ。
言うて衝撃で吹き飛ばすだけの異能だ。ストレングスで筋力が倍になっても、元が猫じゃたかが知れてる。
ショックサイトとストレングスだけじゃ八人もの暴徒は相手に出来なかったんだ。
「だが、俺ならストレングスだけで十分っ!」
「んだテメェ!」
「良くもヨシキを殺りやがったなぁッッ!?」
スレッジハンマーを構えて肉薄、次のクソを仕留めようとするが、その前に気が付く。
こいつら、マジで目がイッてる。あの時のペス君と、その後にも襲って来た犬と一緒だ。
血走って、正気を失って焦点が微妙にあってない。瞳の中が濁ってるように見えて、俺を見てるのに俺を見てない。意味不明な視線がそこにある。
それで分かった。思い至った。
ああ、そうか。そりゃそうだよ。人間だって動物の一種だ。つまり、人間も魔物化するんだ。こいつら、魔物化してやがるんだ。
だからこそ、まだ世界が終わったと言うには早過ぎる段階で、人前でも白昼堂々と女性を襲うなんて暴挙に出られたんだ。
「死ねよらぁぁぁあああああっっ……!」
魔物化した生き物が元に戻るかどうかなんて、俺には分からない。
だが少なくとも、コイツらは今、その辺で人間殺してる動物達と殆ど変わらないレベルの危険生物になってるのだ。だから駆除せねば。
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