客じゃない客。



「いやドン引きするわ」

 

「…………にゃぁん」


 普通にお店やってましたわ。マジかよスーパーバビホーム強過ぎ無い?

 

 そりゃ敷地をガッチガチに固めてるし、出入口とか徹底的に封鎖して出入りを一箇所に纏めてたり、色々と手を尽くしては居る。


 だけど、すぐそこで凶暴化した犬やら鳥やらに人々が襲われてる中で普通に営業してるの強過ぎるだろ。


「……ああ、いや、ここの人達はアレなのか。この地獄は最終的にしっかりと終息して、日常が帰って来るって前提で動いてる派なんだな」


 つまり、ここの人達はまだ普通に金銭でやり取りが可能なのだ。確か店舗内にATMもある筈だし、せっかくだから思いっきり使おう。

 

 丈夫な斧と鉈、それに丈夫で長持ちしそうな自転車とその予備パーツも用意したい。テントやキャンプガジェットなんかも普通に欲しいし必要だろう。そしてそれらを運ぶ為に自転車に繋げるリアカー的な物も欲しい。

 

 可能なら食料も。ブロック栄養食とか大量に買いたいし、フリルの為のペットフードも欲しい。

 

 あれも欲しいこれも欲しい。そんな思いを胸に抱いて、いざ参らん! ってお店に入ろうとしたら入店拒否された。


「ご覧の通りの状況ですので、動物の入店は全面的にお断りしております」

 

「あー、はい。なるほど」


 フリルを連れての入店は無理だと言われた。マジかよ殺すぞテメェ。


 うちのフリルはお前らよりよっぽど賢くて理性的だっつんだよボケが、なにフリルを拒否ってんだァァンンンっ???


「にゃんっ!」

 

「あぃたっ」


 唯一敷地に入れるゲートで店員にメンチを切ろうとした俺は、他ならないフリルに頭を叩かれた。「良いからはよ準備して来いや。待ってるから」って感じだろうか。ちくしょう、単純に俺がフリルと離れたく無いのに。


「……くぅ、分かったよ。行ってくるから、ここでお留守番しててくれな?」

 

「にゃぅんっ♪︎」


 俺はゲートの前で自転車を降りて、邪魔にならなそうな場所に無断拝借してる自転車を乗り捨てると、そこでフリルと一時的に別行動になった。

 

 一応、店員に「あの猫に攻撃したらお前を殺すからな」と釘を刺してから大型ホームセンターにエントリー。いざ買い物だ。


「まずはATM。これから先使う事が無くなるだろう日本銀行券を使い切ってしまえ。もちろんカードも上限まで目いっぱい使うぞ」


 そう意気込んで入った店内は、まぁ殺伐としていた。

 

 殆どの場合、この店に来てる人間は避難の代わりに居座ってるのだ。自衛隊などが動いて魔物化した動物を駆除して、日常に帰れるその日まで、物資が豊富で防御も厚いこの大型ホームセンターに居座る事で安全を確保しているのだ。

 

 なので、ここに居る人間の半分以上は、店にある物がその内、事態が悪化した時にホームセンターが避難所と化せばタダで手に入る物であり、いま購入する必要が無い物なのだ。

 

 つまり殆どの人間が買い物なんてして無い。マナー悪く店内の床にベッタリと座って休んでる人ばっかりだ。そして、この段になってまだ店として営業してる店員たちの正気を疑ってる程だし、正直それは俺も思ってる。

 

 ただ、ここまでモラルが低下してて、外がアレで、よく暴徒化しないで済んでるなとは思うが。まぁ、ここで暴れて物資の取り合いになっても、外に出たら凶暴化ワンワンとのデスマッチだしな。問題を起こすよりも大人しく過ごすか。


「さて、スムーズに行こうか」


 そんな店内の様子を観察しながら店舗内ATMでありったけのお金を降ろした俺は、早速店内を物色する。

 

 買い物目的で店に来てる人間は本当に少なく、これだけ人間が来てて、俺の他には五組くらいしか居ない。そして、この五組は俺と同じく「地獄が終息するか分からない」もしくは「地獄が常態化する」と予測してる派の人間なんだろう。やっぱり見てる商品からそんな気がする。

 

 だって被るもん。食料やキャンプガジェットに、武器になりそうな長物とか、とにかく外で活動するのに必要そうな物ばっかり見てる。


「……これから生き残ったら、多分どこかでかち合うんだろうな」


 呟きながら、俺はまず頑丈そうな自転車とリアカーを見る。もちろん繋いで使える規格の物を選ぶ。

 

 そして俺が選んだのは、八万円くらいするクソ頑丈そうなマウンテンバイクと、そのマウンテンバイクに使える付属アイテム色々。そして付属のアイテムを使って接続出来る大型のリアカーを一台。まずコレだ。

 

 自転車の周辺アイテムには面白い物もあり、「ノーパンクジェル」なんて名前でチューブの中に注入して使うパンク防止剤もあった。これは使えると思って、マウンテンバイクとリアカー分を予備含めて購入決定。ついでに自転車とリアカーのタイヤも予備が必要だし、自転車はチェーンの予備も欲しい。


「世界が壊れたら、自転車のパンクなんて簡単には直せなくなるかなら。パンクしなくなる充填材とか有るならそりゃ買うぜ」


 足の用意が出来たなら、次は武器だ。

 

 四万くらいの高級な蛮刀が売ってたので、二本ほどカゴへ。刃渡りが四十センチオーバーでデカく、めちゃくちゃカッコイイし、質実剛健って感じの作りだし、サバイバル的にも見た目的にも完璧にドストライクだった。買うしか無い。ついでに腰鉈も二本選んでおく。

 

 そして大きな斧も選ぶ。シンプルな見た目で使い易く壊れ難い感じの物を二本。重量の兼ね合いで諦めようかとも考えたけど、やっぱりハンマーも買う。スレッジハンマーを二本。もし打撃有効な魔物とか出て来たら後悔しそうだったのでチキった。

 

 もう既にこの時点で二十万とか軽く超える品を選んでるけど、ATMから上限いっぱいまで降ろした五十万は全部使い切るつもりだし、足りなかったらカードも使う。


 俺は、もう世界が一回滅ぶって確信してる。なのでお金もカードも後から意味を無くすと思ってる。だから使い切る。


 いや、だってさ。どうすんの? 飼い犬だけでも日本にどれだけ居るか変わらないのに、それを全部、自衛隊だけで殺し切れると? 普通に考えて無理だろ。不可能だ。

 

 普通の犬の暴走ってだけなら可能だったかも知れないけど、暴走してるのは犬だけじゃなくて動物の殆どだし、なんなら動物園とか絶対地獄絵図だろ。

 

 しかも魔物化した動物たちは異能を持ってて、共食いしあって自己強化までするのだ。普通に「固くなる」異能とかあって、銃も効かない魔物が居たらそれだけで詰むだろ。ライフルが効かない相手に自衛隊は何が出来る? そもそも、自衛隊って政府から許可と要請が無いとろくに行動出来ないし、銃も発砲出来ないのだ。

 

 スマホを見ても相変わらずニュースは更新されず、正直政府がマトモに動いてるとは思えない。ここまで来たらもう、滅亡とまでは行かなくても、経済は崩壊して国の体面は保てないと思った方が良いだろう。

 

 何せ異能なんて物が出て来てるんだし、仮に地獄の沈静化に成功しても、マトモに国の運営が再開出来るとも思えない。

 

 最良で他国の介入で持ち直すくらいか。でも他国でも同じような異常事態が起きてたら、まぁもう無理でしょ。文明の崩壊は受け入れた方が良い。


「まぁ、俺はフリルさえ居たら何でも良いけどさ」


 さて、武器を選んだら次はキャンプ用品と食料か。フリルの為のキャットフードも忘れずに。あれは猫の体を考えて作られた栄養食なので、フリルに長生きして欲しいなら必ず確保しなければならない。

 

 とりあえずドライフード十キロ袋を十袋くらいリアカーに積むか。それとウェットフードも大量に。フリルの食事を確保してから俺の飯だよ。人間なんて酷い雑食なんだから、最悪ここで食料を買えなくても野草とか食えるし。


「ブロック栄養食と、ピーナッツも栄養価高いよな……。あと、チョコもカロリーと栄養価が地味に……」


 お、アルファ米の徳用とかあるじゃん。何これ業務用かよってレベルの大袋じゃん。

 

 あと水も、二リットルペットボトルを箱で大量に。キャンプ用の浄水フィルターもあったら生き残れそうだよな。


「これも、これも、…………あれも、それも」


 とにかく、リアカーに積めるだけ積む。詰め込めるだけ詰め込む。

 

 テントも三人用くらいの、俺とフリルだけが使うなら少し広い高品質な物を選んだし、使い捨てライターも大量に。ファイアスターターも当然買うし、一応マッチも買う。


「あ、タバコの五十八番を、有るだけ下さい」


 必要な物を全部、店員さんに処理してもらって支払い。その時にタバコも買う。フリルが唯一許してくれた銘柄のタバコだ。

 

 もちろん同じ部屋の中で吸う事は無い。ベランダで吸ってから部屋に戻ってた。

 

 だが、基本的に服についた匂いで嫌がられるのだが、この銘柄だけはフリルも気にしなかった。むしろ好んでさえいた。俺的には他のタバコとあんまり変わらないと思うのだけど、猫的には違うのか。不思議なものだ。


「お買い上げ、ありがとうございました」

 

「はい、どうも。店員さんも生き残ってね」

 

「ええ、もちろんです。またお越しくださいね」


 とりあえず、当面の物資は確保出来た。そして武器も手に入った。


 あとはもう、フリルと合流して魔石集めに勤しもう。


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