魔物と精霊。



「あ、情報が欲しいなら普通にネット使えば…………」


 俺は気が付いて、今更ながらスマホを起動してSNSやニュースサイトを見ようとしたが、上手くいかない。


 SNSは外みたいに阿鼻叫喚で情報を取捨選択するどころじゃないし、ニュースも『野生動物が凶暴化!?』みたいな見出しの記事がアップされてるけど、続報無し。朝イチの更新から何も動いてない。もうそろ昼前なのに。


 たぶん混乱し過ぎて纏まってないんだ。つまり混乱は加速していて、今のところ終息には向かっていない。


「まぁそりゃそうだよな。犬猫なんてどこにでも居るし、基本的に人間よりも強いんだから」


 そんな相手が魔石の異能を……、そう、異能を手に入れて襲って来るのだ。多分お巡りさんレベルの武装じゃ歯が立たない。戦闘配備の自衛官くらいの装備でやっと戦えると思う。


 少なくとも俺は九ミリ弾のリボルバーだけ持って大型犬とか倒せる気がしない。詰められた瞬間ゲームオーバーだ。最低でも相手と張り合えるフィジカルとタフネスが欲しい。


「魔石を摂取すると異能が手に入る。外を見る感じ、異能は種族別? 猫や犬って大きな括りかのか、ソマリやアメショとかの細かい種別で別の異能なのか、まぁそれは今後調べていこうか」


 急速に頭が回る。


 冷静になって、何かのスイッチが入った気がする。


「……あ? いやもしかしてコレ、人間も異能持ってる? 思考補助とか、そんな感じの……」


 思考のクリアさに違和感が有り過ぎた。意識したら突然頭が良くなったような、そんな感覚。明らかに普通じゃない。


「思考補助、じゃないな。加速思考? 並行、並列? …………ああ、違う、これ単純に脳細胞の性能上げてる感じか?」


 感覚的に理解した。恐らく、人間にも魔石が発生してるのは間違い無さそうだ。


 この異能に名前を付けるとしたら、どストレートに『インテリジェンス』とかだろうか?

 

 フリルが手に入れた膂力アップなら『ストレングス』かな。いや、漢字とかにするとややこしくなりそうだから、横文字固定で良いと思うんだ。

 

 だって、例えばストレングスを『強化』と呼ぶとして、さっき外に見た柴犬のパンチを見ると、追加の魔石を食べると同系統の能力を強化とか出来そうだし、すると「強化を強化したとき、強化の強化率が……」とか訳分からん会話が発生するかも知れない。言葉を変えてもどっかしらでややこしくなりそうだから、横文字で良いのだ。カタカナバンザイ。


「フリルの異能は、そうだな。衝撃波とか出す感じの魔眼なのかな? だったら『麻痺パラライズ』って言うより『衝撃ショック』だし、衝撃の視線ショックサイトってところかな?」


「にゃぅ!」


 とまぁ、色々と状況を整理したが、外が地獄なのは現在進行形で何も解決してない。


 最終的に外の地獄が終息するにせよ、しないにせよ、俺たちは結果が出るまで生き残り、そして結果が出た後も生き残らねばならない。


 終息したとして、動物の取り扱いが厳しくなるだろう事は目に見えている。するとフリルがどんな扱いになるのか分からないので、抵抗するにしても逃げるにしても、何とか出来る力が要る。それには異能を集めるのが手っ取り早そうだ。


 地獄が世界規模で起きてて終息しなかった場合でも、共食いを続けて異能を強化し続けてる外の動物たち、そのうち完全なバケモノと化すだろう奴らを相手に生き残る為にも、やはり異能は必要だと思われる。


「普通なら意味不明過ぎてあっぷあっぷしちゃう場面なんだろうけどなぁ」


 やる事が明確に定まりつつある。


 だって、俺のフリルがさ、目の前で魔眼とか使っちゃうんだもん。もう、地獄も異能も魔石もなにも、信じるしか無いじゃん。


 それで、信じたなら信じたなりに、動くしか無い。そうしないと生き残れそうに無いんだから。


「……当面は、地獄が泥沼化した時の為に物資集めと、異能集めかな?」


「にゃんっ」


「フリル、ありがとな。マジでありがとな。お前のお陰で、異能と魔石の存在にいち早く気が付けたわ」


「にゃぁーぅ」


 少なくとも、俺とフリルとペス君が持ってた異能の三種類は確定で存在して、同系統なら多分、異能の強化じゃないかな?


 持ってない異能ならフリルみたいに異能が増える感じなのだろう。それを集めたり強化したり、とにかく力を蓄える。


 そうすれば、地獄でも生きて行ける可能性が高まるし、地獄が終息した後に、フリルの事も危険動物だと扱われた時に抵抗出来るだろう。最悪はフリルに力を集約して逃げてもらう。


 今でさえ猫特有の隠密能力にショックサイトとストレングスを持ってるんだ。逃げ回るだけなら相当長く抗えるはずだ。


「取り敢えず、改めて外に行こうか。そんで、次こそは油断せずに、襲って来る動物…………、せっかくだし、これも呼び方変えるか?」


 凶暴化した動物。魔石を体内に持ってるんだし、魔物とかで良いんじゃ無いかな。


 と言うか、そのうちマジで魔物化した動物とか出て来そうな気がする。ドラゴンとかグリフォンとか。うわぁテンション上がるけど実際に遭遇するのは勘弁して欲しいぜ。


「だけど、そうすると俺もフリルも魔物って事に? いや、凶暴化してる奴を魔物呼びで良いか。理性が有る子がフリルだけって事も無いだろうし、凶暴化して無い魔物は、……そうだな。強化種? ブーステッド? …………フリル、なんか案ある?」


「なぁう? にゃぁー」


 こっちに聞くなよって感じで呆れられた。うん、やっぱ賢くなってるよな。


 アレかな。魔石が生成されたから、その分生物としての格が上がったとか、そんな感じのファンタジーな理由なのかな。それで、魔物化した動物はそれに耐えられなくて凶暴化しちゃったとか?


 ふむ。すると、フリルは魔石の生成に耐えられた最強ニャンコって事か。ふふふ、流石だぜフリル。俺の愛猫は世界一だな。知ってたけど。


「…………なんか、窓の外は相変わらず地獄なんだけど、ちょっと楽しくなって来たわ。フリルさえ居れば、後はもう何でも良いや」


 ポストアポカリプス的なラノベに出て来る、ペットと一緒に生き残る系主人公になった気分だ。今はその序盤なんだろう。はは、テンション上がる。


「フリルは多分、正しく魔物化したんだよな。暴走して無いし。すると、強化種って言うより進化種かな?」


 魔物と呼び方を揃えるなら、魔獣? なんかマイナスなイメージあるよな。由来とか全然関係ないけど、精霊とか妖精って呼んだ方が良い気がする。


「……うん。フリル、決めたわ。凶暴化した動物を魔物、フリルみたいに正気のまま魔物化した動物を精霊って呼ぶ事にするわ。人間の魔石は脳の強化っぽいし、ぶっちゃけ普段とそんな変わらないから人間は人間のままで別に良いよな」


「にゃあ?」

 

「別の異能を手に入れて強化された人間は、まぁ魔人とでも呼ぼうか。取り敢えず俺もストレングス欲しいから、外の魔物を倒しに行こう。フリル、協力してくれるか?」

 

「にゃぅ♪︎」


 方針決定。覚悟も決まった。ならば後はやるだけだ。

 

 フリルにお願いすれば快く鳴いてくれたし、マジでフリルちゃん天使。フリルが居なかったら俺、確実に死んでる。


「よし、じゃぁ行くか。異能と物資集めの終焉世界サバイバルに!」


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