第2話③
「すまんなぁ、大してエエとこ連れてってやれんで…」
場所は変わり、夜の帳が下りる京都の街を、藤次と絢音を載せた車が走る。
久しぶりの運転にやや戸惑いながらも、隣に座る絢音にそう伝えると、彼女は首を横に振る。
「そんなこと…お買い物楽しかったし、映画も素敵だったし、おまけにあんな高そうなレストランまで連れてってくれて…満足よ?ありがとう。」
「それならエエんやけど……次、右?」
「うん。」
頷く絢音を横目で一瞥し、藤次はハンドルを切る。
付き合って一年になるが、家まで送って行くのはこれが初めてで、顔にこそ出してなかったが、藤次は僅かに緊張していた。
家に行くとなると、当然絢音は自分を部屋に招き入れるだろう。
病院から持ち帰った荷物の他に、ショッピングで買った本や雑貨もある。
とてもじゃないが、女性一人では持ちきれない。
そうなったら、狭い空間に二人きり……
泊まらないと決めてはいるが、数ヶ月ぶりの逢瀬。果たして理性が保つのか。
そんな事を考えていると、不意に絢音がこちらをじっと見ている事に気がつく。
「ど、どないしてん?そんな、じっと見て…」
「ううん別に!ただ…眼鏡だなぁって…」
「ああ。運転とか細かいもん見る時だけな。」
老眼ちゃうでと茶化すように言うと、絢音はクスリと笑ってみせる。
「初めて会った時も眼鏡してたから…なんか、懐かしいなぁって…」
「ああ…せやったなぁ〜」
あの冬から、もう一年以上経つのか…
最初は小さく震えて儚げだった彼女が、今はこうして隣で、幸せそうに笑ってくれている。
そう思うだけで、なんだか嬉しくなり、口角が自然と緩んでしまう。
「もっと見れたら良いのになぁ。眼鏡掛けてバリバリ仕事してる…カッコいい藤次さん。」
無理だよねとはにかむ彼女が可愛くて可愛くて、今ハンドルを握っているのが恨めしくなる程、今すぐ絢音を抱き締めたい衝動にかられながら、藤次はなんとか平静を保とうとする。
「そんな…カッコええやなんて…照れ臭いわ。それにせや、ワシが公判検事の時に傍聴に来れば、簡単に見れるで?…せやな、絢音が見に来てくれる言うんなら、ちょっと…頑張ってみよか?」
「ホント?!嬉しい!!」
行く行くと頷く彼女が本当に可愛いくて愛しくて、抱き締める代わりに、膝に置かれた手をそっと握ると、絢音も応えるように握り返し、指を絡める。
一生かけて幸せにしてやりたい。
ずっと、側にいてやりたい。
精一杯の愛情で、守ってやりたい。
いつかきっと、伝えよう。
永遠に、君を愛して行くと。
プロポーズにも取れる気持ちを胸に秘めて、藤次は最後の角を曲がるため、ハンドルを切った。
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