第2話
目を開けると満開の桜が目の前で咲き誇っていた。それは桜の花ひとつひとつが集まって枝、幹と連なって、青空と相まって自然が一つの作品を構成しているように見えた。こんな綺麗な景色があるんだ、と入学する中学校の校門に咲く桜の花を見て思った。
僕たちはお互い親に付き合っていることを話すことは出来なかった。なんとなく親には否定されるような気がしていたし、なにより小学生で付き合っているということを調子に乗っているとも思われたくなかった。言葉に言い表す事が難しいが、人に付き合っていることを話す事すら恥ずかしい感情を純粋な恋情だと感じた。今その恋情を思い出すと心が苦しくなる。まだ彼女の事を思っているからかもしれない。だが心の痛みの原因は別の所にあるような気がした。
お互い行こう行こうと話していた映画や遊園地はいつの間にか流れていた。こんな事自分で書くのも苦しいが正直冷めてしまったんだと思う。僕は比較的友人が多く、男女関係なく色々な友人がいた。暴力的だったり積極的な女の友人と吹奏楽の彼女をどうしても比べてしまうと余りにも刺激が無く退屈してしまった。この比べてしまう部分はきっと、親密になる方法が分からなかった上に自分自身のコミュニケーション能力の力量不足を認めたくなかった。そんな自分の弱さを、他者と比較し彼女を落とすことによって自分の身を守っていたと気付いたのは後々だった。当時の僕はそんな事はつゆ知らず「なかよくなれないのはアイツがわるい」と一方的に決めつけ距離を置くようになった。結果どこにも遊びに行くことは無く中学生を迎えることになった。
なんてことない小学生の恋愛だった。自分の弱さを自覚することは小学生の自分にとってはまだ考えすらもしない領域だった。ただ自分の弱さを知り、人の痛みを知った今は心が痛む。どこまでも心が痛い。入学式のあの日、桜を見ている自分に今会えるとしたらなんて声を掛けるだろうか。きっと僕は今を楽しめよ、ガキ。としか言わないんだろうな。それぐらい未だに自分は子供だ。
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