おうし座流星群

近藤礼二

第1話

僕を見て、そう語りかけるように星空が輝く色とりどりの満点の星空。

どんなにこの社会が醜くても変わらない物が、変えようの出来ないと思っていたものがそこにはあった。


小学校四年生の時、初めて恋をした。今考えてみるとペットへの愛情に近い愛情というか本当に人として好きでいたのかは分からない。ただ当時は相当彼女の事が好きだった。


その子は僕と同じ吹奏楽部所属で、綺麗な黒い髪で肩までのショートヘアー、少し吊り上がりつつも優しい目をした少女だった。同じ打楽器専門で四年生の時、初めて入った部活動で一目惚れをした。


当時人見知りだった僕は勿論彼女に積極的に話に行くことなんて出来なかった。小学生の時の人見知りは優しいもので、まだ外向的な性格と内向的な性格が仲良く出来るタイミングではあったが、初めて心の動悸がして上手く話すことが出来ない体験をした。

その結果、五年生が終わるころまではあくまで友達の友達程度、二人で遊びに行くなんて全く出来なかった。


夏になり、小学生として最後の夏、僕は吹奏楽部の部長になった。その年市の小学生の合唱コンクールに部活動の有志で参加した。話さなくてはいけない場面が多々発生してそこではなんとか自制しながら彼女と会話した。合唱コンクールの練習や、終わったあとの食事会、合唱コンクールの打ち上げを通じて段々と距離は近づいていった。

お互いあまり活発なタイプではなかったので関係の進展はかなり緩かったが、近くの公園で夏祭りがあると仲間内で話題になっていて、彼女と参加することにした。


午後六時、彼女の家の前で集合し夏祭り会場に行くことにした。

そこで改めて可愛いと、大事にしたいと生意気ながらも思ったことを覚えている。普段小学校で来る私服と変わりはないのに二人で夏祭りに行くということだけで何故かいつもよりも可愛く見えた。


時間ちょうどにインターホンを押す。彼女が出てきて少し周りの目を気にしてから一瞬だけ手をつないだ。そのあとお互い恥ずかしくてすぐ離した。この時玄関先から彼女の母親が微笑ましい顔を見せていた事が小学生ながらも認めてもらえた気がして少し優越感に近い高揚感があった。そのあとは普通に二人で夏祭りを楽しんだ。友人は気を遣ってか、僕たちに話しかけてくる奴はいなかった。ただ女の子は違うらしくとにかくヒューヒュー言われてたり彼女は何かと大変そうだった。


買った棒アイスとサイダーを食べながら会場からかなり外れた暗いブランコの近くに腰をかけた。そこからは転々とした星空と騒がしい祭りの音楽、太鼓櫓を囲んだ赤白の垂れ幕とそれを囲う盆踊りを踊る人たちが華々しく祭りを飾っていた。

「今日はありがとう、来てくれてうれしかった。」

「うん、こちらこそ」

拙い言葉を繋げてなんとか会話をする。暫く静寂が流れる。

彼女はきっと僕の言葉を待ってくれていた。けれど僕にはこの先に進む勇気が無かった。

「あ、この後男子みんなで花火大会するの忘れてた、このあと祭り残らないなら家まで送るよ」

「あ、そっか。じゃあ帰ろ、かな」

最大限の勇気を出して彼女にハグをした。ただ言葉はどうしても出せなかった。


「じゃあまた、学校で」

「うん」

そうして最後にまたハグをして別れた。


男子たちの中に潜ると様々な事を聞かれそうだったが、当時男女を束ねる学級委員長だったからか詮索してくる奴はいなかった。女子だけが散々冷やかしてきてなんというか腹が立ちながらも優越感があった。クラスで一番可愛い女の子といい関係になっているというのは非常に気持ちが浮いた。それを人に知られることに優越感を感じていた。


夏が終わり、秋が終わり、冬が終わり三月。ハグですべてを出し切ってしまった自分はその先に進むことが出来ず、友達複数人で遊ぶときに隠れてハグするだけで、修学旅行でも進展はなく、特に何も起きないまま卒業シーズンにやってきた。

僕らの小学校はみんなまとめて近くの中学校に通うことになっているのでそれも勇気を振り絞らない言い訳になっていた。


ある日男子の会話の中で卒業するし好きな人に告白しようぜ、みたいな話の流れになった。勿論その話に便乗するやつもいて僕も便乗した。そうして告白し付き合うことになった。


話は前後するが小学校五年生の時に僕は一度付き合ったことがある。仲良し男女四人組でその中の一人の女の子と付き合った。ただ当時の僕は何を思ったのか全く覚えていないが、僕から告白して三日後に僕から別れを告げた。きっと何となく付き合えそうな流れ、と察知して、仲間内で一番最初に付き合う事に優越感を感じていた僕はその流れで告白したんだろうと思う。ただ、好きでもないのに相手の気持ちを踏みにじるもの失礼だし何より付き合っていて幸せではなかったわけではないが、やっぱり吹奏楽の彼女の事が好きで別れを告げた。相当頭がおかしいやつだったことに変わりはないが、その時の彼女の言葉が今でも心に刺さっている。

 三日経ち、彼女に別れを告げると彼女は了承し最後に

「Aくんの方が本当は好きだったからいいよ」

と話してきた。Aは仲良しグループのもう一人の男だ。

 もちろんこっちも邪な気持ちで付き合ったが、二番目として妥協された事実を知って心がかなり痛んだ。苦い初彼女の思い出だ。


話を戻し、三月の頭に僕と吹奏楽の彼女は付き合い始めた。僕は当時スマートフォンを持っていたが彼女は箱入り娘で持っていなかったため、メッセージ交換できるアクションゲームを僕は自分のスマホに、彼女は母親のスマホに入れ、ゲームをやってる体で隠れてメッセージを送りあっていた。OOって映画面白かったよ、とか今度僕たちだけでOO行こうよ、とか沢山の事を話した。ただその約束はどれも叶うことは無かった。


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