第12話 石女に効く薬毒2
「どうしたのよ? 相田さん、何か疲れてない?」
休憩時間にパート仲間の吉森優子さんが声をかけてきた。
「え? ああ、まあ、大丈夫よ。ありがとう」
優子さんはすぐご近所の人で、夫の学生時代の友人の奥様だった。
吉森家には四歳の男の子がいて、それも義母が毎日のようにうらやましく言う。
優子さんは良く出来たお嫁さんで同居もうまくやっているようだし、なんせ孫の存在が大きい。それが義母にはうらやましくて仕方ないのだろう。学生時代は優子さんのご主人よりも夫の方が成績も良かったのに、とかぶつぶつ言い出している。
優子さん自身はとてもいい人なので、同じパート先でも親しくさせてもらっている。
「もしかしてお姑さんにうるさく言われてるんじゃないの?」
「え?」
優子さんは水筒のお茶を一口飲んでから、
「お宅のお姑さん、毎日、うちの義母に何かしら言いにくるみたい」
と言った。
「え? それ、私の愚痴を言いにお宅へ?」
優子さんは気の毒そうな顔で私を見た。
「まあ、主にお孫さんの事ね。お宅はご主人の妹さんに子供がいるからいいじゃないって言ってはいるんだけどねぇ。毎日のように来てるんでしょ? だからそんなにこの世で一番不幸みたいに嘆かなくてもね」
「そ、そんなに不幸とか言ってるの? よそのお宅で……ごめんなさいね」
私は穴があったら入りたい気持ちで一杯だった。
よその家まで行って私の愚痴を言うなんて。
「うちの義母はあまりお嫁さんの愚痴に付き合う人じゃないのよ。よくそれだけ毎日愚痴る事があるわねえって笑ってたけど」
「ご、ごめんなさいね」
屈辱と他人に迷惑をかける義母の恥ずかしさで頭がかーっとなってしまった。
「いいのよ、うちの義母もね、息子さん夫婦の事なんだからそんなに口を挟まない方がって言ってるんだけど」
「もう……別れた方がいいのかしらね。お義母さんはそれを望んでるんだけど……私が年上だから最初から気に入らないみたいだったし」
「まあ、そんな事で。ご主人はなんて言ってるの? 別居しちゃえば?」
「それこそ許されないわ。出て行くなら私だけよ」
そんな休憩中の会話は実は毎日のように繰り返される。
それだけ義母が毎日のようにご近所で私の愚痴をこぼしているという事だろう。
優子さんだけではなく、このスーパーでパートをしているご近所の奥様は多い。
義母がよそのお宅で愚痴をこぼし、それを聞いた家人がまた夕食の話題にするのだろう。
身内の恥を晒しているようなものだが、義母にはそれが分からないらしい。
とにかく私の事が嫌いなのだから。
恥よりも私を追い出す事のほうが大事なのだろう。
私はため息をついた。
優子さんはきょろきょろと休憩室の扉の方を見てから小声で、
「あのね、いい薬があるんだけど、試してみない?」
と言った。
「薬?」
「そう、漢方みたいなのでね。知り合いが不妊症でね長い間悩んでたんだけど、いい薬屋さんが近所に出来てから、そこへ相談に行ったら処方してくれて、それがびっくりなの。飲み始めて二ヶ月で妊娠したの。体質改善かなんかなのかしらね」
と優子さんが言った。
「本当に?」
「ええ。そのご本人もすごく驚いて。その後元気な赤ちゃんを産んでね。家庭も円満よ」
「ど、どこの薬屋さんなの?」
私は優子さんの腕にしがみついた。
「あ、ごめんなさい」
「いいの。あなたもそうとう切羽詰まってるものね。でも結構高額なの。大丈夫? 援助は無理なんでしょう?」
「だ、大丈夫。私の母からもらったお金があるの。治療費用の足しにしなさいって。まだそれには手をつけてないから。でも……私でも妊娠できるのかしら……」
「とりあえず、一度相談に行ってみたらどう? その薬屋で話を聞いてみたら?」
「え、ええ。そうね。そうする」
「念のためにあなた一人で行ったほうがいいわ。誰にも内緒でね。そう、旦那さんにも」
と優子さんが言った。
「どういう……意味?」
優子さんは首を振って「薬屋さんに行けば分かるわ」とだけ言った。
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