第11話 石女に効く薬毒

「三年子無きな去れって、昔の人は言ったものだけど。最近の石女は平気な顔で居座るから本当に憎たらしいったら。不妊治療にさんざん息子の金を使ってさ、ようやく妊娠したと思ったら流産なんて!」

 義母が居間でたびたび義妹にそんな事を言っているのは知っていた。

 義妹がさもありなんという顔でうなずいて見せるのを視界の隅でとらえるのにも慣れた。

「本当よね、ママ、お兄ちゃんたら本当に可哀想、自分の子供を抱っこ出来ないなんて、何の罰ゲームよ。まあ、その分うちの子を可愛がってくれるのはいいんだけどさ」

「孫を抱けないなんてなんて不幸なのかしら。だから年上の女なんて反対したのよ。結婚した時、正樹は二十五であの嫁三十一よ。もっと若い娘と結婚したってよかったでしょうに。あれから四年でもう三十五! 何度妊娠しても駄目なんだから、もう子供は産めないだろうし。この家も終わりね。あたしもお父さんも孤独に死んでいくんでしょうね」

 この頃になると義母は涙声になっている。

 小姑が慰めの言葉をかけるのも、そこから自分の家へ援助して欲しい流れに持って行くのもいつもの通りだ。

 私は相田智恵子、三十五歳。 

 義母が話していた通りに、夫と結婚して四年、夫より年上な事と子供に恵まれない事を理由に義母は私達夫婦の離婚を望んでいる。不妊治療に通ってようやく妊娠はするが育ちにくいらしく何度も流産をしている。

 

 義妹と義母はいわゆるピーナッツ親子と言うやつで仲が良い。

 義妹は嫁いでも三日に一度はやってきて二人で買い物だ、ティータイムだとやっている。

「智恵子さーん、紅茶のおかわり、気が利かないわね。本当」

 と義妹が空のカップを運んできてからそう言った。

「私、もうパートに行かないとならないんです。今日は遅番だから。お湯は沸いてますから。お願いします」

「パート? ああ、そうね。行ってらっしゃい」

 と珍しく義妹がにこやかに言ったので、あれ、とは思った。

「はい」

 台所から出て行こうとした私の背中に、

「あんたのせいでパパもママも孫を抱けないんだから、治療のお金くらいは自分で稼がなくちゃねえ。惨めなパートでも頑張って行かなきゃ」

 という刺々しい声が突き刺さった。 


 義母と義妹が私の事を気に入らないのは最初から分かっていた。

 年上だという事がとにかく気に入らないようだ。

 夫は義母に似て容姿が良い。知り合ったのは会社だが、そこでもモテていた。

 義母も昔は会社で秘書をするなど頭も良く、そして美人だった。

 だから若くて美人の嫁に来て欲しかったのだろうと思う。

 確かに夫には他にも選ぶチャンスはあったのだから。

 結婚当初から子供を産めるかどうかを酷く気にしており、年をとった女の羊水がどうのというのは二日に一度は言われた。

 その後に嫁いだ義妹がすぐに懐妊し、元気な男の子を産んでからは拍車がかかるようになり、離婚しなさい、出て行きなさいと言われない日はない。

 義母にとってはすでに子供を産む産まないではなく、私という女が息子の嫁であるのが我慢ならないようだ。

 もちろん息子である私の夫の前ではそんなことはおくびにも出さない。

 食事時には当たり障りのない会話で皆が笑顔で過ごしている。

 私も夫には義母や義妹の仕打ちは言っていない。

 出来れば産んで大事に育てるつもりはあるけれど、出来ないのを無理に治療してという気は無かったのだが、義母や義妹の攻撃に疲れ果てていた。

 夫も治療して授かるのならば、と不妊治療で病院へ通う日々だがもう止めようか、と思っていた。

 その事を話し合いたいとは思っている。夫にもそう話しているのだが、忙しい、忙しいばかりで話し合いの時間すらとってくれない。夜も遅く、休日も仕事だと言っては出かけていく。夫と二人なら子供がいなくても楽しい生活を送れるかもしれないが、夫の親との同居は子供がいないととてつもなく心が寒い。二人きりのときは私の味方でも、産んで育ててくれた親が絡むと私の夫は半分に引き裂かれてしまう。

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