デートっぽいのにデートっぽさが全くない件
土曜日、約束どおりに駅前に着く。その一角にもたれかかる幼なじみの姿を認めた。あいつは俺を見かけると緩やかにこちらに寄ってきた。
「おーっす。ってか前も思ったけどでけえな」
俺の元に寄ってくるなり、見上げながらそんなことを言う。俺自身はそんなに背丈のあるほうではないと思うが、こいつはそんな俺の、肩にも届かないほどに背丈が低い。
-メグがチビなだけだろ。
「うるっせ」
見事なローキックが、俺の膝を貫いた。威力はそこまでないものの入り方が良かったのか、膝から力が抜けていく。
「ちょうど良い高さになったなぁ。見上げんの疲れるからさ、こんくらいに縮んでくれやん?」
-無茶抜かせ。んでさ、今日、なんで呼び出したのさ。
「アタシのゲームオススメ巡りするのに、中古ゲームショップ回るんやよ。そーゆーわけで、行っくべー」
そう言ってくるりと翻り、一人で歩いていく。俺はそのとても小さい背中を見て独り言ちた。
-見失いそうで、なんか怖いな。
「はぐれそうなん、不安よな。メグ、動きます。おい、手ぇ繋ぐぞ」
-要らんわ。てか、聞こえてたのかよ。
「メグちゃん、地獄に耳ついてるかんね。でも良いのか?あんたが迷子コーナーでメグちゃーんって泣き叫んでる姿が目に浮かぶようやけど」
こいつ、俺を何歳だと思ってやがる。このままこいつのペースに乗せられるのも癪なので、俺はメグの背中を叩いて、案内を急かした。
「…遠慮しんくても良いのにな」
何かを呟いた気がするが、ロクでもない事を言ってそうで。とりあえずスルーすることにした。
メグの案内で、中古ゲームショップに入っていく。その瞬間、メグは目を煌かせながらこちらを向いて、手首を掴んで引っ張ってくる。ショーケースの前で立ち止まると、食い入るように中を眺めだした。
「やっぱ中古ゲームショップといえばプレミアゲーのショーケースやんな。おー、レッスルクイーンズあるやん。やっぱ目ぇ引くな-」
なんかもう、中古ゲームショップの楽しみ方を熟知されてらっしゃる。
-何このゲーム。メグ先生、解説お願いします。
「うむ、苦しゅうない。…っても、アタシも詳しい事はあんま知らんけど。プレミアゲーといえばコレみたいなとこあるやんね」
メグはちょいちょいと値札を指差す。もう二十年近く前のゲームソフトだろうにも関わらず、取引価格は三万円近くなっている。
「割と安めで頑張れば手が届きそう…ってカンジの価格でさ、パッケがデカいから
-は?この値段で安め?
「まあね。アタシも積極的に買おうとは思えん値段やけどね。でもほら、奥のん見てみ。例えばあっこに見える奇想天界なんて、二十万オーバーやで」
-うわあ、マジだ。てか、こんなの買う人いるのか?昔のゲームで、遊ぶのにも一苦労するだろうに。
「それでも買いたい人がおるやんね。ものの値段ってのはさ、大体、需要と供給、それに相場感覚や利潤みたいなんが加わって決まってくるし。需要なしに値段なん付けられんよ。供給が極端に小さいから、こんな値段になってまうだけでさ。現にアタシも、将来的には買いたいな-とか思ってるし」
-お前もかい。
「ししし。まあね。あ、そうやこんなとこ眺めとってもゲーム見れへんやんね。こっちこっち」
そう言って、俺の手首を掴んでぐいぐい引いていく。ちゃんとついてくから、そんな引っ張んなって。
連れられた先は、Play Stageのコーナー。ただし、5でも、4ですらなく、初代。
-なぜ、初代?
「は?初代でも十分楽しいでしょーが。それにプレミアついてなけりゃだいぶ安いから、買い放題のやり放題だぜー。あとは、せやな。初代プレステとかサタンシローなら実機なくても動かしやすいって側面もある。2とかキャストドリームとかになると一気にハードル上がるかんね。特にキャストドリームなんてサイアクよ。あのディスク、独自仕様になってて、CDとかDVDのディスクドライブやと、物理的に読み込めやんのよね。やから必然実機が必要になる」
昔からだが、こいつの話にはついていけない。こいつが合わせる気がないのか、俺が至らないのか。でもコイツは意外に優しく、飽きさえしなければ面倒見は良い方なので、適当に流して、良きに図らってくれることを願う。
「お、ときめきナイトやん。これ選択肢が時折イカれてて
言いながら、メグはひょいひょいとかごにソフトを突っ込んで行く。
-何やってんの。
「ん?オススメのゲーム、突っ込んでってんの」
-いやそれは分かるんだけど、そんなに買うのか?
「まあね。こんなけ
…大丈夫だったろうか。俺は財布の中身を確認する。
「おうおう、旦那ぁ。そいつは仕舞っておいてくだせえな。アタシが個人の趣味を一方的に押し付けたいだけの話で、カンパさせるなんて無粋な真似はしませんぜ。ヘヘヘ…」
-何キャラだよ。
ツッコミを入れてやると、またしししと笑いだした。
結局、ゲームソフトを十本ほどカゴに入れて、「あ。念のために実機も買っとくか」とか言いながら、Play Stageの本体もカゴに入れてからレジに並ぶ。今どきのゲーム一本を新品で買うのと大差ないほどの値段で済んでしまっていて、ちょっと衝撃的だった。
ソフトとゲーム機がたくさん入ったビニル袋を、メグの代わりに受け取る。
「お?せんきゅ。気ぃ利くやん。まだ行ける…と思ったけど、そんなけあれば暫くは十分か」
-確かにこれ以上は…重たいし。でも帰るには日ぃ高いし、せっかくここまで足を運んだにしては、ちょっと遊び足りないな。
「ならさ。これからウチ来ねえ?こっから近いやんね。でさ、今日買ったコイツらで遊ぼうぜ。ママンもダッドも居ないから遊び放題やしさ」
そんなメグの提案を、俺は快諾した。おじさんやおばさんと会えないのは残念だけど、乙葉ちゃんとも久しく会っていないし、すごく楽しみに思えた。
「おけ。んじゃ、こっち」
軽い足取りで俺を先導するメグ。その背を追いかけている内に、どことなく、違和感のようなものが心の中に現れた。でもその正体に最後まで気付くことのないまま、メグの住むアパートにたどり着いた。
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