ゲーム以外にもいろいろやってた件
学校でバカやってる友達に、「インキュバスクエスト」なるゲームをオススメされた。なんでもインターネット上でたまたま見つけたらしいのだが、これまた十八歳以上推奨で留めておくのがよろしくないほどに、際どいゲームであるらしい。
自宅に帰った俺は、そわそわしながらダウンロード開始する。遊んでみると、露骨な表現こそないものの、ツボを抑えたような際どさがあって。確かにこれはまずいなどと、生唾を飲み込む。ただ、プレーしているうちに、ひっかかることがあった。キャラのうちの一人の声が、どこかで聞いたことがある気がするのだ。いやまさかと思いながら遊んでいると、マンダリンからのDMが飛んできた。
「ぽきた 魔剤ほきゅーちゅー」
真っ昼間からコイツは、何をやっているんだ?
「納品終わったからどんだけでもやれるぜーぐへへ」
「っつーわけでインはよ」
おつかれーと軽くDMを返し、ボイスチャンネルの中に入っていく。その十分ほどのちに、ようやくあいつは入ってきた。
「おーっすぅ。あー、ねむ」
-あの、メグさん?まだ17時なんですけど?
「うるっへ。アタシゃ今起きたばっかやんね。あー、ダメ。魔剤魔剤…」
-魔剤?なにそれ。
「エナドリよエナドリ。コレがなくちゃやってらんねー」
-…名前からしてあまり良さそうなものじゃないとは思ったが。あんま飲み過ぎんなよ?
「だいじょうぶよーまだよんほんめー。ちびちび」
-飲み過ぎだバカタレ!
「おおー、すんげーツッコミ。おかげで目ぇ冴えたわ。もうねむいけど。すーなーどーけーいーのーようーにー」
コイツは…コイツはホントに、もう。物言う気も失せてしまった。
「あ゛ー…復活してきだあー。でもこの調子やと地獄級は多分無理やから、他のとこでいい?」
-良い…としか言いようもないけどな。俺は連れられた先で、即死する以外の仕事はできていないわけだし。
「とりま素材みーして。…うーんこんなもんか。ならあっこかな。ファストトラベルするからパーティ入っといて」
そう言って、あいつのアバターは俺の画面から消えた。いや早えわ。
「あ?あんたが遅いだけやん。ワの国におるから早よ来いな」
仕方なく、俺もファストトラベルでワの国に向かう。そしてメグのパーティに入り込み、一緒にクエストを受ける。
ローディングの間に、気になっていた事を確かめてみる。
-友達が教えてくれたゲームに、メグによく似た声のキャラがいたんだけどさ。
「ん?なんてタイトル?」
反応が意外だった。「そんなこともあるやんなー」「気のせいやない?」とか、そんな感じで適当に流してくれてもよかったのに、なんか、食いついてきた。
-インキュバスクエストってやつ。特にこの、メロウって子がよく似てる気がする。
「あー。ソレ、アタシやわ」
-…はぁ。マジですか。正直に言うと、否定して欲しかった。
「っつーか、そのゲームのキャラの声、全部アタシの声をサンプリングして作ったやつやわ」
-は?
「なんならそのゲーム。作ったの、アタシやわ」
-はああ!?
驚きのあまり、もはや言葉が出てこない。
「はあって言うゲームしてるんやないんやから、もうちょい語彙用意したら?」
とは言っても俺自身半ばパニックを起こしていて、何を言ったら分かんない。
「どう?あのゲーム。イケてるっしょ」
-いや、あの。ただただ、反応に困るんやけど。
「ん?反応がイマイチ…あそうか。仮にあんたが
ローディングが完了し、俺たちのアバターはクエスト画面に到着する。それでも俺は困惑したまま立ち直れなくて、一歩も動けない。一方のメグは何事もなかったように、先へ先へと進んでいく。
「おーい、どしたー?あれ、まさかなんかトラブったかな。きこえてるかー?」
-…ああ、一応聞こえてるよ。画面も問題ないよ。
「なら問題ないな」
問題は大アリではあるけど。
「そうかー。アタシの作品が、見知らぬ男子高校生の性癖を歪めてしまったかー。イイね、悪くない。こっちのみーずはあーまいぞっと」
どことなく、メグの声に喜色に満ちて浮かれてるように聞こえる。ぶっちゃけ、気色悪かった。
幼なじみとして心配になったので、一応に聞いてみる。
-コレ以外にはないよな?
「え、声?ゲーム?どっち?」
-声の方。ゲームについてはもう、好きにしてくれ。
「あー大丈夫やよ、アタシの声盗られてない限りは。言うてアタシも未成年やから、
またも、言い方が引っかかる。悪い予感のほうが勝ってしまい、ついつい問い詰めてしまう。
「いやーあのゲームの声、なかなか好評やったらしくて。同人声優としての依頼もちょいちょい来てるんやわ。出やんって言ってるのにアダルトの依頼掛けてくる不届き者が一定数いて辟易としてるけど。コレもママンには黙っててね?ダッドには言ってあるけど」
同人…声優?なんだそれ。もうもはや、我が幼なじみが俺の知らない領域まで、その好奇心を推進力に翔び立ってしまっているのを、まざまざと見せつけられていた。
-で、そっちは儲かってんの?
「んー、今は全然。必要経費分くらいしかもらってないからね。でも将来的にこっちの仕事を本格化させること思ったらさ、セルフブランディングしなくちゃでさー。今は利益云々よりも露出増やして実績積みたいよなって」
なるほどなー。売り込むためにどうするか、をちゃんと考えてるあたり、とてもメグらしかった。そして、売り込みをかける、知名度を増やす手段として、最近注目を集めつつあるものがあることを、俺は思い出していた。
-そういや最近YouTideで声優さんだかVTiderとかが色々出てきてーって友達が言ってるんだけどさ、ああいうのはやんないのか?メグ、ゲーム上手いし、映えると思うんやけど
「動画制作は嫌。前にゲームのPV作った時に懲りたわ。ストリーミングは、んー…セルフブランディングの一環とみればアリだけど、まあアタシには無理。トキシックやし」
-トキシック?
「暴言吐きってこと」
-いや、あんま暴言吐かなくね?
「ハクスラでどうやって炊くんさ。Apes Legendsとかさせてみ?秒で吐くから。秒で。げろげろーって」
-汚いわ。
そうツッコミを入れた時、しししと笑うメグの声が聞こえてきた。俺、なんか変な事言ったろうか。
「ししし。いや、変じゃない、悪くない。でもくっだらねえ」
そういって、暫く笑い転げているらしい幼馴染の声を、ヘッドセット越しに聞いていた。画面にはMission Failedの文字が浮かび上がっていたが、メグはだからなんだと言わんばかりに笑っていて。
俺もなんだかおかしくなってきて、つられて笑っていた。
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