好きなゲームが全く分からない件

 そういや、メグの好きなゲームってなんなんだろ?灰色に覆われる画面を眺めながら、ちょっと気になって、尋ねてみる。


「あー、これ以外で?つっても嫌いなやつのが圧倒的に少ないけど。まあでも…そうやね、ハクスラは特に好きかも。であぶろ!とかGrim Twilightとかボーダーランナーとか」


-待って。早速タイトルも、いや、ジャンルすら聞いたことないんだけど。


「は?ハクスラ知りゃん?マジで言ってる?今もやってるやんね」


-いわゆるハクスラ…が今やってるMORPGみたいなゲームとして、少なくとも俺は、他のゲームはやったことがないし、聞いた覚えもない。


「はーコイツ。あり得ん。ゲーマーやっててハクスラやらんなんて人生全損してるよ。果たしてそんなやつがこの世にいるのだろうか。いや、ない」


-全損とまできたか。俺の人生の全部を否定してくんのか。他のジャンルはどうなん?例えば、アクションとか。


「アクションゲーやと…MonodoraとかRabiRabiかな。メトロイドヴァニア系が好きかも」


-やっぱわかんねー。RPGは?


「言われてみればRPGはあんまやらんかも。Lanceとか、ドラゴンナイツとか?」


-なんでこうも知らないタイトルばっかり出てくるんだ!RPGでドラゴンといえばクエストじゃないのか?


「あー、そうかも。でもアタシ、あれ好かんのやよね。やりはするけど、なんというか、心惹かれないというか、踊らない。味方が即死魔法ばっか打って、途中で耐性を学習して頻度が減るけど、どっかでたまたま通ったりするとダメージ期待値が一番でかいからってまた即死魔法ばっか打ちだすのはいかにもAIってカンジがして好きやけど」


-いやあの。そんな話知らないんデスケド。


「愛が足らんよ、愛が」


-無いわ、んなもん。っつーかメグお前、好かんっていったばっかじゃんか。


「それとコレとは話が別よ。『書いた通りには動くけど、思ったとおりには動かない』を体現してて、なんだか愛しくすら思えんの。あれは、どちらかってっと学習した通り、やけど」


-よく分からん。


「VBAでもやってみたら分かるかもよ?あんたのパソコンにもエクセル入っとるやろし、今すぐにでも試せるんやないかな。VBAなら社会人になってからも仕事で活かしやすいやろし、悪くないと思う」


-なに、VBAって。初耳なんだけど。


「オフィススイート用のプログラム言語って感じのやつ。オフィススイートを制御する、って思想で設計されてるから、ぶっちゃけ応用性は最悪レベル。やけど、ファイルI/Oも出来るしデータベース構築もリレーション組むのも出来るから、まあかなりのことができる」


-へーなるほど?そんなのがあるんだな。


 とは言ってみたものの、何を言っているのかが二割も分からなかった。なのでこの件はもう流すこととして、とりあえず話を戻してみる。


-ギャルゲとかはやるのか?


「…アタシを誰や思ってんの?ギャルゲは大好物。9-Queue-きゅうとかCLOUDとかイイね、悪くない。あ、でもやっぱ9-Queue-はダメかもしんない。あれの妹、やかましさ加減がうちのにめっちゃ似てる」


-うちの…ああ、乙葉ちゃんか。もう話したの随分前な気がするけど、元気にしてるの?


「あー、うん。むしろ元気さ余って、やかましさ加減三割増しってカンジ」


-三割って。


「あいつも中学上がったし、新しい環境で友達作って馴染んで、ぼっちの子もほっとけなくて…って心を砕いてるっぽいね。あいつ、ああでめっちゃやし。その反動なんか悩んでるんか知らんけど、ウチに来た時もめっちゃ喋るし、ママンもアタシに愚痴ってくるくらいやし」


-へー。頑張ってるんだな。高校デビューでずっこけて来なくなった誰かさんとは大違いじゃん。


「うるっせ。アタシは別にいーんだよ。あんなやつらと絡みたくもないし」


-…やっぱ来ないのか?学校。おじさんの言うように、学生時代、謳歌したほうがいいんじゃないの?


「今更行っても、槍玉に上げられるだけやろ。やだぜーそんなの」


 中学に上がる前に引っ越ししてそれっきりだった、特に気の合う友達と高校で久しく再会出来ただけに。メグの言ったことはちょっぴり寂しくあった。


「そーいやあんた、なんでいきなりアタシの好きなゲーム聞いてきたん?あ。もしかしてなんかオススメして欲しいとか?」


-そんなんじゃねえって。


「いやー隠さなくても分かるよ。こう見えてメグちゃん、天才やから。んじゃ明日十二時に新町駅に集合な」


-は?明日学校なんだけど。それに、ほら。納期はどうした。


「あ。忘れてたわ。んじゃ来週の土曜ね」


 こいつは、ホントにもう。そして灰色に広がる画面を眺める。Mission Completeの文字が表れ、リザルト画面へと切り替わる。ドロップの内容を確認すると、その中にレアと書かれたアイテムが一つ、紛れ込んでいた。


「レアドロ出たの?でもそれ使わないから気にしなくていーよ」


 俺はとても、虚しくなった。

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