うちの幼馴染がゲーマー過ぎる件

げっと

引きこもりでゲーマーな件

 学校から帰ってきて、いつものようにパソコンをつける。それを見計らったかのように、BiscordのDMを飛ばしてくるヤツが一人。Line全盛期のこの時代に、わざわざこっちでコミュニケーションを図ろうとするヤツなんて、想像に易かった。


 Biscordを開いてDMの主を確認すると、案の定、マンダリンという名前の隣に未読メッセージ有りの目印がついていた。開く前にもう一度通知音が鳴って、思わずビビってしまう。


「はろは」

「帰ってきたろ はよ構え」


 なんでコイツ、俺が帰って来たのを把握してるんだ?昔は隣同士だったから俺の帰って来るのも見えただろうが、あいつは中学に上がる前に引っ越ししていて、今はもう、互いが帰宅するところを見ることはない。


 じきに通知の連打がやってきて更にめんどくさいことになるだろうから、とりあえずいつものサーバー-そこにはあいつとその妹しかいないけど、その妹は殆ど入ってこないから、実質二人きりのサーバーになっている-を覗いてみる。案の定、ボイスチャンネルにすでにマンダリンあいつの名前が見える。面倒になるまえにとっととそこに入っていく。


「おーっす。来た来た」


-おーっすじゃねえわ。んで、何の用さ。


「は?パワーレベリングに決まってるやん。ほら、インはよ」


-決まってるっても言われてもなあ。手伝ってくれるのはありがたいけどさ。


「うるせー。はよ来い」


 というわけで、早速あいつと一緒に遊んでいるMORPGにログインする。やがてゲームの世界が画面一杯に繰り広げられていく。操作が出来るようになった頃には、蝶の翼を背中に生やし、無数の盾を腕や胴、頭にまで引っ付けた、Citrus reticulataマンダリンオレンジという名前のプレイヤーが既に控えていた。だから、なんで、俺の前回のログアウト位置で待ってるんだよ。


「おーっす、来たな。さて、どこ回る。何が望みか言いな」


-って言われてもな。逆には何が欲しいんさ。いっつも手伝って貰ってばっかなのも悪い気がするんだけど。


「アタシ?いやせめて星6でビルド固めてから言いな。そうでもせんとエンドコンテンツ回れやんやろ」


 俺がこのゲームを初めた頃から、いや、もしかしたら幼稚園のころから、こいつはずっとこの調子だ。悪気もなく俺を、こいつが面白いと思っている、いろんなところに引き摺り倒す。それを面白がっている俺が居ることも否定はしないが、時にすごく鬱陶しく思う事もある。


「あー。そういや片手剣ビルド完成させるんちゃったっけ」


-ああ、そうだったわ。それで思い出したんだけど、最近遠隔片手剣って話題になってるけど、アレどうなの?


「あーあれ?完成したらえげつな強いけど、あんまオススメ出来やんな。普通に弓でステップパシャパシャしてカイトしたほうが強いしおもろいってのがアタシの見解。武器がソーンブレイズで固定になる関係でビルドに融通効かへんし。あとスキルと装備の素材要求がえげつな高くて、どっかで妥協せんと無課金じゃまず無理。ガチャでソーンブレイズ引くのも加味して、完成まで一年は覚悟したほうがいいね。それまでに別のOP出てくるっしょ。今んとこ、フツーの盾持ち片手剣ビルドのが敷居低くて無難で強いし、同じ程度に妥協するんやったら弓のがダメージ出るし被ダメージ期待値も低く出来るな。ワンパンで死ぬ死なんの差はあるけど」


 俺の好きな片手剣で遠隔攻撃出来ることに、ロマンを感じてたんだけどな。げんなりしながらデイリーガチャを回すと、星6確定の演出が出てきた。期待もそこそこに開いてみると、ソーンブレイズと書かれた片手剣が出てきた。嬉しさのあまり、口が滑ってしまう。


「は?引いた?おーし、アタシの興味と好奇心の餌食にしてやる。早速地獄級の周回マラソンや行くぞ」


-え?地獄級?あのーメグさん?上級から順に回りません?


「それしても良いけど、完成するのいつになるか分からんで。言うたやん。素材要求がえげつないって。やから地獄級回って一番めんどいの集めて、他のをサブドロに期待するのが一番効率いいの。二百、三百?周くらいは死にまくることになる思うけど、ま、頑張って」


 そのまま、回避不能な攻撃の降り注ぐ地獄のようなステージの周回をさせられた。俺は即刻で死んで置物になるけど、メグはそんな攻撃たちをものともせずに、盾をたくさん引っ付けた両腕で敵をガシガシ殴りたおしていく。見た目さえかっこよければなあと思いながら、死んではお祈りし、死んではお祈りするだけのゲームを続けていた。そんなゲームでの俺は手持ち無沙汰で、暇なわけで。脳が、自然と話題を探していた。


-そういやさ、メグ。今日も学校で見かけなかったけど、またサボったのか?


「あーうん。納期近いしねー」


-は?ノウキ?なにそれ。


「端的に言えば、バイトに忙しいのよ。まーあとはエビ取ってプッシュするだけだから、作業自体は大したことないけど、物量がね。あー、ママンには言わないでよ?めっちゃキレるから。ダッドには言ってあるから大丈夫やけど」


-あー…お前のお父さん、そのへん、相当に寛大な人だしな。てか、高校はどうすんのさ。卒業どころか、進級もヤバいんじゃないの?


「この調子やと多分足りやんね。そのへんもダッドに相談してんやけどさ、バイトもだんだん忙しなってきとるし、もうやめよかなって思ってさ。でも日本で中卒は流石に不利やからって、通信制はどう?って話はされた。多分、そのほうがええやろなーって思ってる」


 通信制か。確かに、そのほうがメグには合ってるかもしれない。学校でメグに会える可能性が万に一つもなくなるのは、ちょっと寂しい気もするけれど。


「あと今後三ヶ月くらいのスケジュールをダッドに話したらさー。流石に仕事取りすぎって怒られた。もっと休めー学生謳歌しろーってさ。アタシ的にはさ、あんなとこに軟禁されるくらいならこのまま引きこもって好きなことやって、時折、あんたに構ってやったほうが幸せなんやけどさ」


-いや、構ってほしいのメグのほうだろ?俺は巻き込まれてるだけなんだけど。


「それもそうか」


-いや、そうでしかないだろ。


「どうどう。そんな細かい事気にしてたらハゲるからやめたほうがいいよ」


 そんな由無しことを話しながら、メグは淡々と俺を引きづり回す。五十くらいを境にもう数える気力も失せてしまったが、メグは飽きる様子をおくびにも見せず、ただ淡々と、敵を蹂躙し続けるのだった。


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